『おちょやん』第4週「どこにも行きとうない」

第20回〈12月25日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』みつえと千代の友情に感動 そして千之助と万太郎に吉本芸人をキャスティングした理由に納得
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

須賀廼家千之助と万太郎に吉本芸人をキャスティングした理由

アクシデントによって急遽、千代(杉咲花)が代役をつとめた天海一座の公演は、ばたばたながら無事幕が下りた。

【前話レビュー】またここへ帰ってきます――コロナ禍で涙を飲んだ演劇人の思いがこもったドラマに

がらんとした劇場に佇む千代に一平(成田凌)が「笑かすだけが喜劇と違うてこと」に気づいたと言う。これがのちの、笑って泣けるしみじみした人情喜劇・松竹新喜劇になるというわけだ。


だからこそ、松竹新喜劇とは関西ではライバルにあたる吉本興業所属の星田英利と板尾創路が、笑いを優先した芝居をする俳優として出演したとすれば納得のキャスティングだ。

一平がこれからこれまでにない芝居を目指していく、そのきっかけが千代のお芝居であったことには、これからの千代と一平の運命を感じさせる。でもそこでふたりが、意地っ張りっぽい一平が「おおきに」と千代に感謝し、千代は千代で、これがお別れである寂しさを押し殺して「楽しかった」「おおきに」と去っていき、素直になれない。そこもまた、人情喜劇の味わいがある。

その余韻と、主題歌「泣き笑いのエピソード」の小さなしずくのような前奏がうまくつながる。この歌はこういうちょっと叙情的なアヴァンのほうが相性はよさそうだ。

「何や今日は楽しいことばっかりや」

年季明けのお祝いになにか欲しいものがないかと、宗助(名倉潤)に聞かれた千代は、岡田家の人々と一緒に食事をすることを願う。家族でゆっくりご飯を食べた体験がないのだという千代。

8年間、お茶子仲間ともゆっくりおしゃべりしながらご飯を食べることなく、働き続けてきたということかと思うと、千代の笑顔に胸がきゅっと痛くなる。いや、岡田家の人たちとご飯を一緒に食べてみたかったのかも。お父さんやお母さんやきょうだいやおばあちゃんみたいな人たちと。

「何や、今日は楽しいことばっかりや」と微笑む千代。これもまたすこし強がりが入っている。


さて。ここで注目は宗助の存在である。岡安は女性ばかりで、宗助しか男手がいない。いよいよ借金取りが千代を迎えに来たとき、岡安の人たちは一丸となって、千代を逃がそうとする。宗助は、酒の相手をして、にこにこするばかりで、あまり役に立たない。

シズ(篠原涼子)を筆頭に、みつえ(東野絢香)や、かめ(楠見薫)やお茶子たちは、毅然と立ち向かっていく。現実的に考えたら、危ない行為だと思うけれど。そこはフィクションで。ただ幼い里子はなにがおこるかわからないからとその場にいないという配慮があって、危険は覚悟であることは描かれている。

ひとり、何もできず、泣きそうに笑っている宗助から滲むペーソスは、お笑い芸人の名倉潤だからこそのものだと思う。

乞食たちの恩返し

みつえに手を引かれて、千代は逃げる。途中で立ち止まって、みつえと千代の友情を確かめ合う。予想どおり、そんなことをしているうちに、追いつかれてしまう。


全体的によく出来た内容ながら、ここだけ欲を言えば、千代とみつえ、全力で走り続けてほしかったかも。全力で走っても追いつかれてしまって、危機一髪、みつえが、千代だけ先に行かせて、そこに乞食がーーという流れで、朝から心臓バクバクさせてほしかった。

とはいえ、乞食が暴力で対抗するのではなく、その身の汚れを武器にするところは痛快だった。船着き場にはシズが待っていて、船頭さんは小次郎(蟷螂襲)で、うなぎの恩は返すと笑う。

『おちょやん』みつえと千代の友情に感動 そして千之助と万太郎に吉本芸人をキャスティングした理由に納得
写真提供/NHK

ハナ(宮田圭子)も乞食と相互関係を結んでいたが、千代は子供の頃、しらみがわくくらいの貧しさだったから、乞食たちに親近感があったのではないだろうか。『おちょやん』は貧しい人を主に描いているのだと思う。

「ここは芝居の街だっせ」

「これからは自分のために生きますのや。生きてええのや」と千代の背中を押すシズがやっぱり『ハケンの品格』の大前春子みたい。

岡安に戻ったシズは福富のご寮人・菊(いしのようこ)から用立ててもらったお金で、借金を返済する。でもそれは200円。2000円と法外な利子をつけて返済額を膨らませてはいるものの、元の借金はそんものだろうと踏んだシズ。カッコいい。

最初からお金を用意だてると千代を岡安に縛り付けてしまうことになるから、ショック療法的に千代を逃したのだ。
ここも大前春子みたい。

ハナとふたり、芝居をして借金取りを追い返し、「ここは芝居の街だっせ!」と芝居で言えばここは見得を切る場面である。

『おちょやん』みつえと千代の友情に感動 そして千之助と万太郎に吉本芸人をキャスティングした理由に納得
写真提供/NHK

その頃、千代を乗せた小舟は川をゆっくり進んでいた。汚い川には水面に提灯の灯りが反射してキラキラときれい。それを橋の上から見送る一平。そこに芸妓がやって来る。「相変わらずきたない川やなあ思って」と一平は千代をそっと見送っていることを誤魔化す。

千代は、芸妓と一緒にいる一平を見て、呆れ顔。やっぱりふたりは意地っ張り。汚い川にも花が咲いていることに気づいて、微笑む千代。

きれいはきたない、きたないはきれい(「マクベス」より)。「ひとはあべこべ」と『エール』で二階堂ふみが言っていたが、人の心の内は一筋縄ではいかない。


テルヲの意外な顔

千代をそっと見送っているのは一平だけではなかった。テルヲ(トータス松本)がなんだか神妙な顔で見つめていた。

借金取りが千代を迎えに岡安を訪ねたときも同行していたが、借りてきた猫のようにおとなしくしていた。千代を危険な料理屋で働かせることには、さすがに良心が咎めているのか。

今年の『おちょやん』はこれで終了。28日に、関連番組『連続テレビ小説「おちょやん」よいお年を!』(総合テレビ 前8:00~8:15、BSプレミアム / BS4K 前7:30~7:45)で放送される。 また、関西地域のみだが、年明け1月3日、『おちょやんレトロトリップ~大阪&京都 エンターテインメントの聖地めぐり~』(総合 後5:00~5:43)も放送。通常放送は1月4日から。

2021年も、朝ドラを応援していこう。

【関連記事】『おちょやん』18話 最高にイラッとするテルヲのセリフ 考えついた才能を讃えたい
【関連記事】『おちょやん』17回 あかん! 千代が「ろくでもない料理屋」に売られてしまう! それ、どんな料理屋?
【関連記事】『おちょやん』16回 トータス松本演じる父テルヲが卑しくてしょうもない…そこに男前・成田凌

■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


※次回21回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね

番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ