『エール』第18週「戦場の歌」 86回〈10月12日(月) 放送 作・演出:吉田照幸〉

『エール』裕一、インパールへ「インパール作戦と朝ドラ」
イラスト/おうか

裕一、インパールへ。藤堂先生も

軍から慰問の要請が来て、裕一(窪田正孝)はビルマ(現ミャンマー)に向かった。同行者は画家の中井潤一(小松和重)と作家の水野伸平(大内厚雄)


【前話レビュー】歌は力になるのか 裕一に感じる盲信することの怖さ

太平洋戦争史上、「もっとも無謀」と言われたインパール作戦が行われる場所であるが、そんなことをつゆ知らない裕一たち。エキゾチックな宿の入り口はバカンスに来たみたいにも見える。

磯村中佐(平野貴大)はしばしラングーンにいてくださいと言うが、水野はさっそく戦地に行こうとする。中井もそれに続くという。でも、彼らが前線に行くことになったのは一ヶ月後。

裕一は水野から託された詞に曲をつけるなどして、ひとり過ごす。来た瞬間の画はバカンスみたいだったが、そんなことはなく、サソリはいるし、雨季に入ると洗濯ものがカビだらけ。予科練の青年が語っていたお母さんのおかげで洗濯物がいつもきれいだったこととは真逆である。まったく快適ではない。

裕一のモデルの古関裕而の自伝『鐘よ鳴り響け』によると、古関はこの前に一度、南方慰問でラングーンに来ている。インパールへは「特別報道班員派遣」という名目で、芥川賞作家・火野葦平と、洋画家の向井潤吉という、文学、絵画、音楽の専門家が集められていた。

火野は従軍作家として多くの本を書いた。
インパールのことを記した『青春と泥濘』(昭和25年)は代表作。戦時中はもてはやされたが、戦後は戦争責任を問われることになる。だが古関は自伝で、火野は「兵隊(すなわち当時の大衆の)もっとも深い理解者であり同情者であった」と違う視点で表している。

同じ戦地に、古関裕而と火野葦平という才能が揃っていたと思うと、軍も考え抜いて選んでいるなと思う。この戦地での体験を経て、彼らがどうなっていくかと思うと、それをこの一週間くらいで描くのはなかなか難題であったことだろう。ちなみに向井潤吉は戦後、失われていく茅葺屋根の民家をライフワークにした。

向井をモデルにした中井は前線を見てスケッチし、その地獄のごとき恐ろしさに、「犬死にです」「日本は負けます。命を尊重しない戦いに未来はありません」とはっきり言う。「未来はありません」でブツっと切ったことでこのセリフがいっそう重く響いた。

そんな戦地に、裕一の恩師・藤堂先生(森山直太朗)が軍の一員でいる。その情報を記者・大倉(片桐仁)に聞いた裕一は心配でならない。

『エール』裕一、インパールへ「インパール作戦と朝ドラ」
写真提供/NHK

音と華は福島に疎開

裕一を見送った音(二階堂ふみ)華(根本真陽)は福島に疎開。病気のまさ(菊池桃子)の看病をする。


それまで、母ひとり子ひとりで暮らしていた浩二(佐久本宝)が、母が倒れてから急に嫁が欲しくなってきたと言う。理想は“原節子”で、高嶺の花過ぎて、音は開いた口が塞がらない。

『あさイチ』では華丸、大吉は“原節子”ネタだけが救いだったと言葉少なであった。戦争の話だと笑いにもっていきづらいし、さりとて彼らが戦争について真面目に語るのも柄じゃないだろう。こういうときは先代レギュラー・柳澤秀夫がいたらなあと思ってしまう。

インパール作戦と朝ドラ

インパール作戦といえば、『ひよっこ』(17年)。主人公みね子(有村架純)の叔父・宗男(峯田和伸)がインパールの生き残りで、そこでの体験によってトラウマを抱えていた。彼が戦後、できるだけ笑って過ごし、英国の音楽ビートルズを好んだ理由は、インパールの戦場体験によるものだった(80話)。裕一の来た場所のそばに宗男がいるのかなと気になる。宗男がいたら、裕一の奏でる音楽に飛びついていたことだろう。

朝ドラ国防婦人会 気になるところをツッコミ隊

健康診断では丙種だった裕一。兵役を免れることのできる健康状態であるはずの裕一が、熱帯の暑さを表現するためランニング一枚の姿でいると、ものすごく鍛えられた丈夫なカラダに見える。いったい、その肩や腕、どこでどうやって鍛えたの、裕一? もうそれはしょうがない。鍛えるのが趣味なのかもしれないし、生まれつき筋肉がつきやすいカラダなのかもしれない。
そして丙種なのはカラダは丈夫でも視力が悪いとかそういうことかもしれないから。久志は痔だったし。

一方、裕一よりも年齢はだいぶうえで、カラダも丈夫そうに見えない藤堂先生が前線で戦っている。これらのことから、戦争の不条理さを感じるのであった。
(木俣冬)

※次回87話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。

【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan

主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

古山華…根本真陽 古山家の長女。
田ノ上梅…森七菜 音の妹。
文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。

関内吟…松井玲奈 音の姉。夫の仕事の都合で東京在住。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。軍人。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。
モデルは古賀政男。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。

佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。


藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。

御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

『エール』裕一、インパールへ「インパール作戦と朝ドラ」
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和

【84話レビュー】窪田正孝だからできる戦時下に絶え間なく逡巡が湧きながら歩き続ける難役
【83話レビュー】一貫して裕一の優しさを演じる窪田正孝の演技の妙
【82話レビュー】西條八十とのシーンに裕一が作曲家として影響力を持つようになった描写
編集部おすすめ