即興で言葉をビートにのせる。
ラップでお互いを攻撃し合うゲームだ。

【「フリースタイルダンジョン」ミソジニーシーンと対峙する椿&呂布カルマ。モンスタールームに女いない理由】は、椿さんと呂布カルマさんのバトル回について書いたリポートだ。
その回に、ぼくはこう書いた。
ところが、椿さん、「クソ加齢臭」とディスる。
「加齢臭」というのは、中年以降の男性にみられる独自の体臭を指す言葉で、化粧品会社が広めた造語だ。
中年の男が自然に発する臭いを、レッテル貼ってディスるような言葉を使ってしまうミサンドリー(男性蔑視)。
人間は2色ではない。
男だの女だの中年だの、わかりやすいレッテル貼り。
「加齢臭」に対して、呂布さんは、
「俺 お前みたいにメンスのにおいしねぇけど勘違いすんな」
と、ジェンダー的にはひどい返し。
これに対応した椿さんのインタビューがあったので、応答する。
インタビュー記事は、これ。
「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター”
聞き手・構成は、正しい倫理子。
いい記事なので、ぜひ読んでほしい。
引用する。
──呂布カルマさんとのバトルの中で椿さんが出した「加齢臭」というdisについて「差別だ」という反応がありましたが、それについてはどう思われますか。
椿:あれ意味わかんないすよね(笑)。
──中年の男性から自然に出てしまうものに対しての性差別じゃないか、ということですね。
椿:笑っちゃいましたね。お父さんに対して「お父さん最近加齢臭するよ」って言えるように、自分の娘に「メンス(月経)の匂いする」(注:フリースタイルダンジョンで呂布カルマさんが椿さんに言ったDis)って言えるのか? と思いました。加齢臭は男性に限った言葉ではないので、性差別的なDisとは全く違うものだと思ってます。「差別もバトルだから許される」という意見にはNOと言います。
ああ。
人は、気づかないうちに簡単に差別しうることがよく分かる。
差別だと指摘されると「意味わかんない」と言って笑う人は多い。
男女を入れ替えた問答にしてみよう。
──「今日カレシとデートか?」という発言について性差別という反応がありましたが、それについてはどう思われますか。
あれ意味わかんないすよね(笑)。
──女性が早退するときに、すぐに男性がらみだと決めつけることが性差別じゃないか、ということですね。
笑っちゃいましたね。娘に対して「今日カレシとデートか?」って言えるように、自分の息子に「彼女とヤッてるのか?」って言えるのか? と思いました。デートは男性に限った言葉ではないので、性差別的なDisとは全く違うものだと思ってます。
たいていの人はよくわからずに差別してるのだ。
差別しようとして差別している人は、まだ、ましだ。
やめてくれるように説得すれば、とめられる。
そうじゃない人のほうが多いのだ。
自分は差別していない。
差別を指摘しても、自分の身にふりかからなければ、「あれ意味わかんないすよね」と言って笑う。
考えようとしない。
「加齢臭」というのは、そもそも、化粧品メーカーがプロモーションのために命名した言葉だ。
2-ノネナールが主原因だとされた。
CMで、さんざん若い女性に「あの人(中年男性)、くさ〜い」と言わせて、男性化粧品を売り込んだ。
たとえば、「ファブリーズ加齢臭篇」では、ピエール瀧が演じる旦那さんの洋服ダンスは開けられないほど臭く、
何この匂い?と聞くと、奥さんが「加齢臭よ」と答える。
その後、ミドル脂臭とか、おやじ臭とか言いはじめる。
体臭に対処する活動を臭活と名づけたり、スメルハラスメント略してスメハラと言ったり、CM語だから、何でもありになっていく。
広告の世界で「ハリトシス・スタイル」と呼ばれている手法だ。
そういった出自のある言葉であり、そういう使われ方をしてきた。
だから、呂布カルマへ対するディスとして「加齢臭」と言ったわけだ。
いや、あくまでも「相手が男だから加齢臭と言ったわけじゃない」としよう。
では、年齢によって自然に出てくる匂いをディスるのは良いのだろうか?
男女差別はいけないと主張するが、年齢では差別するのか。
そもそも、椿さんは、「加齢臭」と言ったのではない。
「クソ加齢臭」と言ったのだ。
お父さんに、「お父さん最近クソ加齢臭」って言えるのだろうか。
他人を攻撃する「クソ加齢臭」という発言に対して、指摘をうけて「笑っちゃいましたね」と言うのは、どういうつもりなのだろう。
“「差別もバトルだから許される」という意見にはNOと言います”と断言する椿さんは、バトルで「クソ加齢臭」と言った差別的な自分の発言を、笑って流してしまうつもりなのだろうか。
「クソ加齢臭」と言った事実をごまかして「加齢臭」と言い換える。
言い換えなかったらどうなるか書き直してみよう。
ー「クソ加齢臭」というのは差別では?
意味わかんないすよね(笑)。
ー中年男性から自然に出てくる匂いを「クソ加齢臭」というのは差別では?ということですね。
笑っちゃいましたね。
笑っちゃうのだ。
女性はたびたび、鈍感な男性によって、こういった被害にあってきたのだろう。
鈍感な男性でもあるぼくは、そのことを深く反省する。
以上のことは、ほんとうはスルーしておけばすむことで、指摘しなくてもいいことかもしれない。
だが、椿さんがこう語っていることに勇気づけられたので、あえて書いた。
“ただ私は、差別的な曲を歌うラッパーがいたら会場を出ます。そこに参加したくないので。「違う」と思ったらどんどん行動で示していく人が増えたらいいのかなと思いますね。”
違うと思ったから、「書く」という行動で示した。
しかし、実のところ、ぼくは差別というのは持続的で一方通行である場合に大きな問題になると思っている。
平等に言い合える場合や、簡単に立場が逆転して入れ替わるときは、問題は大きくないと考えている。
ラップバトルは、ディスりあうのが原則だ。
そこには差別的な内容もふくまれる。
生まれをディスる。態度をディスる。顔をディスる。性別をディスる。
差別だ。
だが、それを跳ね返すチャンスは与えられている。
自分のターンが回ってくる。
マイクが回ってくる。
言葉をぶつけるチャンスが回ってくる。
差別を跳ね返し、言葉で勝負するチャンスは、平等に、そこにある。
だからこそ熱い。
差別は、ある。
だが、それを跳ね返すチャンスが、ラップバトルにはある。
すべてのラッパーは差別に負けず闘っている。
応援しています。(テキスト/米光一成)