佐藤二朗からのラブコールで実現

 学生時代より劇団「惑星ピスタチオ」で活動を開始し、上京後の2000年にNHK連続テレビ小説『オードリー』で脚光を浴びて以降は、映像作品でも引っ張りだこの俳優・佐々木蔵之介(58)。5月22日より上映の映画『名無し』への出演は、原作・脚本・主演を兼ねる"同志"佐藤二朗からのオファーで実現した。


 公開にあたり、佐々木にインタビュー。キャリアを重ね、58歳になった今、仕事への向き合い方として「諦める」ようになったと口にする。その真意とは?


 ──『名無し』は、右手で触れるだけで人を殺める異能を持つ男・山田太郎を見つめたサイコバイオレンスです。山田を演じる佐藤二朗さんとは長いお付き合いだとか。


「東京に出て来た頃、自転車キンクリートという劇団の舞台で初めて一緒になったんです。シェイクスピアの戯曲『マクベス』で、僕がマクベス役で二朗さんは医者の役として共演したのが最初だったと思います。その後もドラマで一緒になったり、堤幸彦さんが舞台をやられたときに、2人で客演させていただいたりとか。もともと同じように小劇場でやってきた人間だったので、なんとなく抱く思いは同じというのはありましたね」


 ──同志、という感覚ですか。


「そうですね。ただ、ここ最近はなかなか会う機会もなくて。本当に久しぶりだったので、オファーをいただいたときは、声をかけてくれて嬉しい、という気持ちがまずありました」


 ──佐藤さんから熱量のこもった手紙でのオファーがあったとか。


「まあ、ご覧になっていただいたようにちょっと手強い脚本なので、作品に込めた思いや哲学のようなものが書かれていました。

そして自分の役と合わせ鏡のような役を設定していて、それを『蔵之介さんで見てみたい』と。二朗さんなりの言い方なんだと思うんですけれど」



共演はたった1日。久々の"同志"と話したこと

 ──現場では、佐藤さんとどんな時間を過ごされたのでしょう。


「それがですね、共演のシーンはたった1日だけだったんです。お互いのクランクアップ日が重なっていたので、本当に、最後の最後にやっと1日だけ。『久しぶり、どれくらいぶりだろう』『よく呼んでくれた、最後に会ったのいつだっけ』と言いながら(笑)」


 ──クライマックスの場面ですね。本作の中でも特にとんでもないシーンですが、雑談する時間はあったのですか。


「時間に追われながらの雑談でした(笑)。日が落ちる前に撮らなきゃということで、最後はかなり追われながらの撮影でしたね。あの状況であれだけの場面が撮れたというのは、今振り返っても不思議なくらいです(笑)」


 ──佐々木さんは山田太郎を追う刑事・国枝を演じました。ご自身は、山田太郎という存在をどう見ていますか?


「設定上、山田太郎は名前を知っているものには触れられない。つまり関係性を持てない、つながりを持てないということですよね。

何かを愛でることも、誰かと関わることもできない。それって究極の孤独だなとは思います」


 ──その孤独の先に、残虐な行動があります。国枝は太郎を追う側でした。


「役もそうですが、僕自身も山田太郎に共感はしないです。同情の余地もない。どう生きてきたかがわかっても、許されることではないとは思います。でもだからこそ、彼がそこに至るまでの積み重なりというものが、この映画の核なんだろうと思っていて。わかりやすく派手な場面よりも、人と繋がることをもうやめようと至るまでの過程。そこをどう受け取るかが、この映画の問いかけなんじゃないかなと思いますね」



「“諦める”と“投げる”は違う」50代で学んだ哲学

 



「嫌いではないが好きでもない」舞台を続ける理由

 ──50代になって、人生を逆算して考えることはありますか?


「あります、あります。30代のときに、思いきりやったら40代が見えてくるよと言われて。40代も頑張ったら、次は50代が見えてくるよと言われ続けてきて(笑)」


 ──では58歳になった今は。


「もう見なくてええやろうって(笑)。

50代も踏ん張ったら60代が見えてくるって、ずっと続くわけで。だから今は先を見据えてどうこうというよりも、いただいた仕事をどう果たして、どうお返しできるかということだと思っています。舞台も映画も、一つひとつ丁寧にやっていきたい。前はこの年齢でこれをやることの意味を考えてたんですけど、今はいただいたものはちゃんと返そう、という気持ちの方が強いですね」


 ──そもそも、お芝居をすること自体は好きですか。


「嫌いではないが好きでもないかな(笑)。なかなか楽をさせてもらえないので……」


 ──それでも続けている原動力はどこにあるんでしょう。


「与えていただいたのであれば、役に対して、そしてカンパニーに対して、果たしたいと思うんです。僕なりの肉体を通して、この役を表現したい。それが、自分にとっての俳優業なのだと思います」


(聞き手=望月ふみ)


▽映画「名無し」は5月22日より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開。


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