「ブスに厳しいブス」と自負する作者


マンガ家でありながら、複数のコラム連載を持ち文筆家としても活躍中のカレー沢薫さん。
人気連載の多いサイト『cakes』でも、更新ごとに反響を呼んでいた彼女のコラムがこのたび書籍化される。タイトルは『ブスの本懐』だ。

カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
「cakes」で連載中のカレー沢薫さんの渾身のブスコラムが書籍化。『ブスの本懐』(太田出版刊、1000円税抜)は11月17日発売。

世の中に存在するさまざまな“ブス”について、自身の経験なども例に挙げながら独自の考察を重ねていくのだが、コラムの前書きに「『ブスに厳しいブス』と自負し、ブスのことになると、どこまでも熱くなりすぎる」と書いているだけあり、パンチのある名言のオンパレードなのである。
カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
身の覚えのある人にとっては殺傷力(?)の強いワードのオンパレード。読む側もメガネ割れる覚悟で読むべし!?


斬新すぎるブスジャンルの定義


「YDB(やればできるブス)」=服やメイクを頑張れば自分は変われると思っている
「産地直送もぎたてブス」=整形に頼らず素で勝負しようとする
「5月ブス」=4月にイメチェンしてデビュー!に何らかの理由で失敗
「武士<もののふ>ブス」=化粧直しの道具も持たずに外出する面倒くさがり屋
「パラサイト・ブス」=大人になるまで母親が買った服や下着で過ごしたためおしゃれの基準が人とズレている etc.……

斬新すぎるブスジャンルの定義に加えて、「顔の女子力が低い」「(美人は没個性的になりがちだが)ブスはすべて一点もの」「(美人と違って、歳を取っても“劣化”とは無縁なので)ブスは最大の防御」といったフレーズが、身に覚えのある女性にとっては清々しいレベルで容赦がなかったりする。

このコラムに関連して、以前カレー沢さんがTwitterで「『自分に投資』のつもりが金をドブに捨てた経験を暴露していこうぜ」と、ハッシュタグ(#金のかかったブス)を使って呼びかけたところ「服だけはオシャレ」「高額なダイエット食品1か月分を2日で完食」など800件近い反応&Twitterまとめは50万PVを超えているそうで、世間のブスへの関心にも並々ならぬものがあるのだ。
カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
コラム読者からも多くの反響があったという、自己投資に大失敗したエピソード「金のかかったブス」に触れた回は涙なくしては読めない。


「ブスの世界も日進月歩だと感じました」


この問題作の書籍化にあたり、読んでいて気になった点をカレー沢さんご本人にぶつけてみた。

――日常生活で出会うありとあらゆるブスのパターンについて触れていると思うのですが、収録した中で特に思い入れのあるテーマを挙げるとしたらどの回でしょうか?

「今まで書いたブスのことを思い出そうとしたのですが、これがびっくりするほど何を書いたのか思い出せない。つまりブスは常に上書き保存、新しいブスを書いたら前のブスのことは忘れる。恋とブスは後ろを振り返るなってことですね、振り返ってもブスがいるだけですし」

――収録コラムの中で、編集担当者が挙げたお題に沿って書かれた回も「ボタニカルブス」(健康&自然志向をファッションとして取り入れている女性)、「クソブス」などなかなかパンチがありましたが、印象的だったのはどんなテーマでしょうか?

「やはり『ボタニカルブス』とかは完全に初見だったので、興味深かったです。『サブカルブス』とか『オーガニックブス』とかはすでにおなじみな感じがしますが、やはり新しいブスもどんどん生まれてきており、ブスの世界も日進月歩だと感じました。私も、定番のブスだけでなく、流行りのブスも押さえておかないといけないと思いました」
カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
近年増殖中の“オーガニックなライフスタイルを履き違えている人”にも痛烈なツッコミが入る。


原稿を書くとき以外はあまりブスのことは気にしない


――今回の書籍でしか読めない“書き下ろしブス原稿”も楽しみなのですが、どんなテーマを取り上げていますか? 

「『自撮りブス』とか『ヤリブス』とか、意識はしてませんでしたが、食欲がなくなりそうなラインアップになりました」

――カレー沢さんが今現在気になっている“ブス”はどんなブスでしょうか?

「原稿を書くとき以外はあんまりブスのことは気にしないようにしてます。なぜならもっと楽しいことを考えたいから」

カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
カレー沢さんが挙げる“ブスあるある”の一例。バリエーションに豊んだブスエピソードに共感する人も多いのでは?


――カレー沢さんはマンガやコラムなど複数の連載をされていますが、『ブス図鑑』(連載コラム)の読者層と他の連載の読者層の違いを感じることはありますか?

「私の書くものは常に『読者がいるのかわからない』というところから始まるので、それは今回も変わりません」

カレー沢薫の清々しいほど鋭いブス考察が炸裂する 『ブスの本懐』
文章はもちろんだが、ゆるくてシュールな挿絵もあとからジワジワくるので注意。


――書籍化を楽しみにしている読者の方々へ、一言メッセージをお願いしたいです。

「待たせたなブスども。だがこんなの待ってるからお前はダメなんだ」

読んでいてそのものズバリな“会心の一撃”的表現にウケてみたり、自分の半生をかえりみてちょっとしんみりしてみたり。しかしありとあらゆるブスについて考えるにつけ、ブスとはなんなのかがよくわからなくなってくる辺りで私たちはカレー沢さんの術中にはまっているのだろう。

コラムでは『ブス図鑑』だったタイトルが、『ブスの本懐(=本望、本意という意味)』に変わっているが、そこにもなんとなく世の“ブスども”への叱咤激励とともに愛を感じる本作。
必読である。
(古知屋ジュン)
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