1998年、将棋界に文春砲が炸裂した。当時、将棋界で確固たる地位を確立していた中原誠・十六世名人が、将棋界のアイドル的存在だった元女流棋士・林葉直子と不倫関係にあると『週刊文春』が報じたのだ。
ワイドショーから報道番組まで、テレビは連日この話題を取り上げた。

40代で既婚者の中原と20代未婚の林葉の不倫関係は、お堅いイメージの将棋界には似つかわしくないスキャンダルだった。しかしそれだけなら、将棋界という世界の中の一騒動で済んだのかもしれない。

将棋界のスキャンダル、なぜ世間を騒がせたのか?


中原と林葉の不倫関係がテレビで連日取り上げられた理由は、中原が林葉宅の留守番電話に残したメッセージがあまりにも衝撃的だったためだ。すでに関係が悪化していた林葉に対し、中原は脅迫ともとれる留守番電話メッセージを送っていた。

連日テレビで流された中原の留守電音声は以下のようなもの。

■「今から突入しまーす」
■「もしもし? もしもし? 私は林葉直子の愛人でしたっつうんで週刊誌に売ります。
それではよろしくー。今から突撃!」
■「お前みたいなのは早く死んじまえ! エイズにでも何でも早くかかっちゃえばいいんだよ!」


着物姿で真剣に将棋盤をにらむ中原のイメージとのギャップはセンセーショナルだった。

中原誠が行った奇妙な記者会見


数日後、中原は記者会見を開く。場所はホテルでも新聞社でもなく自宅の庭だった。中原は自宅前に押しかけた記者たちを庭に招き入れると、着物姿で芝生の上に立ちながら「そういうことは、あったということです」と、あっさり事実関係を認めてしまった。

自宅の中には妻がいるという状況で、堂々と不倫やストーカーまがいの行為を認めてしまう中原の姿に、「勝負師とはこういうものなのか?」という違和感を抱いた視聴者も多かっただろう。

林葉直子は将棋界のアイドルだった


現在の将棋界には、竹俣紅女流初段のようなタレント活動と棋士を両立する存在も登場している。NHKの将棋番組には乃木坂46のメンバーが出演している。
しかし90年代当時の将棋界は、まだまだ閉鎖的な男社会の空気が色濃く残っていた。そこに10代で登場した林葉はまさにアイドルそのものだった。

わずか14歳で女流王将のタイトルを獲得した林葉は、タイトル戦を10連覇。セーラー服姿で将棋盤に向かう姿に、誰もがさわやかなイメージを抱いた。この時期にはテレビCMや雑誌広告にイメージキャラクターとして何度も登場している。



しかし94年、突然の失踪事件を起こす。
さらに豊胸手術をしてヘアヌード写真を発表するなど、奇行を繰り返すようになった。のちに林葉は、精神的に追い込まれていった原因として、娘の賞金やテレビ出演料に依存するようになった親の存在があったと語っている。そこに中原との泥沼の不倫関係が重なり、林葉は奇行を繰り返すようになった。

林葉と中原のその後


林葉は2014年、『ノンストップ!』(フジテレビ系)に出演し、末期の肝硬変であることを告白した。大量の飲酒を医者から止められていたのにやめることができず、重度の肝臓病を患ってしまったのだ。もう治る見込みは少ないという。
中原との不倫騒動後はメディアに露出することは少なかったが、その間も自己破産や入退院をなどを繰り返していた。



一方の中原は、2009年に日本将棋連盟から「名誉棋士会長」に指名され、2011年まで務めている。
(近添真琴)

※イメージ画像はamazonより中原誠名局集 (プレミアムブックス版)