『姉ちゃんの恋人』一緒に泣こう、笑おう――桃子は真人の「なんでも打ち明けられる人」になった
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレを含みます

観覧車のシーンで神回決定『姉ちゃんの恋人』6話

『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系 毎週火曜よる9時〜)第6話は、“捨てられた椅子に座る”から、壊れて捨てられた椅子を“拾って、直す”に発展した。

【前話レビュー】『姉ちゃんの恋人』は言葉にできない人間の弱さや脆さをセリフにしようと格闘している

真人(林遣都)はまるで、街の片隅にぽつんと置かれた壊れた椅子。それを桃子(有村架純)高田(藤木直人)がまだ座れるよと優しく手を差し伸べているように見える。


真人が告白を断ると「絶対やだ」と粘る桃子。それでも真人は彼女を突き放す。本意ではないから途方に暮れている真人に、高田が膝カックン。そんなことよりもあったかくて甘い缶コーヒーを持って来て「飲めよ」と言う普通の慰めの要求を高田はスルーし、「つらくても辞めるな」と本質を突く。でもそれも「女の子で辞めて」「女の子で辞めて」の繰り返しになるぞと励ましや慰めに必ずユーモアを入れることを忘れない。そのうえ、あとで、ちゃんと“鬼甘”の缶コーヒーを真人に手渡すのであった。

桃子の恋に反対するみゆきの真意

高田と日南子(小池栄子)は馬が合うだけあって、他者に対する気の使い方が似ている。日南子は桃子に、人間には「2種類の仲間がいると幸せ」で、それは「なんでも打ち明けられる人」と「なにも聞かずにバカやって、一緒に笑ってくれる人」なのだと言う。日南子は桃子の後者になり、高田は真人の前者プラス後者のハイブリッドだろうか。

「かわいかったり楽しかったり好きだったり、どんどんしんどくなるな」と真人の桃子への気持ちを理解し、「逃げていいときがある」けれど、「いまは逃げちゃだめだ。乗り越えるんだ」とここは真面目。

桃子がなんでも打ち明けられる人は、みゆき(奈緒)。桃子の叔父で、真人の保護司である川上(光石研)が桃子と真人のことで悩んでいることを聞いたみゆきは、あえて、桃子の恋に反対する。


「必要なんだよ、あんたには反対する人が」
「こういうとき、親だったら絶対に反対するの」
「嫌われても悪役になっても反対するの親は。あんたのことを思って」
「おじさんがあんだけ困っているなら(反対するのは)私しかいないじゃん」
「その人を納得させるには幸せになるしかないの」

何度も「反対」という言葉を繰り返し、似た感じの言葉を何度も言い続ける。不器用ながら真剣に言葉を尽くそうとしている。最初は、むぅ〜という顔をしていた桃子の表情は、みゆきの真意を胸に染み込ませながら、徐々に変わっていく。

表情が変わるのは真人もそうで、桃子も真人も、相手の言葉に真摯に耳を傾け、心を素直に動かしていく。

「もう1周しようか」

桃子は真人を観覧車に呼び出して、「最後に本当のことを聞かせてください」と持ちかける。かつての恋人のことをかばう話ではなく、本当に体験した状況と感情を話してほしいと言う桃子に、真人はついに誰にも話せなかった本当のことを話す。

桃子は真人の「なんでも打ち明けられる人」になった。

このときの林遣都と有村架純の表情がとてもいい。人が頭の中や心の中に実感がないときの顔と、実感しているときの顔は違う。嘘を言うときは右脳が働くから目が右を見て、記憶に基づいて話すときは左脳が働くから目が左を向くという説があるが、実感がある話をしているとき、人はたいてい目や口がたえまなく微動していて、その場を追体験しているような生々しさがある。

『姉ちゃんの恋人』一緒に泣こう、笑おう――桃子は真人の「なんでも打ち明けられる人」になった
第7話は12月8日放送。画像は番組サイトより

逆に、実感がなく、紙に書いたようなことを読み上げているようなときは、キメ顔みたいな止まった顔になっていることは多々ある。全部が全部そうとは言わないけれど、そういうことはよくある。


林遣都は、真人という役が経験したことであって自分が経験したことではないにもかかわらず、あたかも経験したことを脳で再生し、心をもう一度痛めているように見える。有村架純も、台本を読んで知っている話を、あたかも初めて聞いた話のように、体中で衝撃を受け、それが表情に出ているふうに見えた。

「恋人になれないのわかりましたって言ったけど撤回します」
「もっともっともっと好きになっちゃいました」

そう言われたときの真人は、「撤回します」ですこしだけ何かを期待したような顔になる。真人はこれほど他者を拒否しながら、本心では、「はいそうですか」と去らない人を待っていたのではないだろうか。桃子が残ってくれたことが嬉しい、救われたという顔をしている。

真人の涙を指でぬぐい、手をにぎる桃子。

「一緒に泣こう」
「一緒に笑おう」

観覧車は1周して地上に戻ってきた。「もう1周しようか」と言う真人。なにごとにも消極的だった彼がおずおずと控えめながら初めて言った積極的な提案。

キメ顔ではないふたり。どこも切り取れない、全部が連なって成り立っている表情。その体温と呼吸の存在が愛おしい。
映画でもテレビドラマでもなかなかここまでの表情は拝めない。大きなスクリーンで観たいくらいの贅沢なシーンだった。

真人の家には、貴子(和久井映見)が家に持ち帰った壊れた椅子が、真人の手で直って、誇らしく置かれている。「前より幸せな椅子にして」と貴子に言われて、「腕が鳴るね」と精魂込めたのだろう。その背には、小さな地球の絵。桃子と真人が出会ったきっかけの地球。この地球(ほし)に生まれたことを喜びたい。なんかもう上質な絵本のようなドラマである。

桃子の愛する3兄弟・和輝(高橋海人)、優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)が、かぼちゃコロッケを作って姉を待っているシーンも良かった。和輝のザ・ジャニーズ!という感じのパーフェクトなアイドル笑顔が最高だったことと、そんな和輝が、大好きなみゆきに、農大はコロナ禍の現代で将来性があるというようなことを言われ、「結婚しても安心できる感じだよ」と気をよくすると、「そういうことは軽々しく口にするものではありません。戦争が起きるよ、戦争が」とみゆきはたしなめる。「戦争」って……。


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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

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番組情報

カンテレ・フジ系『姉ちゃんの恋人』
毎週火曜よる9:00〜

公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/
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