70周年を超え、新たなテレビシリーズが始まる「きかんしゃトーマス」。幼児向けテレビ番組として初めて国連と連携して制作され、「ジェンダー平等」や「ダイバーシティ」といったメッセージが物語に盛り込まれている。

現在上映中の『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』は、その「序章」となるもの。国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」から、いくつかの目標が含まれているという。その思いについて、国連広報センター所長の根本かおるさんに話を聞きました。

(前編はこちら)
「きかんしゃトーマス」国連コラボに込めたメッセージ。そして「そらジロー」も一役買っていた事実
『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』より。左下にはトップハム・ハット卿の姿も(C)2019 Gullane(Thomas)Limited.

お説教にならないよう、自然にメッセージを溶け込ませる


──映画のなかに盛り込まれているSDGsのメッセージについて、具体的に教えていただけますか。

根本:たとえば、トーマスがジャングルのなかで動けなくなってしまうシーンがありますね。タンクの水が空っぽになってしまって。

──エースとの競争に夢中になって、給水所を通り過ぎてしまうんですよね。

根本:あのシーンはSDGsの17の目標のなかの「6:安全な水とトイレを世界中に」にあたります。人間にとって水は命につながるもので、それは機関車も同じことですから。ジャングルに登場する動物たちは「15:陸の豊かさを守ろう」につながります。あとは、荒野でスピードを出しすぎて横転してしまうシーンもありましたよね。
「きかんしゃトーマス」国連コラボに込めたメッセージ。そして「そらジロー」も一役買っていた事実
山道をジェットコースターのように走るうち、スピードを出しすぎて横転してしまったトーマス。(『映画きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』より)(C)2019 Gullane(Thomas)Limited.

根本:この地域にはクレーン車がなくて、心細いまま一夜を過ごしてしまいます。でも翌日、人々が馬を連れて引き上げに来てくれる。これは「17:パートナーシップで目的を達成しよう」に関わってきます。

──シナリオに自然に盛り込まれているんですね。確かに劇中では「このシーンはSDGsのこれ」といった解説はありませんでした。

根本:やはりエンターテインメントですから、面白くないと見てもらえないですよね。これこそマテル社が持つ知見であって、私たちに足りない部分です。お説教的にではなく、いかに気づいてもらえるのか。じんわりと子どもたちの意識に届くことを大切にしたものだと思います。

トーマスを入り口にして、親子で地球のことを考える


──「きかんしゃトーマス」の主な視聴者層は未就学児だと思いますが、その隣には保護者もいると思います。保護者にもSDGsのメッセージを届ける狙いもあったのでしょうか。

根本:そうですね。ぜひ親子でいろいろな事を話し合いながら、映画やテレビを見てもらいたいですね。そうした会話を促すために、国連はトーマスのショートビデオも公開しています。SDGsの一部のテーマについて、トーマスが登場して解説をしてくれるものです。大変ありがたいことに、関係者の皆さんのご協力を得て、4月下旬には日本語吹き替え版をお届けできる予定です。

──先ほどの「6:安全な水とトイレを世界中に」も、ショートビデオがありますね。



根本:蛇口をひねればいつでも清潔な水が手に入るというのは、当たり前のことではないんですね。国によっては何キロも何時間も歩いて水を汲みに行く必要がありますし、気候変動の影響でさらにより遠くまで行かねばならい場合もある。こうしたことがトーマスの解説で語られています。

さらに国連にはSDGsを親子で考えるためのヒントを集めたウェブサイトもあるんですね。現在は英語版のみなのですが、たとえば安全な水についてはコーヒーフィルターで泥水をろ過する実験などが掲載されています。実際に実験をやってみたお母さんがInstagramに投稿されていて、もうお子さんが楽しくなって何度も何度もやっていると(笑) それを読んだ別のお母さんが、私もやってみる、とコメントされていたり。

──トーマスが親子でSDGsを考える入り口となっているんですね。

根本:そうですね。日本の事情で言いますと、2020年度から小学校の学習指導要領に、2021年度から中学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれます。「きかんしゃトーマス」を見て育った子どもたちが、小学校の教科書でSDGsについて学ぶようになるわけです。

──「これトーマスで見たあれだな」と。

根本:そうなるといいですよね。やはり早ければ早いほど、こうしたメッセージは子どもたちの意識に定着すると思いますから。


そらジローは「気候変動」、さかなクンは「海の豊かさ」を


──「きかんしゃトーマス」以外にも、国連とコラボレーションしているキャラクターはいるのでしょうか?

根本:日本ではハローキティとのコラボレーションも行っています。ハローキティは昨年秋からYouTuberとして活動しているんですね。そのなかでさまざまなことに挑戦しておりまして、月に1回、SDGsのことをもっと学ぼうという企画が進行しています。SDGsが実践されている現場をリポートしたり、インタビューをしたりしてくれているんです。あとは日本テレビ系列の「そらジロー」も。

──『every.』で木原さんとお天気コーナーをやっている、あのそらジローですか?

根本:そうです。2人でSDGsの「13:気候変動に具体的な対策を」を伝えてくれているんですよ。

──なるほど! 天気にゆかりのあるキャラクターですものね。

根本:さかなクンにも協力していただいています。子ども向けの講演などもされていますので、SDGsの「14:海の豊かさを知ろう」についてもお話いただいているんです。

──こうしてみると、どんなキャラクターもSDGsの17の目標のどこかにハマりそうですよね。

根本:日本はキャラクターが強い国ですから、多くの可能性を秘めていますよね。今回はトーマスという世界的人気のあるキャラクターとのコラボレーションですが、いつか日本発のキャラクターが国連のグローバルネットワークで展開されるかもしれません。私も楽しみです。

──では、これからもキャラクターとのコラボレーションは進めていかれると?

根本:それはもう、ウェルカムです(笑) 国連単体では難しいことも、キャラクターの力を借りれば、不可能が可能になるのではと期待しています。ご縁があればどんどん広げていきたいですね。
「きかんしゃトーマス」国連コラボに込めたメッセージ。そして「そらジロー」も一役買っていた事実
『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかにて大ヒット上映中

『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかにて大ヒット上映中
監督 デイビッド・ストーテン 脚本 アンドリュー・ブレナー
キャスト:比嘉久美子 田中完 他/特別出演:ISSA(DA PUMP)
提供:ソニー・クリエイティブプロダクツ 配給・宣伝:東京テアトル 配給協力:イオンエンターテイメント


(井上マサキ)
編集部おすすめ