第12週「結婚したい!」第69回 6月20日(水)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

69話はこんな話
デビューして3年。時に1995年。
3年めのマンネリ
デビュー3年。24歳。鈴愛はアシスタントを雇うようにもなりすっかり漫画家先生になっていた。
永野芽郁の様子がすこし大人っぽくなった。でも服はずっとボーダーだ。
鈴愛は「一瞬に咲け」、ユーコは「5分待って」をずっと連載している。
デビュー作で連載は晴れがましいが、同じ題材を3年も連載続けることは酷である。
それが少年誌に顕著な漫画雑誌のシステムで、読者アンケートの結果で人気があればずっと続け、人気がなければ雑誌の後ろに配置され、やがて打ち切りとなる。まさに競争社会。書いて書いて走って走ってひたすら先頭を走り続けないとならない。そういうのを「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」と言う(BY ウルトラセブン)。
「高校半年間の卒業までの話を3年も連載しちゃって」と自虐する鈴愛。
「ドカベン」がいったいいつまで学生をやっているのか昔よく話題になったもの。そう思えば、朝ドラの時代考証が多少ずれていたとしてもまったく気にならないではないか。すべてフィクションなのだからして。
結局、うまくいったのはボクテ(志尊淳)だけ。「女光源氏によろしく」は大手で連載され大人気で映画にもなった。女子高生にもサインを求められる。
鈴愛も指摘していたが、元の「源氏物語」が長いのでネタが豊富なのも勝因であろう。
ユーコの変化
最も冴えないことになっているユーコは、なんとなく円広志に似てる(似てません?)オヤジ(角田晃広)とどうやらつきあっているらしい。リポダミンA(この倒置は最高)を愛飲するオヤジはユーコのことを応援し、ハイブランドのバッグ(エルメスバーキンの赤)を貢ぐ。でも偽物らしい。ドン・キホーテで安く買ったブランドバッグを女の子にプレゼントするおじさんはこの時代のアイコンだがこれもまたテレビ業界のノリである。ほんとにテレビ業界ってしょーもない。
ユーコは喜んだふりして頬にキス、そのあと、カットが切り替わり、その唇をゴシゴシ洗っているカットになることで、このつきあいがいやなものなのだということがよくわかる。
このへんの流れが音楽の使い方なども含め、民放の夜のドラマにありそうな雰囲気だった。
鈴愛も秋風(豊川悦司)もユーコのことを心配する。とくに秋風はとても心配している。漫画のことから化粧のことまで。
ユーコはシーナ&ロケッツの「ユー・メイ・ドリーム」を口ずさみ、こんな曲のような漫画が作れたら辞めてもいいと思う。
「誰かの心に届く作品、一作でもちゃんと描けたら漫画家辞めてもいいんだけどな」
歌でも漫画でも脚本でも小説でもなんでもものを作る人はそう思っているのだろう。
漫画家デビューして3年後に残っているのは1割とも語られた。
ものを作ることは過酷だ。
このドラマは漫画の世界をリアルに描いているとは言えないかもしれないが、もの作りのあれこれをちゃんと描こうと思ったらそれこそ大変。そういうのを丁寧に描いたいい話として世に出回っているものだって、いい話の側面しか描いてなくて、それがすべてではない。
人が“心の真ん中を言わない”のと同じく、ほんとうの苦しみなんてそうそう明かせないものである。
ちなみに、ユーコの担当編集・太田緑ロレンスは舞台を中心に映像でも活躍している俳優で、2010年、野田秀樹と中村勘三郎が共演した三人芝居「表に出ろいっ」では、漫画編集の世界を描いて人気の漫画をドラマ化し、一部で高い評価を得ながらも低視聴率に喘いだ不遇の名作「重版出来!」(16年)で編集者を演じた黒木華とダブルキャストで、野田と勘三郎を相手に縦横無尽に動き、期待の新人として注目された才人だ。豊川悦司の所属する事務所アルファエージェンシーに所属しているので、舞台でも映像でもますます活躍してほしい。
律、再登場
律(佐藤健)は京都にいた。宇佐川(塚本晋也)が京大に移籍したのでついて京大の大学院に入った。
鈴愛の漫画はちゃんと読んでいた。再会の布石、着々。ボクテも律もイケメンはそうそう退場させられない。
だが3年めにして、宇佐川にこの漫画(スズメの漫画)おもしろいですよという話をしているのが謎。先生に「またその漫画読んでるんですか」とか言わせれば時間の経過も表せたのではないかと思うが、そうしないことに何か意味があるのだろう、きっと。
しばらく律不足であったが、それを補完するように+act. 7月号 は佐藤健が巻頭特集。「半分、青い。」の勝田プロデューサーと演出家の田中健二の証言も載って読み応えがある。
(木俣冬)