『ボス恋』8話  潤之介にプロポーズされた奈未。選ぶのは恋か仕事か(次週はまだ最終回じゃない)
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレがあります

仲深まる奈未と潤之介『ボス恋』8話

『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系 毎週火曜よる10時〜)の第8話は、主人公の奈未(上白石萌音)の勤務する音羽堂出版が吸収合併されそうという最大の危機を描く。

【前回レビュー】『ボス恋』中沢と夜を共に? 潤之介が事故!? 大丈夫、ハラハラせず安心のいちゃこらを楽しんでください

会社が合併したら、売上が芳しくない「MIYAVIは存続できない。なんとしてもこの危機を回避しないといけないと、売上をあげるための最後の悪あがきを図る「MIYAVI」編集部一同。


張り切る奈未の支えは、白い子犬系男子・潤之介(玉森裕太)。バイクで事故った件は大問題にはならず、奈未と彼の仲はさらに深まる。

潤之介は仕事に忙しい奈未のために朝食などを作ってくれる。これはまるで『私の家政夫ナギサさん』状態である。ひと昔前のドラマであれば、ヒロインが恋する男子に食事を作ることもこのうえない喜びとして描かれたものだが、いまや時代は変わった。ヒロインは仕事に励み、恋人が食事を作る。

とはいえ、これができるのは、潤之介がヒマだからである。カメラマンといっても、さほど売れっ子ではないし、実家がお金持ちなので、生活に困っていない。そういう人だから、忙しい奈未に代わって食事をつくり、応援できる。そんな好都合な人物はなかなかいない。

奈未も上げ膳据え膳なだけではなく、夜、仕事から帰ってきたときは、自分でお茶を入れる。それにはホッとした。
もしもお茶まで入れてもらったら、奈未にまったく共感できなくなる。

最後の砦は守った奈未だったが、真剣な会議中に彼のことを思ってニヤニヤしてしまうのはいかがなものか。人間ってそういうものかもしれないと思うのと同時に、やっている仕事が風前の灯というヘヴィーな状況、胃が痛くなって夜も眠れず食欲もなくなってしまうから、そんなことをリアルに描いても、見ていて楽しくないわけで。ドラマだけでも現実逃避したいという視聴者の気持ちに寄り添うやさしさは、やたらとキラキラした背景や、うるさくない劇伴から感じられる。

奈未と麗子がすっかりいいコンビに

潤之介は、奈未の部屋で「彼氏ができたらやりたい10のこと」のメモを見つけ、ひとつひとつ、叶えようとする。名前を呼び捨て。自転車の二人乗り。プリクラを撮る。さっきまで会っていたのに電話……などなど。いままでと違う潤之介の態度に、「もしかして誰かと中身入れ替わってません?」と首をかしげる奈未。

「やりたいことメモ」は『俺の家の話』、「入れ替わり」は『天国と地獄』。今期のTBSドラマの小ネタが盛り込まれた。あとになってわかるのは、この「やりたい10のこと」は中学のときのもので、だから内容がものすごく幼い。
そうとは知らない潤之介はそれをすべて叶えようと、制服の第2ボタンまでくれる。なんとも無邪気な潤之介。こんな人、なかなかいない。それを玉森裕太が嫌味なく演じている。

キラキラのスケートリンクを貸し切ってふたりだけのスケート。キラキラを背景に、一輪の花を差し出す潤之介。「彼氏ができたらやりたい10のこと」は、視聴者が若いときにやってみたかった憧れシチュエーションでもあるだろう。

ヒロイン奈未にいいことばかり! 編集長・麗子(菜々緒)のパワハラが週刊誌の記事になって、せっかくスポンサーになってくれた長野の企業が下りてしまうかもしれないピンチになっても、奈未の奮闘で回避。麗子とはすっかりいいコンビになった。

どうなるMIYAVI、どうする奈未

最後になるかもしれない号の撮影を潤之介が担当(このときのカメラを構える表情が凛々しい)。彼にとっても最後の現場。それを無事やり遂げた彼は、麗子に改めて奈未を恋人だと紹介する(これも奈未のやりたい10のことのひとつだった)。料理が上手じゃないけどオムライスを作ってくれると言って、自分が作ったことは言わない優しさ。
「姉ちゃんみたいにバリキャリじゃないけど」そこがいいと言う潤之介。

わずか200文字の紹介原稿を任されて一生懸命になる奈未の姿は、たった200文字のことで? という気もするが、編集者やライターの最初に、短い写真につくキャプションを書くだけでも嬉しかったり頑張ったり多くの思いや苦労があることは確かだ。

頑張ったものの「MIYAVI」は廃刊が決まる。実質「廃刊」でも「休刊」といっておくのが出版の世界のお約束なのだが、一般的にわかりにくいので「廃刊」と明示しているのだろう。

ここでカッコいいのは麗子。たとえ、編集部が解散しても、麗子と共にやっていきたいと言う奈未に、「あなたが憧れるべきは私じゃない。この仕事」と返すのだ。

『ボス恋』8話  潤之介にプロポーズされた奈未。選ぶのは恋か仕事か(次週はまだ最終回じゃない)
第9話は3月9日放送。画像は番組サイトより

その後、状況が翻って「MIYAVI」存続が決まるが、その条件として麗子だけ辞めるように命じられると、潔く「いかなる困難なことがあっても、ファッション雑誌は継続されないといけないの」「私は道筋を作った」とライバル編集長・高橋(高橋メアリージュン)と、彼女の気持ちは終始一貫している。

出版という道を走り、誰かにバトンを託す、それでいいという滅私の心がカッコいい麗子に対して、ヒロイン奈未はこのまま素敵な王子様との恋を実らせて玉の輿に乗るのであろうか。

ラスト、結婚して一緒に金沢に行こうと言われたときの奈未の表情は複雑だった。奈未が選ぶのは、麗子か潤之介か。どっちも獲得できるのか。
来週、最終回みたいな雰囲気だが、あと2回くらいはあるとしたら、何が起こるか。

腕の病を抱える理緒(倉科カナ)の存在もまだ気にかかる。昔の少女漫画だったら、未来の夢を失った理緒を潤之介が支えることを選び、主人公は凛として仕事に生きていくなんてパターンもあった。例えば『キャンディキャンディ』のキャンディとテリーのパターン。「ボス恋」はどうなる?

【関連記事】『ボス恋』6話 潤之介と中沢に告白され、編集長に礼も言われ、でも抱き合う理緒と潤之介も見ちゃって起伏激しい
【関連記事】『ボス恋』は逆『半沢直樹』である 柔らかさの中に潜む上白石萌音・玉森裕太の表現者としての修羅 5話
【関連記事】『ボス恋』4話 奈未に徹底的に忠実な“子犬”で居続けようとする玉森裕太が申し分ない

※第9話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします。お見逃しないよう、ぜひフォローしてくださいね。

●第9話あらすじ
潤之介(玉森裕太)から、スケートリンクで突然のプロポーズ、そしてカメラマンを辞めて金沢へ帰ることを告げられた奈未(上白石萌音)。突然の出来事に驚き、咄嗟にプロポーズの答えを出してしまい……。
翌日、奈未がコーヒーを届けに行くと、編集長室から麗子(菜々緒)の荷物がきれいさっぱりなくなっていることに驚く。MIYAVI編集部メンバーが集められ、半田(なだぎ武)から今後の音羽堂出版の吸収合併後についての説明をされる。そこになんと新編集長として麻美(高橋メアリージュン)が現れ、麗子はMIYAVIから外れることになったと告げられた。
突如とした編集長交代に、事態が飲み込めない編集部一同。
さらに麗子が行方不明になっていると聞き……。

――番組サイトより


番組情報

TBS系
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
毎週火曜よる10時〜

出演:上白石萌音(プロフィール) 菜々緒(プロフィール) 玉森裕太(プロフィール)
間宮祥太朗(プロフィール) 久保田紗友(プロフィール) 亜生(ミキ)(プロフィール)秋山ゆずき(プロフィール)
太田夢莉(プロフィール) 高橋メアリージュン(プロフィール) なだぎ武(プロフィール) 犬飼貴丈(プロフィール) 橋爪淳(プロフィール)
山之内すず(プロフィール)
宮崎美子(プロフィール)
高橋ひとみ(プロフィール)
宇梶剛士(プロフィール)
倉科カナ(プロフィール)
ユースケ・サンタマリア(プロフィール)

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/BOSSKOI_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ