
日本中から愛されたあの家族が帰ってきた『監察医 朝顔』1話
「教えてください お願いします」主人公・朝顔(上野樹里)は興雲大学法医学教室に勤務する法医学者。亡くなった方の死因を調べる仕事で、朝顔は遺体に向かうにあたり、いつもこのように礼節を尽くす。そのときのマスクにフェイスシールドという出で立ちは、2020年コロナ禍を経験したいま、視聴者にとっても身近な姿になった。
多くの遺体の死因と向き合いながら、2011年に起きた東日本大震災で行方不明になったきりの母・里子(石田ひかり)のことを想い続ける朝顔。行方不明の母を探しに、父・平(時任三郎)は東北・仙の浦の現場に足を運ぶが、朝顔は心理的な事情からどうしても行くことができない。
傷を抱えながら生きていく朝顔の物語は多くの人に愛され、共感を呼び、2020年、続編『監察医 朝顔』が制作されることになった。第1シーズンの最終回でようやくトラウマを克服して、新たなターンから続編ははじまる。
待ちに待った第2シーズン第1話(11月2日放送)を振り返る前に、『監察医 朝顔』が愛された理由をまとめておく。
ラブストーリーが支持されなくなった時代、安定した人気を誇る医療ドラマとミステリードラマに、もうひとつ、ホームドラマを加えたことで、支持層が拡大した。働く妻、支える夫、なにげない日常生活、こういうものがみんな大好き。
「共感」が大事にされる時代に、主人公・朝顔を演じる上野樹里の所作は、仕事に関しても家事に関しても、自然なリアリティーが満ち満ちて、視聴者の生活と地続きに見える。
医療もの、ミステリーものの主人公は職場が舞台で、私生活が描かれないものが多いが、『朝顔』は朝顔の私生活のほうに重きが置かれている。
仕事に出かける前に食事の支度をする。帰って来てご飯を食べる。
父と娘のシリアスな話になりそうと察知した夫・桑原真也(風間俊介)は娘・つぐみ(加藤柚凪)をお風呂に入ろうと連れていく。さりげない日常の気遣いが見ていて心地よい。
プロは、仕事は徹底的にするが、家では何もしない、なんていう身も蓋もない話もあるが、『朝顔』の世界では、朝顔は、家事にも仕事にも当たり前のように心をこめている。
不運な事故で命を落とした男性の名誉のために
第1話で朝顔が担当したのは、“群衆雪崩”で亡くなった方々の死因。人気イベントに並んでいた多くの人たちが群衆雪崩に遭遇し、死者が出た。「これは事故じゃありません、殺人です」と訴えるのは亡くなった女性の夫・佐藤祐樹(松田元太)。妻が行列のなかで痴漢にあい、それがパニックを誘発し、雪崩が起き、妻は死んだ。痴漢の容疑者・佐々木も亡くなっていたが、被害者の夫の憤りは静まらない。謝りに来た佐々木の母を責める。
事件によって妻や息子を失くした人たちの気持ちは、母を失っている朝顔は痛いほどわかる。
松本は蟻の観察を通して人間社会における集団行動の研究をしていた。彼女の話をきっかけに朝顔は、佐々木の死因の真実にたどりつく。ここでは真相を詳しく書くことは控える。ただ、佐々木の名誉は守られた。
名誉は守られたとしても、不運な事故によって、母と子が永遠に分かたれてしまったことには変わらないし、事件の前に戻ることはできない。朝顔と母もまた同じである。朝顔は何度も何度も思い出す。母と別れたときのことを。母の顔と言葉を。

群衆雪崩事件と並行して、朝顔は仙の浦に向かう。
第1シリーズではやや背中を丸めて不安そうにしていた朝顔が、東北の土地をしっかり踏みしめ、背筋を伸ばして歩けるようになった。沼のなかに腰までずぼずぼと入って探索作業を行う(ひとりはちょっと危険だと思うけれど)。
東日本大震災から来年で10年になることもあって、東北で家族を失った物語はいっそう私たちに響く。沼が埋立地になるというのもありそうな話である。今年はコロナ禍もあって、日本中が不自由な暮らしを強いられている。震災、コロナに限らず、不幸な災害や事故は各所で起こっていて、『朝顔』はそれらすべてを包括した祈りの物語になるのだと思う。
「普通に生活していることがどれだけ幸せなことか」と朝顔は改めて思う。だが彼女の日常に新たな不安が影を差すことを匂わせて1話は幕を閉じる。
この回、印象的だったのは、集団心理を研究する松本の言葉だ。集団の間で、感覚や感情が伝播するということ。
「隣に人がいれば安心だから」(松本)
良くも悪くも人は集まる。“家族”とはその最小単位である。
(木俣冬)
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番組情報
フジテレビ『監察医 朝顔』毎週月曜よる9:00〜
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao2/