田丸 「二段オチみたいなものはわりとよく使います」
又吉 「それもパンチ二発じゃないんですよ。一発はパンチでも、もう一発は女装した60代男性のキスっていうか……。殴られたほうがまだ対処のしようがある。いい意味で、ですよ!

6月14日、“星新一の孫弟子”として注目を集めるショートショート作家・田丸雅智の最新刊『家族スクランブル』の発売記念トークイベントが開催された。ゲストは『火花』で大ブレイク中のピース・又吉直樹。田丸がデビュー作『夢巻』をファンレターと一緒に送ったことがきっかけで付き合いが始まり、以来、田丸作品の大ファンだという。「ダヴィンチ2015年7月号」(KADOKAWA)の又吉直樹特集では、田丸が又吉をテーマにショートショートを書き下ろしている。

3ステップで書ける超ショートショート
田丸は作家活動の傍ら、小中学校の出張授業や一般向けのワークショップ「超ショートショート講座」も開催している。この日は又吉が簡易版ワークショップにチャレンジした。どんな物語が生まれたのか。ダイジェストで紹介していこう。
超ショートショート講座は3ステップ。
1.不思議な言葉をつくる
2.不思議な言葉から想像を広げていく
3.想像したことを短い物語にまとめる
ここでいう、「不思議な言葉」とは「ふだん生活している中で、絶対にありえないこと」だという。
では、どうやって「不思議な言葉」をつくるのか。
田丸「いろいろな『名詞』を右側に20個書いてください。その中からひとつだけ名詞を選んで○をつけます。『選んだ名詞』から思いついたフレーズを左側に10個書きます。この左と右を組み合わせると、不思議な言葉ができるんです」

田丸「不思議な言葉ができたら、その中からひとつだけ選んで物語をつくっていきます」
又吉が選んだ“不思議な言葉”は「歩く望遠鏡」。さらにこのフレーズを掘り下げていく。

田丸「その『歩く望遠鏡』はどんなものですか?」
又吉「足がついていて、意志もある。のぞこうと思うと歩き出して、のぞかしてくれない」
田丸「『歩く望遠鏡』はどこで、どんなときに、どんないいことがありますか」
又吉「のぞかしてくれへんから一生懸命追いかけるわけです。ようやくのぞけた! というときには見たかったものの真ん前におって、『歩こうと思ったら歩けたでしょ。ラクしようとすな』と教えられる。全部見えんほうがいいものも世の中にはいっぱいありますね。それでも見たいんか? と覚悟を問われてる」
田丸「悪いことはどうですか?」
又吉「天体観測がしたくてリュックに入れて持ち歩くと背中がムズムズするかなぁ……
田丸「これ、まとめるの難しいですね(笑)」
又吉「望遠鏡と主人公は『ど根性ガエル』のヒロシとぴょん吉みたいな関係なんですよ! 望遠鏡の口癖は『俺のぞいたら、すっごいの見えるよ』。でも、のぞかしてくれへん。最後にのぞいたときに、何が見えるのかというのがオチですね! できた!!」

悲劇的なオチをつけるのは簡単
ありきたりのオチじゃつまらない。もっと面白いオチを! とアイディアを出しあい、止まらなくなる二人。見えてくるのは「分け目」という案も登場した。分け目……?
又吉「最後はどんなものが見えると面白いんでしょうね。めちゃくちゃ悲惨な未来とか……」
田丸「じつは“いい話”でオチをつけるほうが難しいんですよね。悲劇的なことや失敗談のほうがオチをつけやすい」
又吉「じゃあ、箱根で望遠鏡と一緒に足湯にでもつかりましょうか」
田丸「のぞいてみたけど、望遠鏡はくもっていて見えませんでした、とか」
又吉「それでいきましょう。いや、考えるのが面倒くさくなったわけじゃないですよ」

ショートショートは文学的モノマネでもある
又吉「あるわけないんだけど、あってもおかしくない。そういうお話を考えるのは面白いですね。ダ・ヴィンチに書いてもらった『魂の園』もそうでした。僕がめっちゃ言いそうなことが書いてある」
田丸「これまで書いた作品のなかでも、実際の友人をモチーフにしたものがあって、そういうときは彼らの言動を完コピするような気持ちで書くんです。たとえば、又吉さんだったら、一緒に飲みに行ったとき、ずっとハイボール飲まれてたな……とか」
又吉「文章上でモノマネするみたいな。あれ、もっとどんどんやってください」

ちなみに、「ダ・ヴィンチ2015年7月号」に掲載されているショートショート「魂の園」の次頁は『芸人と俳人』刊行記念対談。ページをめくると、おおっとなる仕掛けもあります。順番に読むのがおすすめ。
(島影真奈美)