※本稿は、原マサヒコ『トヨタの時短術』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。
■仕事が早い人は他人の知恵を使いこなす
「時短」というのは、各タスクの効率化を図り、全体のスピードを上げていくことでもあります。しかし、それだけではなく「成果への近道をたどる」ことも重要です。そのためには、「ベンチマーキング」という考え方が非常に効果的です。
ベンチマーキングというのは、簡単にいうと、成功事例を模倣しながら成功に近づいていくことです。商品開発でまるっきり他社のマネをしてしまうのは法律的にも道義的にも問題がありますが、成果への近道をたどるために手段を模倣することは問題ありません。
あなたも、会社に入ってから「先輩の背中を見ながらマネをして成長した」という経験があると思います。その動きを先輩だけでなく他社や他業界にまで広げていくということです。成功分析は、自分自身が体験した成功の要因を明確にすることで成功の再現性を高めるための方法です。
一方、ベンチマーキングは、他社や他業界の成功要因から学びを得て、成功に近づいていくためのノウハウといえます。「学ぶ」の語源が「真似ぶ」なのは有名な話ですが、成長するための学習というのは「マネをしながら、そのプロセスに慣れていくこと」でもあります。
■トヨタもジョブズも真似から革新を生んだ
そのために、「本物をお手本にする」のは勉強のやり方として極めて有効なのです。トヨタも昔、アメリカ視察にいった際に「スーパーマーケットの在庫管理方法」を模倣し、自社独自の在庫管理方法にアレンジしていきました。それが有名な「カンバン方式」です。
トヨタだけでなく、モノづくりの世界では、よく名機の「デッドコピー」を作るということを行います。デッドコピーとは、部品や製品を寸法から材料まですべて分析して100%同じものを複製することです。
完璧に複製していくことで、最高の部品や製品がどういった設計思想でどのように作られているのかを追体験し、「理想的な設計とはどうあるべきか」を実践的に学ぶというわけです。iPhoneを生み出したAppleのスティーブ・ジョブズも、「素晴らしいアイデアを盗むことに、恥を感じてこなかった」と語っています。
ジョブズですらゼロから考えるのではなく、他社の技術を組み合わせて新しいコンセプトを作る術を身につけていたのです。この「ベンチマーキング」に会社全体で取り組んでいたことで有名なのが、下着メーカーのトリンプです。
■成功者の共通点は徹底的な模倣
社長在任中に19年連続で増収増益を記録したこともあるトリンプの吉越浩一郎氏は、ベンチマーキングを「TTP(徹底的にパクる)」と表現していました。他社の成功事例を徹底的に研究することで増収増益を果たした、といっても過言ではないのかもしれません。みなさんも、成果への近道のため視野を広げて成功事例をどんどん取り入れていくべきです。
他社や他部署で「うまくいっている方法」を探し出し、自分のものにしていきましょう。環境や状況が変われば、トヨタのように「独自のもの」として変化を遂げていくはずです。もちろん、この考え方は、ビジネスパーソン個人のスキルアップにも応用できます。
「成功している人のライフスタイル」をベンチマーキングすることで、自身のパフォーマンスをより速く底上げできるというメリットもあるのです。ここで、具体的に私が仕事のパフォーマンスを上げるためにベンチマーキングしたことのある事例をいくつか紹介しましょう。
まずは「睡眠」です。成功している人やバリバリ動いて結果を出している人は「寝る間を惜しんで」働いているような印象がありますが、実際に話を聞いてみると、「戦略的に寝ている」という人が多いことがわかりました。
みんな、「睡眠こそが業務効率につながる。削るなんてもってのほか」と口々にいっていたのです。それがきっかけで私も、睡眠にこだわるようになっていきました。
■集中を生むトヨタ式「休息術」
今でも最低6時間以上は寝るようにし、休日でも、普段と同じ時間に起きるようにしています。睡眠時間だけでなく、枕や布団にもこだわり、睡眠の質が高くなるようなものをチョイスしています。
さらに、神経を刺激して、快適な睡眠の妨げとなるブルーライトを避けるため、寝る前にはテレビやスマホなどを見ないようにして、すぐに入眠できるようにしました。加えて、成功している人には集中して仕事をするための「環境作り」がうまいという共通点もあります。たとえば、仕事に没頭したいときには、モーツァルトの音楽を聴きながら仕事をしているという人がいました。
また、1週間のスケジュールのなかに、必ず頭をからっぽにして身体を動かす時間を作っている人も多くいました。脳を休めるために、マラソンやトライアスロンをするなど運動の時間を確保しているのです。
思い返すと、トヨタの現場でも、お昼休みにみんなでバレーボールをするという慣習が古くからありました。こういったことを踏まえて考えれば、これも、午後から集中するための頭の切り替えに大いに役立っていたのかもしれません。私自身も仕事の環境作りにはとてもこだわっています。
前述のモーツァルトではありませんが、仕事の種類に応じて聴く音楽の種類を使い分けていますし、とくに集中したい場合には、余計な音だけをシャットアウトできるノイズキャンセリング機能が搭載されたヘッドフォンを使ったりもしています。
■スマホ断ちよりも大量インプットが成功の鍵
また、仕事ができる人というのは、情報収集の方法にも特徴があります。意外に思われるかもしれませんが、成果を出す人は情報を選別せず、とにかく多くの情報に触れていました。昨今は、情報過多の時代だからと、取り入れる情報を制限することが推奨されています。
「スマホ断ち」という言葉を聞いたことがある人もいると思います。しかし、私が話を聞いた人たちはみな、日々たくさんの情報に触れることを習慣化していたのです。もちろん、情報が増えるとそれだけ無意味な情報もたくさん入ってきてしまいますが、それを遮断すればいいアイデアがすぐ浮かんでくるというものでもないようです。
彼らは、とにかくたくさんの情報に触れながら「どれだけ質の高い情報の比率を上げられるか」という動きをしているようでした。それを知ってから、私も意識して多くの情報に触れ、それが本当に必要な情報なのかを判断するようにしています。そうすることで「自分で考える力」が鍛えられますし、いわゆるメディアリテラシーも身につきます。
このように、私自身、これからも成功者の動きをベンチマーキングしながら、さらに仕事の効率を高めようと考えています。ぜひあなたも、これらの事例を参考にしながら、仕事ができる人をベンチマーキングしてみてください。
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原 マサヒコ(はら・まさひこ)
プラス・ドライブ代表取締役
1996年、神奈川トヨタ自動車株式会社にメカニックとして入社。5000台もの自動車修理に携わりながら、トヨタの現場独自のカイゼン手法やPDCAサイクルを叩き込まれる。これらを常に意識して研鑽を積み、技術力を競う「技能オリンピック」で最年少優勝に輝く。さらにカイゼンのアイデアを競う「アイデアツールコンテスト」でも2年連続全国大会出場を果たすなどトヨタの現場で活躍。
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(プラス・ドライブ代表取締役 原 マサヒコ)

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