『おかえりモネ』第1週「天気予報って未来がわかる?」

第5回〈5月21日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

スタートから1週間『おかえりモネ』が朝ドラとして新しい点を4つ挙げてみる
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

『おかえりモネ』が意欲的な新しい朝ドラである理由

新しくはじまった朝ドラ『おかえりモネ』を1週間(5日)観て、朝ドラとして新しい点を4つ見つけた。新しければいいわけではないけれど、新しいと感じることはやっぱり心が騒ぐもの。順番に挙げてみよう。


【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1話〜第5話掲載中)

■新しい点(1)主人公がミステリアス「この島を離れたい」
主人公モネ(清原果耶)はそう家族に言って、生まれ育った海の町から山の町・登米にひとりやって来た。なぜ彼女は「島を離れたい」のか。そして、彼女にどこか憂いのある理由とは……。

『おかえりモネ』は朝ドラにしては珍しく、主人公の状況や気持ちがわからないように描いている。通常なら、島を離れたい出来事を描き、島を離れたくなり、離れる、順番に書かれることが、『おかえりモネ』では伏せられていて、それがドラマの求心力になっている。

ちょっとずつ、ちょっとずつ、じわりじわりと、主人公の心もようを明かしていく。モネがやりたいことに気づくことと、モネがなぜ故郷を離れたのか、未来と過去、その両方がゆっくり輪郭を作っていく。

サヤカ(夏木マリ)がアスナロの木に例えて「焦らなくてもいい。ゆっくりでいいんだ」(第2話)と言い、気象予報士・朝岡(西島秀俊)は「霧はいつか晴れます」(第5話)とモネに語りかける。モネは今、霧のかかった状態にある。

■新しい点(2)喪失感より無力感
大切な人が亡くなった喪失感を抱いて生きる人物を描くことが多い朝ドラだが、モネの場合は「喪失感」ではなく「無力感」に駆動されている。やりたいことがみつからない無力感。
そして、過去、ある出来事が起こったとき、何もできなかった「無力感」。

「喪失感」は人類、最大の共感ポイントではあるけれど、喪失には大小があって、大きい人の気持ちを理解できると言えるかわからない。そんな無力感を抱く人を主体に書いた朝ドラはちょっと新しい。

朝岡が登米を堪能して東京に帰るにあたり、早朝・名物の移流霧を見に行くのにつきあったモネ。そこで見た霧が地元・気仙沼の霧(けあらし)に似ていると感じる。それが好きだったモネ。その話をしながら、高校生のときに見た光景を思い出す。

「でも、あの日、私……何もできなかった」
モネの瞳は涙でできているように透明で、哀しみに満ちていた。

■新しい点(3)迷信は迷信として描く
登米の山の木を愛するサヤカ。大事な木を伐採することを渋っていたが、能舞台の材料にするなら……と思い直しはじめていた。ただ、その木が役立つ時には自分はもう生きてないかもしれないと一瞬弱気になるも、モネに励まされ「100年後の未来だってあの世から見届けてやる」と前向きになった。

その姿に「おはようございます。
死にました」の『カーネーション』を思い出した朝ドラファンもいるのではないだろうか。『カーネーション』の主人公の晩年を演じた夏木マリ。老いても元気に前向きに人生を謳歌していたが、最終回で「おはようございます。死にました」とナレーションで表れ、視聴者を驚かせた。

スタートから1週間『おかえりモネ』が朝ドラとして新しい点を4つ挙げてみる
写真提供/NHK


スタートから1週間『おかえりモネ』が朝ドラとして新しい点を4つ挙げてみる
写真提供/NHK

亡くなった人の思念が残るのは朝ドラでは定番で、モネの祖母も死後、牡蠣に生まれ変わって見守っている。幽霊もよく出てくる。死んでも傍にいるという考え方がいちばん強く描かれたのは、妖怪の存在を描き続けた漫画家(水木しげるがモデル)の妻の物語『ゲゲゲの女房』だった。

朝起きて、仏壇にご飯をお供えし、手を合わせる。昭和の時代はそれが当たり前の家庭が多かった。その習慣が、亡くなった人が見守っている描写が多い理由ではないだろうか。

と、ここまでは従来の朝ドラらしい表現。だが『モネ』はこういった不思議なことを信じる気持ちを描く一方で、科学の視点が入ってくる。


無力感にさいなまれるモネは、彩雲を見るといいことがあるとサヤカから聞いて、心の支えにしようとしたが、朝岡はそれを「迷信でしょう」とあっさり否定する。朝岡は現実的な人であり、曖昧な感覚を信じない。データの検証から導き出した事柄で物事を判断する。

でもそれが絶対とも盲信していない。だから空がきれいと感じた時点でその人は前向きになっている、それはつまりいいことが起きる前兆と言っていい、とフォローするし、自分の天気予報を「外れたら謝ります」と潔い。自分の仕事を徹底して行い、でもそれが絶対とは思っていなくて、他者の想いも受け止め、間違ったら謝る、こういう人物こそパーフェクトと称賛するにふさわしいのではないだろうか。

■新しい点(4)主題歌が「僕」推し
朝ドラに歌詞のある主題歌がついた84年以来、初の「僕」だらけの歌詞の主題歌。これについては、以前のレビューで書いたのでそれを参照してほしい。世の中が「僕」推しの歌詞の曲が増えても朝ドラではそれを採用してこなかった。それがここへ来てついに、「私」でも「君」と女性を意識した歌詞でない「僕」であることは朝ドラの時代の確実な変化であると言っていいだろう。

【参照】『おかえりモネ』第2回 BUMP OF CHICKENはなぜ主題歌「なないろ」で「僕」と歌っているのか
【参照】『おかえりモネ』第3回 西城秀樹、井上陽水、山下達郎、BUMP OF CHICKEN 続・朝ドラ主題歌問題

以上、意欲的な新しい朝ドラ『おかえりモネ』。第2週にも期待する。





※『おかえりモネ』第6回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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