今回の事件をめぐっては、社内クーデター説などさまざまな話が飛び交い、まだまだ謎が多い。現実の企業でこういう予想外の事件が起きるのは、企業ドラマにとっては脅威だろう。それでも視聴率でいえば、「下町ロケット」は先週も12.0%(関東地区)とまずまずの数字をとっている。視聴者はむしろ現実の事件に不可解さを感じるからこそ、このドラマの主人公・佃航平(阿部寛)のように、さまざまな理不尽な目に遭いながらも、それを技術と人情で打開していく存在を求めているのかもしれない。

財前が殿さんに送っていた手紙
帝国重工の宇宙航空企画推進グループの財前(吉川晃司)は、「瀕死の日本の農業を救う」べく、衛星を用いて無人で走行するトラクター(無人農業ロボット)の開発を提案、佃の経営する佃製作所がエンジンとトランスミッション、佃の大学時代からの友人で北海道農業大学教授の野木(森崎博之)が自動運転の技術を請け負う形でプロジェクトが始動した。……はずだったが、前回(第6話)の終盤で、プロジェクトの総責任者に帝国重工の次期社長候補の的場(神田正輝)が就くと、エンジンもトランスミッションも内製化(自前でつくること)に切り替えるとして、財前に佃を切るよう命じる。
第7話の冒頭では、財前が苦渋の表情で佃製作所を訪ねて平謝りする。だが、大企業の勝手な言い分に、社員たちは怒り心頭だ。その上、佃を切るなら自分もプロジェクトから降りると野木が言い出したので、どうにか引き止めてほしいと頼んできたのには、いくら財前の依頼でも、佃もプライドが許さなかった。
しかしそれもあることをきっかけに心変わりする。新潟の実家で農業を営む佃製作所の元経理部長・殿村(立川談春)から、財前に手紙をもらったと電話で聞いたのだ。その手紙には、財前が以前、佃たちとともに殿村の田んぼの稲刈りを手伝った体験から、日本の農業の置かれた厳しい現状を教えられたということがつづられていた。佃はその内容を知り、財前の本来の目的が、農業を救うということにあったことにあらためて気づく。
田舎に戻った殿村もまた、友人の稲本(岡田浩暉)や農林協の吉井(古川雄大)からの農業法人への誘いをことわったがために村八分のような状態に陥っていた。それでも、父・正弘(山本學)の、自然を相手に戦うのとくらべれば人間同士のしがらみなど何でもないという姿勢に感銘を受け、反撃を思いとどまる。それにしても、殿さんは、週末には会社勤めの妻・咲子(工藤夕貴)も手伝ってくれているとはいえ、病後の父親と農作業を続けるのはいかにも大変そうだ。跡を継ぐ子供もいないようだし、農業ロボットの一日も早い実用化が待たれるところである。
佃の新たな目標、そして野木の啖呵
佃製作所は一方で、帝国重工に農業ロボット用のエンジンを開発するに際して、それまでエンジンを納入してきた農機具メーカー・ヤマタニとの取引を白紙に戻していた。それが帝国重工から切られた以上、別の取引先を見つけなければならない。ここで頑張ったのが営業第二部係長の江田(和田聰宏)だ。江田は、新たにキジマ工業からエンジンとトランスミッションをセット販売の注文をとってきた。
しかしその努力もむなしく、すぐにキジマ工業から発注を撤回されてしまう。小型エンジンメーカーのダイダロスと、同社と提携するギアゴーストに注文を横取りされてしまったのだ。伊丹(尾上菊之助)率いるギアゴーストは生粋のトランスミッションメーカーだけに、まだトランスミッションを手がけるようになって日が浅い佃製作所など敵ではなかった。
帝国重工のプロジェクトから外されたのに続き、キジマ工業からも注文を断られるというあいつぐ挫折に、佃は自分たちの技術がまだ未熟であることを痛感する。そこで佃が出した結論は、自分たちも無人農業ロボットの研究を、野木と協力しながら進めていくということだった。そのためにトランスミッションの開発もエンジンとあわせて続行し、いずれ各メーカーが農業ロボットを製造するようになったとき、供給できるようにしておこうというのだ。その第一段階として佃は、野木の研究のため、本格的な試験用のトラクターを開発することを決める。
このころ、野木は野木で、帝国重工に振り回されていた。担当から財前が外され、代わって的場の息のかかった機械製造部長の奥沢(福澤朗)が、自動走行制御システムの開発コードをよこせだの、新会社に特許を移転して一緒にやらないかだの、あれこれと勝手なことを言ってきていた。
佃と技術開発部の面々が、トラクターの試作機第1号を野木の研究室に運びこんだとき、再びその奥沢がやって来る。彼は佃がいると知るや邪魔者扱いし、あからかさまに下請けをバカにしたかと思うと、野木を別の場所に連れていこうとする。だが、ここで野木が怒りを爆発させた。例の開発コードを帝国重工に渡す代わりに、同じものを全世界に向けて公開してやると言い出したのだ。そうなればたちまち過当競争が起き、帝国重工の優位性は失われる。
重田・伊丹の帝国重工への仇討ちがいよいよ始動
後日、帝国重工は「アルファ1」と名づけた新事業の発表会を大々的に行なう。佃はその会場へ時間に遅れて入ろうとしたとき、ダイダロスの重田(古舘伊知郎)と遭遇する。重田は、佃が帝国重工からはしごを外されたことをなぜか知っていて、「私が佃さんの分まで仇討ちをしてあげますからね」との一言を残して立ち去る。
“仇討ち”が何のことかは翌朝、あきらかとなる。テレビの情報番組に、重田は無人トラクターとともに出演、ダイダロス、伊丹のギアゴースト、戸川(甲本雅裕)のキーシンと町工場3社で連携して開発した「下町トラクター」だとアピールしたのだ。あきらかに帝国重工の発表にぶつけてきた格好である。「ダーウィン・プロジェクト」と名づけられた3社のプロジェクトは、PR担当としてテレビ番組制作会社の北堀(モロ師岡)がつき、メディア戦略にもぬかりなかった。
帝国重工、3社連合、そして佃製作所と、ここへ来て三つ巴の様相を呈す無人農業ロボット開発競争。これに勝利するのは誰か? 今夜放送の第8話では各社のトラクターが実際にぶつかり合うシーンもあるようで、「ヤタガラス編」はがぜん盛り上がってきた。
島ちゃんに誰か声をかけてやって!
池井戸潤による原作小説とくらべると、今回もあいかわらず汗と涙マシマシの展開となっていた。たとえば、財前が殿村に手紙を書いていたことを知って、佃が心を動かされるというのはドラマオリジナルのエピソードである。このほか、野木が奥沢に啖呵を切るシーンも、原作にはない日曜劇場らしい見せ場だった。
第7話では、帝国重工が、これまで佃製作所が提供してきたロケットエンジン用のバルブシステムも内製化するべくひそかに画策し、そのために同社でロケットエンジン開発に携わる佃の娘・利菜(土屋太鳳)が情報を漏らさないよう口止めさせられる場面も出てきた。農業ロボットの件とあわせて、こちらも何やらきな臭い。
さらに気になるのは、伊丹と訣別してギアゴーストをやめた島津(イモトアヤコ)の現状だ。第7話のボウリング場のシーンでは、佃製作所の面々がプレイに興じる脇で、島ちゃんがガーターに落胆していたが、誰も声をかけてこないのが切なかった。はたして彼女にも“仇討ち”のチャンスは巡ってくるのだろうか?
(近藤正高)
※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS