『おちょやん』第22週「うちの大切な家族だす」
第106回〈5月3日(月)放送 作:八津弘幸、演出:佐原裕貴〉

千代、いきなり子だくさん
昭和26年、千代(杉咲花)は、長澤誠(生瀬勝久)作、花車当郎(塚地武雅)主演のラジオドラマ『お父さんはお人好し』に出演することになった。【前話レビュー】紫のバラの人は栗子だった カタストロフィーからカタルシスへ――見事な逆転劇
当郎の新聞記事にドラマの告知が載っていて(放送は4月4日から)、そこに千代の名前も並んでいたため、道頓堀の鶴亀新喜劇一同や、岡福の人々が見つけて大喜び。その頃、一平(成田凌)は悩み苦しみながら新作喜劇に取り組んでいた。
別れた千代と一平は、それぞれの道を歩み始めていた。違うドラマがはじまったかと思った。――これは「朝ドラあるある」のひとつである。長丁場の朝ドラでは、途中で「最終回かと思った」かのようなまとめの回があったり、「違うドラマがはじまったかと思った」かのような新展開があったりする。
『おちょやん』もラスト2週間にして雰囲気ががらりと変わった。NHK大阪放送局の部屋が洋間であること。洋服を着ている人が増えたせいもあるだろう。これまで『おちょやん』は千代をはじめとしてメインの登場人物が皆、着物を着ていたが、ラジオドラマ関係者たちはスタッフも俳優も洋服が多いので印象がだいぶ違う。
『お父さんはお人好し』は果物屋を営む藤森アタ五郎(当郎)と妻・チヨ子(千代)と12人の子供とさらに孫による大家族の物語。この説明はオープニングと同じ犬ん子のイラストで行われた。ラスト2週間なので、振り返りモードでいくと、オープニングアニメほか時々本編にも出てきた犬ん子のイラストはクラシックさと新しさとかわいさと毒っけが混じり合った魅力的なものだった。千代猫の可愛さはドラマの救いになった。
本読みがはじまると、千代と当郎との掛け合いはいい感じ。千代の口調も軽妙で、時折、そっと当郎を見る表情や間合いもいい。ただ、なにぶん大家族もの。家族の名前が覚えられず困った千代は、役名で呼ぶことを提案する。役名は東海道新幹線の駅名からとられたもの。そう思ったら覚えやすい。
ラジオドラマだから台本を覚えなくてもいいと思いきや、長澤はまるで本当に家族がいるように自然にセリフを言ってほしいと希望する。意外と大変なお仕事だが、千代はやりがいを感じ、その表情は見違えたように明るい。
家族役の俳優たちに本当の母のように接する千代。本番前にピリピリした空気をほぐしたり、これが最後のチャンスと気張っている京子役の俳優の頬に両手を当てて血の気を蘇らせてあげたり。本来、鶴亀家庭劇や新喜劇の頃も劇団員の人たちにこんなふうに接していたのだろう。
振り返りモードに入ると、千代のそういう創意工夫がドラマの端々にあると千代が主人公として月のようにやさしく光っていられたのではないだろうか。
道頓堀の人たち、それぞれ
新聞を読んだ岡福の人たちは大喜び。みつえ(東野絢香)は放送局に千代の連絡先を聞きに行くと立ち上がるが、シズ(篠原涼子)は止める。彼女の深い傷を理解し、昔の知り合いはまだ会わないほうがいいと気遣う。なんとも切ない。切ないといえば、一平。千代が一平の醜聞がきっかけで辞めて以来、劇団から客は離れたままだった。新作を書き直そうとする一平。「何十年後もお客さんが観てくれるような本物の喜劇を作りたい」とやる気になったのは、千代が頑張っていることを知って刺激を受けたのであろう。一平がひどいことをして退場、ではなく、千代と別れた一平にも見せ場がありそうだ。
一平のモデルの渋谷天外(二代目)の著書では、千代のモデルの浪花千栄子が辞めてから、彼女に気を使っていた他の女優たちが力を伸ばしてきたことで劇団が好調になったと書いている。そういう部分もあったかもしれないし、負け惜しみのような気もしなくもない。浪花千栄子側からしたら、座長の妻であるため、贔屓に感じられないように脇に回るなど気遣いをしていたようである。
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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami