中東情勢の長期化でガソリン価格の高騰が懸念されている。その場合、EVに乗り換えればお得になるのだろうか。
自動車評論家の国沢光宏さんは「電力価格があがるほどガソリン車よりEVのほうがランニングコストではお得になる。EVの低価格化が進み、補助金込みならガソリン車と同等の車も現れている」という――。
■イラン攻撃でEV販売が伸びている
アメリカのイラン攻撃を受け世界規模でガソリンが高騰、改めてEVを評価する動きになってきた。実際、4月に入るやアメリカでも欧州でも東南アジアでもEVは売れ行きを伸ばしている。
EV後進国である日本でさえ、比較的割安な中古車の引き合いが増えているという。
ただここまで読んで「EV用の電力も火力発電だから石油供給逼迫により乗れなくなるのでは?」と思う人もいるかもしれない。
あまり知られていないことながら、日本の総発電量に占める石油火力発電の割合は7%ほど。火力でいえば、大半が天然ガスと石炭。天然ガスも中東由来は10%程度のため、ホルムズ海峡閉鎖の影響は限定的なものにとどまっている。
■電気料金の値上がりはガソリンに比べればマシ
さらにここにきて太陽光発電の比率が年々増えてきている。東京電力管内ですら天気の良い昼間は半分以上が太陽光発電になることだって珍しくはない。となると、電力料金の値上がりは、ガソリンと比べれば少ないはずだ。

日当たりの良い戸建てであれば、ガレージの屋根に太陽光発電を導入することでエネルギーの自給自足が可能だ。5m×2.5mのガレージに太陽光パネルを張ると年間2000kWh程度の電力を作れる。1kWhあたり7km走るEVなら年間1万2000km走れてしまう。
ちなみに2kWの太陽光発電だと導入コストは60万円前後。10~15年でペイしてしまう(太陽光パネルの寿命は20~25年)。これを設置してEVに乗ればガソリン価格で右往左往せずに済む。
■EVはガソリン車よりコストが低い
ちなみに電力会社から購入する電力ならどうか? 電力価格は現在1kWh=35円ほど。現在のガソリン価格(1リットル=約160円)の場合、ハイブリッド車は20km走るのに約160円掛かる(1リッター分ですね)。
一方、EVは20km走るのに電力が約3kWh必要なので電気代は約105円程度で済む。
もし電気料金が45円になった場合でもEVのコストは約135円にとどまる。
電気料金が値上がりする場合はガソリンだって値上がりしているはずなので、ハイブリッド車とのコスト差はさらに広がっているだろう。
いろんな意味でEVはガソリン車より低いエネルギーコストで済む上、その気になれば自給自足だって出来てしまう。
自給自足出来るから自然災害にも強いと言える。
■電池の性能が向上している
そんなEVではあるが、今まではハンデが少なからずあった。車両価格の高さと、電池の寿命である。
確かに日産リーフに代表される黎明期のEVはガソリン車の2倍くらいした上、携帯電話と同じく使っていると電池容量が落ちてしまった。
初代リーフでいえば6年も使うと新車の80%くらいになり、雨の日は満充電でも100kmも走らなくなる。普通のエンジン車なら常時残量警告灯が点灯する状態だ。
しかし今やEVの技術レベルは大きく進化している。EVのリチウムイオン電池は当初ニッケル、マンガン、コバルトというレアメタルを正極材に使う「三元系」と呼ばれるタイプだった。これは優れた性能を持つ反面、高価で寿命が短く、燃える危険性もある。
参考までに書いておくと、フル充電からフル放電のサイクルを1回とすれば、電池寿命は約800回程度。40度以上の高温になると一段と寿命が短くなってしまう。
最近主流になってきた電池は正極材に安価で燃えない鉄系の素材を使うLFPだ(リン酸鉄リチウムイオン電池)。

数年前までは低温に弱くエネルギー密度も低かったものの、今や高温に強い特性から三元系より密集させて搭載することで効率を稼げるようになってきており、さらに低温性能も向上している。
電池寿命は約3500回とも約4000回とも言われている。満充電走行距離が実力で400kmのEVであれば、寿命120万km以上。これだけの寿命ならもはや使い切れないくらいだろう。
■「ガソリン車と同等の価格」まで下がってきた
黎明期のEVは全て三元系だったものの、最近になってLFPが急増。中国BYDのEVなどは全てLFPである。日本車でもスズキ「e ビターラ」や、ダイハツの「e ハイゼット」などLFPを採用するモデルも出てきた。
LFPを使っているEVなら、燃える心配(電池にクギを刺してもショートによる熱暴走がない)や寿命の心配をしなくてOK。トヨタも2027年あたりから出てくる次世代EVはLFPを使う予定という。
割高だった価格は品質の高いBYDが補助金無しでガソリン車と同等の価格を付けてきた。「シーライオン7」という航続距離590kmのEVは(もちろん寿命が長いLFP)、ハイブリッド車で490万円のトヨタRAV4より一回り大きく作りも上質。車体構造をバラしてチェックしたけれど、メルセデスやBMWと比べても負けていないくらいの素材を使っている。

それでいて499万円という低価格だ(15万円の補助金を使えば実質的にRAV4より安い)。
■補助金込みならハイブリッド車より安い
スバルの新型EV「トレイルシーカー」は、航続距離734kmとエンジン車を凌ぐ。「SUBARU Safety Sense」などもフル装備して638万円。日本車を優遇する補助金により129万円も国が援助してくれるため510万円に。これまたトヨタRAV4と同等クラスである。買った後の自動車税やエネルギーコスト、ランニングコスト(オイル交換など不要)まで考えたらハイブリッド車よりリーズナブルだ。
また、東京都在住だと上乗せ補助金が出る。トレイルシーカーなら40万円。さらに自宅に太陽光発電を導入していたらプラス30万円の70万円が補助される。510万円-70万円=440万円。同じクラスのハイブリッド車を買うより明らかに安く付く。
同じく私が契約したホンダの「スーパーワン」(339万円)の場合、国からの補助金が130万円のため209万円で、エンジン車のコンパクトカーを買うより安くなってしまう。
さらに東京都在住で太陽光発電を導入しているから別個に90万円出る。こうなると119万円になり、どんなクルマより安くなってしまう。
■中古EVなら割安で買える
そしてエネルギー費はエンジン車より圧倒的に安い。気になる電池寿命も実質航続距離200kmなら充放電回数800回分の三元系だって16万km。近所の移動手段として使う軽バンなら全く問題なし。
そうそう。家庭用の200V充電設備だけれど、近所の電気屋さんに頼めば工事費2万円前後+コンセント4000円といったイメージ。
中古EVを買うのもいいと思う。日産のSAKURAという軽乗用車や、先代のリーフであれば、コンディションの良い中古車が諸費用込み120万円くらいから店頭に並んでいる。驚くくらい良質の売り物も多く流通しており、簡単に探せることだろう。
少し贅沢に決めたいなら、メルセデスやBMW、アウディのEVも新車に限りなく近いコンディションで400万円台から探せる。輸入EVは人気がイマイチなぶん、安く買える。

■嫌いなら無理に買わなくていい
さて。2050年のカーボンニュートラルの前に、我が国は「2035年に2013年比で60%の二酸化炭素削減」という国際協約をしている。達成出来なければ日本で二酸化炭素をたくさん出して作った輸出品に高額な関税を掛けられるなどペナルティを受ける。国がEVに補助金を出すのは、今からEVを増やしておかないと、電力が化石燃料由来から再生可能エネルギーに切り替わっても対応できないためである。
以上解説した内容を理解しておけば、EV知識としては100点である。ここまで読んで「ウチは集合住宅だから充電設備がない」とか「高い」「電気も化石燃料を使って作っている」と思う人は、EVなんか買わなくていい。無理にすすめているワケじゃありませんから。カーボンニュートラルの2050年まではガソリン車を売っている。ガソリン相場の荒波を楽しんで頂ければ、と思う。

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国沢 光宏(くにさわ・みつひろ)

自動車評論家

ベストカー編集部員を経てフリーに。得意分野は新車の評価のほか、自動車企業の分析、新技術の紹介など。自動車雑誌への寄稿をメインに、ネットメディア、ラジオやTVのコメンテーターとして活動。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『愛車学 知らないと損するクルマの常識・非常識』ほか多数。

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(自動車評論家 国沢 光宏)
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