【写真】『スオミの話をしよう』場面写真
〇ストーリー
その日、刑事が訪れたのは著名な詩人の豪邸。≪スオミ≫が昨日から行方不明だという。スオミとは詩人の妻で、そして刑事の元妻。刑事は、すぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが詩人は「大ごとにするな」と言って聞かない。
やがて屋敷に続々と集まってくる、スオミの過去を知る男たち。誰が一番スオミを愛していたのか。誰が一番スオミに愛されていたのか。スオミの安否そっちのけで、男たちは熱く語り合う。だが不思議なことに、彼らの思い出の中のスオミは、見た目も、性格も、まるで別人…。
〇おすすめポイント
三谷幸喜の脚本はシンプルで王道である。
今の映画界は、どんでん返しに満ちていて、どうやって観客の予想を裏切るのか常に試行錯誤されているなかで、三谷作品のどんでん返しは、はっきり言って、ひと昔前のものだ。しかし、それが潔よいと言うべきか、逆に清々しさを感じるほど開き直っている。そのため、どことなく昭和喜劇的懐かしさを感じるだろう。コメディ要素としてもコテコテ。今作の結末を知ったとき、「でしょうね」と思ってしまう割合は高いはず。
監督作品としては、『記憶にございません!』(2019)以来の5年ぶりだし、コテコテの笑いが一周回って、おもしろいと感じる絶妙な期間を空けたともいえる。良くも悪くも三谷の作家性は健在だったということだ。コテコテと言いつつも、どこかでは欲している。しかし常に欲しいわけではない。
酷評しているように聞こえるかもしれないが、ギリギリ褒めている……はず。
三谷脚本のズバ抜けて凄い点は、役者との一体感があってこそ輝く作りになっていることだ。その点でいえば、今作も役者には恵まれているし、極端なことを言うと、長澤まさみのエンディング・ダンスを観るだけでも十分な価値があるといえる。
しかし今回は、「でしょうね」と思ってしまうストレートな展開には大きな意味が隠されていた。そもそも謎解きが主体ではないのだ。極端な話、結末はどうでもいいのかもしれない。
今作が描いていることは、違ったかたちではあるし、なかにはそれが優しさや尊重だと思っていても、実はそこにもミソジニー的要素があったりもする。そういったことに気づいていない男たちによる女性不在の会話劇なのだ。
つまり謎の多いスオミという女性に迫るミステリー要素が主体ではなく、現代社会に蔓延る、様々なタイプの男性優位主義を俯瞰的にコメディとして見せるプラックユーモアに満ちた作品なのだ。そう考えると、会話シーンで多様されるロングショットは、単純に舞台感を演出させているものというだけではなく、男たちの身勝手な主張を滑稽で俯瞰的にとらえているのだろう。
もし今作に登場する男性キャラクターに何かしら共通性を感じてしまったとしたら、どこかにミソジニー的考えを持っている証拠。
長澤まさみの登場で一気に視点が逆転するが、それでも今作のメッセージ性に気づかないとしたら危険信号。てっきりいつも通り、安定の三谷作品だと思っていたら、アップデートされた視点に驚かされた。……というのは過大評価だろうか。もしストレートなコメディとしてこれを制作していたとしたら、それは問題だが、そうではないことを信じたい。
(C)2024「スオミの話をしよう」製作委員会
〇作品情報
出演:長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマほか
製作:フジテレビ、東宝
制作プロダクション:エピスコープ
配給:東宝
公開日:9月13日(金) 全国公開
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