
※本文にはネタバレがあります
まさかの結末『先生を消す方程式。』4話
「義経を討伐したぞー」NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年放送予定)では頼朝、義経のキャストが発表になり盛り上がったこの1週間。
【前話レビュー】恋は無様――自らも「無様」だとする義経(田中圭)を突き動かす原動力は?
満月の夜、田中圭演じる義経を、朝日こと頼朝(山田裕貴)が、刀“矢”(高橋文哉)と弓(久保田紗友)と薙(森田想)と“剣”力(高橋侃)の4つの力を借りて討伐。
途中まではいつものパターンで、ピンチに陥った義経が立ち上がり、主題歌が流れるなか、悪事を行う生徒たちを正しい道に導く授業をする。心底やばい刀矢に従っているほかの3人が義経に説得されて改心しかかったのも束の間、義経は残念なことに……。
義経が山奥に呼び出され窮地に立たされたとき、伊吹命(秋谷郁甫)が助けになるかと思わせて足手まといになるだけという、予想を覆されたともいえるし、むしろ予想どおりだったともいえるという、“命”というキャラクターは、ゲームのアイテムみたいに使い勝手がいい。
細かいところはともかく、主人公が死んでしまうとは、田中圭が主演していたミステリードラマ『あなたの番です』(19年 / 日本テレビ)の前半、主人公の妻(原田知世)が死んでしまった以上の力技だ。ただひたすら意外な展開を用意し、注目を引き続ける、作り手の苦労が忍ばれる。
そしてそのトンデモ展開に合わせて、俳優たちがひたすらこめかみに血管を浮かせながら叫び続ける。それがこのドラマの見どころだ。
“賢いと思っている人×権力=馬鹿”の方程式を「演技の巧さ」に置き換えてみる
4話の義経は、1〜4話のなかでもっとも叫びマックスだった。これまでは抑えめ、燃えたぎる憎悪と哀しみをうちに秘めながら、聖職者としてギリギリまで踏みとどまっているストイシズムを感じたものだが、今回はついに限界突破。段階を追った分、その激しさは効果的。対する刀矢は、ただただキレッキレで、むやみやたらとキレてわめく感じが制御不能のやばさで押し切る。もちろん演じる高橋文哉は若いなりに計算もしているのだろうけれど、キレるときは歩留まり考えずに全力でキレていて、その全力が受け止めきれない怖さが面白い。彼を見ていると、日常、街なかで突然キレている人を見たときに、警戒心の発動のあらわれのような毛が逆立つ気分になる。
この争いをけしかけている朝日は、その怖さややばさを徹底的に客観視してコントロールしている。どうしたら相手に怖く見えるか、自分の言動がどれほどの影響を相手に与えるか、すべてわかってやっているし、動きや声音が自由に溢れでてくることを楽しんでいるようにも見える。いまが一番、こういう表現の伸び盛り時期にあるのだろう。
自分を外側から見て、感情の表出をコントロールしているという点では、義経と頼朝は同じだが、義経はそこに愛があり、朝日には情がない。
季節にたとえると、朝日は絶好調の夏で、刀矢は咲き始めた春から初夏で、義経はしっとりした情感も帯びた秋冬という感じで、どれにも見どころがある。
そんな表現ということに関して考えてしまった第4話。前半の、義経の「賢い人と賢いと思っている人の違い」“賢いと思っている人×権力=馬鹿”の方程式は、刀矢を諭しつつ、彼を影で操っている朝日に向けた言葉でもある。義経の目的は朝日であり、朝日にいいように使われている少年少女を悪の道から救い出そうとしている。
「賢く見せようとした時点で、絶対一番になれない」と義経は説く。
「巧く見せようとした時点で、絶対に一番になれない」と置き換えても、説得力はある。
とりわけ田中圭がそう言うと、うんうんと思ってしまう。なぜなら彼は決して、“この動き、この声のトーン、巧いでしょ”というふうに見せないから。
自分を空にして、その場で自然に感じたままに反応していくようなところが、見ている者に伝播する。アピールしないので地味に見えるときもあるけれど、じわじわと効いてくる。コロナ禍、相当、スケジュールが多忙であったと思うが、型にハメない演技だからこそ、複数の役が同じに見えずに済んでいる。
だからといって山田裕貴が型にハメているということではない。彼は彼で、自分なりの表現を惜しみなく作りあげている最中の勢いがあって、どれだけ手の内があるか、すごく楽しみな時期。高橋文哉はふたりの先輩からたくさん学ぶといいと思う。
以上、方程式の勝手な応用でした。
義経が消えて、どうなる5話?
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木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
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