【今週グサッときた名言珍言】


「もう奇跡としか言いようがないですね」
(草刈正雄/テレビ朝日系「徹子の部屋」5月5日放送)


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 73歳となった現在も、若々しく第一線で活躍し続けている俳優・草刈正雄。56年もの芸能生活を振り返った一言が今週の言葉だ。


「奇跡」といえば、3年前のNHK「ファミリーヒストリー」(2023年8月14日)で、朝鮮戦争で戦死したと教えられてきたアメリカ兵の父が、実は戦死しておらず、その後の消息が判明したのも大きな話題となった。名前の正確なスペルも分からない中、たどり着いたのは奇跡としか言いようのないもの。13年に父は亡くなっていたものの、草刈はその親族と対面を果たした。


 母子家庭で育った彼は、お金になるのならとモデルの仕事を始め、上京すると、高名なCMディレクター・杉山登志と奇跡的に出会い、資生堂のCMに抜擢されて人気となり、俳優デビューにつながった。だが、その直後、人身事故を起こしてしまう。


 自責の念にかられた草刈は、ドラマを降板し、引っ越ししてまで被害者の入院先の病院に通った。「役者としての未来は絶たれた」(講談社「現代ビジネス」23年12月29日)と思っていたが、奇跡が起きた。この行動が“美談”として報じられたことで、映画のオファーは絶えなかったのだ。


 しかし、30代になると仕事は激減した。そんなとき思い出したのは、20代後半の頃に共演した沢村貞子の言葉。


「あんたは顔がいいんだから、とにかく腕を上げないとダメ。人の2倍も3倍もがんばらないと。

そうしないと、いずれいなくなっちゃうわよ」(文芸春秋「文春オンライン」23年12月29日)


 その通りだった。演技を磨かなければならない。そんな時、若尾文子に「あんた、背も高いから映えると思うし、舞台やんなさいよ」(同前)と言われた。セリフ覚えも悪かったため、「怖い」と思っていたが、1984年に出演した舞台「ドラキュラ その愛」が役者として大きな転機となった。


 そんな草刈だが「役者としてやっていけるぞ」と思ったのは、60代になってからだという(エキサイト「exciteニュース」16年8月18日)。その大きなきっかけは、三谷幸喜との出会いだ。草刈の舞台での演技を見た三谷が「喜劇をやりませんか?」と自身の舞台「君となら」に誘ったのだ。「これまでもコミカルな役は演じてきましたが、そのキャリアを生かしつつも新しい自分を引き出してもらえ」(小学館「NEWSポストセブン」24年8月27日)た。


「良い意味で見ている方々を裏切りたい」(「exciteニュース」=前出)


 その思いが「奇跡」につながっているのだ。


(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)


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