『おちょやん』第10週「役者辞めたらあかん!」

第48回〈2月10日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:中泉慧〉

朝ドラ『おちょやん』はみ出し者集う鶴亀家庭劇 座長は千之助になってしまうのか
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「手違い話」のアドリブは星田作だった

「手違い話」の豪快なアドリブ部分の台本は、千之助役の星田英利が実際に書いたものだと自身のブログに書いてあった。2月9日「おちょやん劇中劇」(https://ameblo.jp/ho-sshiyan/)のところをぜひ読んでみてほしい。NHKからの要望に応えていろいろ工夫していたことがわかる。
すごい。演技だけでなく台本まで考えるとは大活躍ではないか。

【前話レビュー】千之助のアドリブに客は爆笑も一平がやりたい芝居はあれやない そこに謎の紫のバラの人

これほどまでに関係者が一致協力して臨んでいる『おちょやん』、これからどんどん熱くなっていくに違いない。実際、48回はその熱がかなり上がった。

千代(杉咲花)と千之助が舞台で演技勝負することになる。「くやしかったらわしより笑いとってみいや」と挑発する千之助に、「やったろやないけ」と受けて立つ千代。ぬけぬけとした顔の千之助、燃えるような目の千代。にらみ合うふたりのアップ。

この猛々しさは朝ドラには珍しい。草食化した日本人に野性味を! という心意気なのか、高峰ルリ子(明日海りお)の過去の話もかなりの激しさだった。

高峰ルリ子の過去

なんと高峰ルリ子は、以前いた花菱団で、主役の座を奪おうとした女優を絞め殺そうとして、劇団を追われていた。

千代と一平(成田凌)が、千之助と対立して劇団から出ていってしまったルリ子を連れ戻しにいくと、彼女が役者の仕事だけでは食べることができないから、旅館で働いていた。流れ流れて道頓堀にやって来てもうあとがない。
鶴亀家庭劇が最後のチャンスだったが諦めてしまっているルリ子。猫に餌をあげているしゃがんだ姿がさみしげ。この野良猫とルリ子が重なって見える。

ルリ子は、ライバル女優を絞め殺そうとしたという噂のせいでどこに行ってもお払い箱にされてきたと知った千代と一平は、劇団員にその話を報告。みんなでこれからどうしようかと考える。

家庭劇に集められた者たちは、さすがに絞め殺そうとするほど過激なことはやっていないが、みなそれぞれルリ子と似たようなものだと境遇を噛みしめる。

育てた若い者に時代遅れと言われたり、信じていた仲間から妬まれて居場所がなくなったりしてきた歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)。好きだった人から後ろ指指される悲しみを知っている鶴亀歌劇団の石田香里(松本妃代)。天海一座が流行らなくなって解散してしまった一平たち。千代は撮影所から解雇された。千之助も万太郎(板尾創路)に捨てられた。みんな同じようなはみ出し者。
だからこそ、新しいことができると一平は希望をもっている。

朝ドラ『おちょやん』はみ出し者集う鶴亀家庭劇 座長は千之助になってしまうのか
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』はみ出し者集う鶴亀家庭劇 座長は千之助になってしまうのか
写真提供/NHK

このようにはみ出し者の集団が世間を見返すというのは古今東西エンタメの王道である。古くは『がんばれベアーズ』とか『アパッチ野球軍』、新しいものでは『梨泰院クラス』。馬鹿にされていた彼らが立ち上がって力を発揮していく姿はわくわくする。

そして、この手の話に、さらに定番なのは、仲間割れしたあとの和解。最大の和解は、場を乱しまくる千之助が一平を認めて
みんなで力を合わせることだが、その前に千代とルリ子が和解した。

高峰ルリ子と千代の和解

菊(いしのようこ)から、ルリ子が上方の言葉を菊から学んでいたと聞いた千代は、その努力に感銘し、もう一度ルリ子を連れ戻しに行く。

主役を奪おうとした若い女優を絞め殺そうとしたという噂のあるルリ子であったが、そこまでするには理由があった。座長とルリ子は婚約していたが、仕事も恋も若い女優に奪われ、首を締めてもいないのに、そういう噂を立てられた。しかもその女優が千代に似ていたという。絵に書いたような悲劇。

裏切られることを恐れ、自分から先回りして人から距離をとっていたルリ子。千代の誠意によって笑顔を取り戻した。
演技していないときも、舞台のような口ぶりと仕草をしていたのも、他者に心を許していなかったのであろう。素直に笑ったときの表情は自然に柔らかいものだった。横切る猫のようにしなやか。

繰り返される、女の悲劇

ここからは、あらかじめモデルの浪花千栄子の話を知ったうえでドラマを観ていなくて、先の展開を知りたくない方は読まないでください。

ルリ子が、婚約者に捨てられた話には、山村千鳥(若村麻由美)を思い出す。夫に愛人ができて離婚した過去を引きずって世の中に対して斜に構えて生きていた。こういう女性が男性に裏切られるエピソードが続くのは、千代のモデルの浪花千栄子が夫に愛人ができて離婚するという話を知っていると、千代の未来を暗示しているように感じてしまう。

男に捨てられるだけでなく、前述のように、同僚に捨てられたり、後輩に捨てられたり、職場に捨てられたりと、捨てられた人たちの物語というコンセプトにしているとしても、千鳥やルリ子のような男性に裏切られるエピソードを何度も出さずともいいのではないか。幽霊が出るか出るかと振りに振るホラー映画みたいなものだろうか。これなら、千代の物語はこの悲劇をなぞらない、捨てられる捨てられる詐欺的な意外展開を期待したい。大河ドラマ『麒麟がくる』で光秀が生きているかも? としたように。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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