※本稿は、上野千鶴子、アグネス・チャン『報われない社会で、それでも生きる』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■健康で、グレなければ「子育て大成功」
【上野】ここからは教育論について語り合いたいのですが。アグネスさんは2016年に『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』(朝日新聞出版)という本を出版なさっていますね。この本は売れたのでは?
【アグネス】はい。おかげさまで。香港や中国で、台湾や日本でもベストセラーになりました。
【上野】発達心理学などのデータによると、親の学歴達成に子どもが到達する確率は2分の1程度。つまり個性の違う子どもが3人ともスタンフォード大へ進学したというのはレアな確率だと言えます。
【アグネス】子どもが健康で、グレなければ大成功だと思っていました。
【上野】不登校問題もなく?
【アグネス】なかったんです。
■母親の試行錯誤についてきてくれた
【上野】頑張ってくれたというのは気になる表現ですね。親のために頑張ってくれたという見方をしているのですか?
【アグネス】ハハ。でも親としては子どもがやったすべてのことがありがたいのです。私は自分が大学で学んだ教育方法を実践して育てたのです。実験台じゃないけど、子育て中、いろんな方法を使ってみました。この方法はうまくいった、これはそうでもなかったという試行錯誤の連続だったのです。
母が戸惑いながら、時にはやっぱり違い、仕切り直しと遠回りしながらの教育法だったのにもかかわらず、よくぞグレずに育ってくれたなと本当に感謝です。
■「失敗できない」というプレッシャー
【上野】アグネスさんの教育法、目標は本当にすばらしい。「自己肯定ができる子に」とか、「失敗を恐れない子に」とか。それも子どもを「自由にのびのび」と放任するものじゃなくて、「友達みたいな親子関係は望まない」「教育の全責任は親が持つ」と親の目の届くところで子どもに育ちのチャンスを与えています。
三番目の息子さんがスタンフォード大に合格した時、「その嬉しさは……天に届くほど大きなものでした。
そもそも大学で児童心理学を学ぼうと考えたのはなぜだったのですか?
【アグネス】私は香港のミッションスクールに通っていたのですが、中学の時にボランティア活動を始めたんです。がん患者の看病をしたり、子どもに読み書きを教えたり。とってもやりがいがありました。特に子どもはすごく喜んでくれました。でもその中で心に届かない子もいました。自閉症の子どもや、精神的な障がいがある人などにコミュニケーションをとるのが難しかったです。
当時、香港で大学へ進学できる人はほんの一握りだったのですが、もし、私が大学へ進学できたら児童心理学を学んで、どんな子どもとも話ができる大人になりたいと決めていました。
■他の子どもと比べることはNG
【上野】教育学を通して培ったアグネスさんの教育法は適切だったと言えますか?
【アグネス】少なくとも私は教育学を学んでよかったと思っています。児童心理を理解したら、たとえば自己肯定力をアップさせるために必要なポイントは何かといったことが浮かび上がってくるし、試してみて「これは確かに効くな」と実感することもたくさんありました。
【上野】自己肯定力をアップさせるためにはどうすればいいのですか?
【アグネス】まずは他の子どもと比べないことです。
■「お兄ちゃんとは違うのがステキです」
【上野】3人いれば、子どもにもそれぞれの個性というのがあるでしょう?
【アグネス】もちろんです。子どもはみんな個性的で、感受性もそれぞれだと強く認識していたおかげで、その子に適したアプローチができたと思います。親の私が言うのも変な話なんですけど、長男がすごくおとなしい子でした。赤ちゃんの時からとても育てやすかったんですね。ぐずったりしないし、右のおっぱい飲んだら、次は左のおっぱいを飲むって教えてもいないのにできちゃう。
【上野】生まれ持っての律儀な性格なんですね(笑)。
【アグネス】ところが次男はそうじゃない。右のおっぱいをちょっと飲んだら、左のおっぱい、二口くらい飲んだらまた右のおっぱい。キョロキョロ周りを見渡して、興味のあることがあるとピタッとおっぱいを飲まなくなってしまったりして大変だったんです。
次男は学校へ行くようになったら、先生から「なんでお兄ちゃんみたいにできないの?」と言われて、「あっいけない。先生が私の息子を比べている!」とわかったことで次男の自己肯定感が下がったらいけないと思ったのです。
私は次男に「君がお兄ちゃんみたいになる必要はない。一緒だったらママは残念に思います。君がお兄ちゃんとまったく一緒なら、もう一人子どもを産むことは必要ないでしょう。君はお兄ちゃんとは違うのがステキです。その方が大好きだよ」って。
■子どもが生まれ持った性格を大事にする
【上野】うまいこと言いますね。感心しました。
【アグネス】本当にそれぞれに個性があるから、育てていて面白かったです。多少、悪戯でも落ち着きがなくても間違ったことをしたら正せばいいだけで、個性を変える必要はない。生まれ持っての性格を大事にしたいです。
【上野】自分の子どもの頃を参考に教育する親もいるようですが、それこそ乱暴な教育だということになりますね。
【アグネス】親と子どもは違う個性の人間ですから。それから親が育った時とは時代も違うし、家庭環境も違う。それを無視して親が自分の成功体験を押しつけても、子どもは自分のことを理解してくれないとやる気がなくなってしまったり、グレてしまうこともあるでしょう。
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上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者、東京大学名誉教授
1948年、富山県生まれ。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパイオニア。現在は高齢者の介護とケアの問題についても研究している。京都大学大学院博士課程修了後、平安女学院短期大学助教授、京都精華大学助教授、メキシコ大学院大学客員教授、コロンビア大学客員教授などを歴任。1994年、『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞受賞。著書に、『家父長制と資本制』(岩波現代文庫)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)、『アンチ・アンチエイジングの思想』(みすず書房)など多数。
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アグネス・チャン
歌手・エッセイスト
1955年、香港生まれ。17歳の時、『ひなげしの花』で日本で歌手デビューし、トップアイドルに。上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学(社会児童心理学専攻)に留学。1985年に結婚、1986年に長男を出産。1989年、米国スタンフォード大学教育学部博士課程に留学、1994年に博士号を取得。留学中の1989年に次男を出産し、1996年に三男を出産。芸能活動の他、日本ユニセフ協会大使、日本対がん協会「ほほえみ大使」など幅広く活躍。2018年、春の叙勲で旭日小綬章を受章。息子3人全員がスタンフォード大学に合格したことでも話題になる。著書に、『終わらない「アグネス論争」』(潮新書)、『スタンフォード大に三人の息子を合格させた5 0の教育法』(朝日新聞出版)、『70歳、ひなげしはなぜ枯れない』(ワニブックス)など多数。
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(社会学者、東京大学名誉教授 上野 千鶴子、歌手・エッセイスト アグネス・チャン)

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