足袋の町・埼玉県行田市にある創業100年の足袋の老舗「こはぜ屋」社長・宮沢紘一(役所)が、周囲の人々と協力しながらランニングシューズ「陸王」開発に悪戦苦闘するというストーリー。第1話では、経営危機に陥ったこはぜ屋が新規事業としてランニングシューズ開発に乗り出した様子と、メインバンクである埼玉中央銀行との対立などが描かれた。

『陸王』の元ネタは『BORN TO RUN』
オープニングから鳴り響く、服部隆之のファンファーレにも似た音楽。ああ、日曜劇場が始まったんだなぁ、とあらためて感じる。『半沢直樹』『下町ロケット』など一連の池井戸作品を手がけた福澤克雄のどっしりとした演出も健在だ。
いきなりドイツ製のミシンの故障というトラブルに見舞われるこはぜ屋。このままじゃ足袋の納期に間に合わない! 宮沢は係長の安田(内村遙)とともに、三重県桑名市にある倒産した足袋工場まで徹夜で車を走らせる。しかし、工場は何もかも債権者に持ち出された後だった。無駄骨かと落胆する宮沢と安田だが、朝陽が工場の端を照らすと、そこにはゴミの山に埋もれたミシンが! 愛おしそうにバシバシ叩きながら「可哀想になぁ、捨てられて」「行田行こう! 行田!」とミシンに語りかける宮沢の姿を見ているだけで、すでに胸が熱くなる。と同時に、彼の何事も諦めないしぶとさ、粘り強さを示しているシーンだ。
足袋の需要の低下により、こはぜ屋の売上は年々減少、資金繰りも苦しくなっていた。埼玉中央銀行融資課の坂本(風間俊介)は、宮沢に新規事業を考えるよう促す。
そこで宮沢が思いつくのが、足袋の技術を応用した裸足感覚のランニングシューズ。坂本は宮沢のアイデアに賛同し、ランニングインストラクターの有村(光石研)を紹介する。有村はそこで、人間本来の走りである「ミッドフット走法」についてレクチャーする。このミッドフット走法については、クリストファー・マクドゥーガル著のベストセラー『BORN TO RUN』に詳しい。池井戸潤はゴルフ仲間に教えられた同書を読み、『陸王』のストーリーを思いついたのだとか。

仮面ライダーたちのマラソン対決!?
『陸王』には2人の若者が登場する。一人は宮沢の息子・大地(山崎賢人)。大学を卒業したものの、就職に失敗。こはぜ屋の手伝いをしながら就職活動をしているが、どちらにも身が入っていない。もう一人はダイワ食品陸上部の期待の新人・茂木(竹内涼真)。
それにしても、ライバルの毛塚(佐野岳)と火花を散らす竹内涼真の走りは見事だった。かなりトレーニングを積んでいるのだろう。『ひよっこ』や『過保護のカホコ』などに出演してブレイク中の竹内だが、『陸王』への出演はオーディションで勝ち取っていた。伊與田英徳プロデューサーは竹内について、「オーディションから来てくれて、それを勝ち取っていく。そのたくましさが茂木のたくましさと合っていると思った」と語っている(マイナビニュース 10月7日)。
なお、佐野は『仮面ライダー鎧武』、竹内は『仮面ライダードライブ』でそれぞれ主演しており、マラソンの対決シーンではネット上で「ライダー大戦!」「仮面ライダー陸王」などと盛り上がっていた。今後、仮面ライダースペクターの山本涼介も出演する。
同志をバカにするのはやめていただきたい!
『陸王』のテンポは早い。経理担当の富島(志賀廣太郎)の反対を押しのけ、あっという間に“マラソン足袋”の試作品が完成する。しかし、売れる商品にするには、まだまだ課題が山積みであり、そのための開発費用も必要だった。
しかし、埼玉中央銀行の支店長・家長(桂雀々)も融資課長の大橋(馬場徹)も、こはぜ屋への融資を渋っていた。挙句の果てには坂本を前橋支店へ島流しにし、宮沢にはリストラ案を突きつける。リストラの噂を聞いた社員たちはパニック状態に。
第1話の敵役を一手に引き受けたのが、大橋役の馬場徹だ。現在29歳ながら、34歳の風間俊介の高圧的なパワハラ上司役を憎々しく演じきった。“つかこうへい最後の愛弟子”とも呼ばれている彼の経歴についてはこちらのインタビューをどうぞ。https://cakes.mu/posts/6798
クライマックスは、こはぜ屋に乗り込んできてリストラを迫る大橋と宮沢の対決だ。これみよがしに坂本を叱責する大橋に対して宮沢は強い口調で反論する。
「立場は違っていても、私は坂本さんを同志だと思っています。その同志を、バカにするのはやめていただきたい!」
こはぜ屋の先代が作って失敗したマラソン足袋を持ち出し、さらに宮沢は語り続ける。
「これは今までこはぜ屋100年の歴史を支えてきた、社員たちから託された襷なんです。だからそう簡単にリタイアするわけにはいかないんです。
『陸王』は弱者のためのドラマだ
もうこのあたりがめちゃくちゃ泣けるのだが、いったいなぜ泣けるんだろう? と考えてみた。キャッチコピーには「感動の企業再生ストーリー」とあるが、企業が再生したからといって泣けるわけではない。社長の宮沢がカッコいいことを言っているから泣けるわけでもない。
このクライマックスでは、こはぜ屋の従業員の顔が実によく写る。たとえば、宮沢が「私はマラソン足袋の開発を続けます」と言い切ると、縫製課最年長の富久子さん(正司照枝)がニカーッと笑う(ジブリっぽい)。「同志をバカにするのはやめていただきたい!」と言うと、坂本が泣きそうになるだけでなく、縫製課リーダーのあけみさん(阿川佐和子)が口を押さえて泣きそうになっている様子を映す(演技が上手い)。その後、こはぜ屋の社員たちの顔も次々と映す。廊下で聞いている大地の顔も映す。みんなで宮沢の話を聞いて、心を震わせて泣いているのだ。
「それはあなた一人のわがままでしょう」と食い下がる大橋の前に、安田が現れてマラソン足袋の開発に賛意を示し、社員たちは拍手喝采を送る。あけみさんも富久子さんもマラソン足袋の開発続行に向けて雄叫びを上げている。
『半沢直樹』が侍(半沢は剣の達人だった)のドラマだったとしたら、『陸王』は農民たちのドラマなのだと思う。『半沢直樹』では半沢が憎々しい敵をばっさばっさとなぎ倒していったが、『陸王』は社員をはじめとする仲間たちが団結して社長の宮沢を盛り立てている。
リストラのエピソードと大橋との対決のシーンは、実は原作小説にはない。脚本の八津弘幸が加えたものだ。リストラのエピソードは、物語の視線をぐっと下げるために役立っている。社長ら経営トップだけの話ではなく、社員一人ひとりの話だということを強調しているのだ。そして大橋との対決では社員たちの顔を丁寧に映す。仲間の姿をきっちり映すから、見ている視聴者もいつの間にか“同志”になったような気分になる。だから一緒になって涙腺が緩んでしまうのだろう。
「池井戸潤先生の小説は本当に弱者に対する目線が優しいんですよ。そうして応援されることによって、我々庶民はすごく元気が出るような気がしますね」
これは前回のレビューでも紹介した役所広司の言葉。一方、池井戸潤はこんなことを言っている。
「結局、読者の心に響くのは(キャラクターの)喜怒哀楽しかないんですよ」
資金繰りが苦しい零細企業の社長や就職浪人、ケガをして走れないマラソンランナー、必死に働きながら介護をしている年老いた社員たち……。弱者たちの喜怒哀楽をしっかり描きながら、這い上がっていくところを見届けた我々庶民が元気になる。『陸王』はそんなドラマだ。今夜9時からの第2話は15分拡大版。第1話はTVerで11月5日まで公開中。
(大山くまお イラスト/Morimori no moRi)