住みたい街調査で上位にランクインする街が多い一方で、魅力度ランキングでついに日本最低の47位に沈んだ埼玉県。元県民でイラストレーターの辛酸なめ子さんは「洗練されすぎないのが埼玉の魅力。
ダサさも一周回ってかっこいい、そう評価される日も近い」という――。
■住みたいけどブランド力は日本最低の埼玉
今年に入って埼玉県民にうれしいニュースがありました。「SUUMO住みたい街ランキング首都圏版」の最新調査(2026年2月発表)で、1位の横浜に次ぐ2位に大宮が入ったのです。2018年の同調査では大宮は8位でその後、順位が右肩上がり。さいたま新都心も18年は29位でしたが、最新で19位。所沢も48位から30位へといずれも大きくランクアップする地域が増えています。
しかし、喜んでばかりはいられません。埼玉県出身としてつい気になるネガティブな結果もあります。ブランド総合研究所による「地域ブランド調査 都道府県魅力度ランキング」では、2023年はビリから数えて2つ目の45位。2024年は最下位を免れたものの46位(47位は佐賀県)でした。少しずつ下がっているのが気がかりでしたが、2025年はついに最下位、47位に沈んでしまいました。
トップのほうは毎回、北海道、京都、沖縄といった強力な布陣。
埼玉県と近く、同じ首都圏の東京都や神奈川県も上位に入っています。埼玉県のライバル的存在の千葉県も18位とまずまずの魅力度でした。埼玉県は東京から近く、自然災害にも強くて、商業施設も充実し、自然も豊かなのに魅力が伝わってないようです。
ちなみにGoogle検索の「AIによる概要」で、埼玉県の魅力度ランキングが下位の理由が列挙されていました。それによると……。
■AIが埼玉の弱点を指摘
「観光スポットの認知不足」

「『食』のイメージが弱い」(「わざわざ食べに行きたい」と思われる強力なコンテンツが不足している)

「『面』としての観光資源不足」(スポットが点在していて回遊しづらい)

「自虐的な県民性で、真剣なPRが遅れている」
的確でシビアなご指摘が心に刺さります。たしかに映画『翔んで埼玉』の大ヒットが、埼玉県民の自虐心を刺激してしまった感がありますが、無関心よりもイジられるほうがマシです。
さらに、AIには「埼玉県は、2024年の46位からさらに順位を落としており、『ダサい』イメージの払拭と魅力発信が今後の課題となっている」と、急所をつかれ、冷静に提案されてしまいました。
■1980年代初頭から「ダサい」ままなのか
大宮や浦和の商業施設の発展などを見ると、わざわざ東京に出て行く必要がないほどあらゆるお店が揃っていますが、世間の「ダサい」イメージはまだ抜けきれないようです。1980年代初頭にタモリが「ダサいたま」と揶揄してから、この言葉が呪いのようにまとわりついています。
ちなみに「都道府県幸福度ランキング」という別の調査では前出の魅力度より順位を上げて32位で、幸福度の数値は58.6。派手さはないけれど、小さな幸せを感じられる環境なのでしょう。
PRが下手で他県に魅力が伝わっていなくても、県民が何不自由なく暮らせて満たされていればよいのかもしれません。
とはいえ、かつては「親しみを最も感じない都道府県(人口10万人当たりの親しさ比率の指標から算出)」に挙げられたケースもあり、魅力度最下位な上に、親しみも持たれていなくて不人気とは、と埼玉県民や埼玉県出身者は、自虐を超えて自粛して生きていかなければならないのでしょうか……。
実際、埼玉県はどんな印象が持たれているのか、改めて周りの友人知人に聞いてみました。
■県の「形」が芋のようだから、ダサい?
著述業の50代男性は「神奈川県から引っ越してきた当初は海がないことがショックでした」と海がないことにコンプレックスを持つ人は多いですが、豊かな川(荒川、利根川など)が流れていて、しらこばと水上公園など大きなプールも各地にあります。
50代のメディア関係者の男性は「埼玉の観光地といえば川越。小江戸と呼ばれてますよね」と人気スポットを挙げてくれました。
30代のIT業の男性は「住宅地のイメージですが、登山目線で考えると、飯能や秩父は魅力的です」と、自然環境を評価してくれました。都心から日帰りで登山できます。
音楽関係の仕事をしている50代夫婦に話を振ると、夫のほうは入間市出身とのこと。
「子供の頃、入間に住んでいましたが、昔から言われていたのが、埼玉県はお芋の形をしている。それが『ダサいたま』という言葉と結びついて埼玉のイメージになってしまっている気がします。でも、東京に行くのに意外と交通の便が良く、若い夫婦が広い一軒家を買って住んでいて、便利でいいところです。
宮沢湖の湖畔を高校時代にデートで歩いた記憶があります。今の飯能の『ムーミンバレーパーク』のような、北欧のイメージなど全くない暗い雰囲気の湖畔でしたが……」
埼玉県の形が芋のよう、というのは初耳でした。芋のイメージは川越市の人気にサブリミナル的に寄与していそうです。飯能のムーミンバレーパークは私も何度か行きましたが、確かに北欧風の建物や看板などでおしゃれに見える効果が。ただ、埼玉から北欧への一方的な片思い感が漂っていました。
実際、この50代夫婦の妻は「人口が多いベッドタウンで、子供がいっぱいいて元気なイメージ。正直埼玉県におしゃれな印象はないですね」とコメント。北欧テイストを取り入れるなど試行錯誤していても、残念ながらおしゃれなイメージには結びついていないようです。
■埼玉県の奇祭「政財界人チャリティ歌謡祭」とは
そんなとき頭をよぎったのが、埼玉の奇祭とも呼ばれる「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」です。これは毎年正月の夜にテレビ埼玉で放映される県内では有名な歌番組(1992年放映開始)。見どころは、県内の企業の社長や、市長、県知事など埼玉政財界のVIPが集まり、生バンドで歌うところです。
収録は少し前に大宮ソニックシティホールで開催され、一度観覧チケットが当選した人に誘ってもらって行ったことがありました。
正直、歌唱力が微妙な人が多い埼玉VIPの方々が、衣装をまとい、部下や地元の若者や子どもたちにバックダンサーをさせたり、ゆるキャラまで呼んだりして、パフォーマンスを繰り広げます。
途中客席の社員や部下など関係者が映されるのですが、うちわや応援グッズを振りながらも「目が死んでる」とネットなどでたまに話題になっています。また、バックダンサーの子どもたちにMCが感想を求めると、だいたい「がんばりました」と当たり障りのないことしか言わないのも、その場の空気に合わせる埼玉人の性格を表していて味わい深いです。
この歌謡祭は一応、チャリティイベントとして「埼玉県文化振興基金」に寄付するという名目なのですが、寄付金のボックスを覗いてみるとあまり入っていませんでした。埼玉人は倹約家なのかもしれません。
素人の政財界人が渾身の曲を披露したあと、最後に本物の歌手が登場し、全て持っていく、という構成の年もありました。あるときは演歌歌手の山川豊さんがステージの最後を飾り、「今日、(出演者の)歌を聞いてそこそこ(のレベル)かなって思いました」と本音の一言。でも、「そこそこ」というのが埼玉らしく、リラックスして聴けるポイントです。
■地元銀行社長が「2億4千万の瞳」を熱唱
2026年は元日の夜7時というゴールデンタイムに放映された「第34回 埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」もシュールでスペクタクルなステージが繰り広げられ、目が離せませんでした。
財界からの主な歌い手と曲名は以下の通りです。
東京ガス埼玉支社長:Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」

埼玉りそな銀行社長:郷ひろみ「2億4千万の瞳」

YKKAP埼玉支社長:EXILE「Choo Choo TRAIN」
一方、政界からは……。
行田市長:キャンディーズ「年下の男の子」

鳩山町長:ラッツ&スター「め組のひと」

桶川市長:松たか子「Let It Go~ありのままで~」

埼玉県知事:DREAMS COME TRUE「何度でも」
桶川市長はエルサに扮した衣装で、ダンサーがコールドスプレーを振りまいて氷の世界を演出する凝りようでした。
また、トリを飾った県知事のちょっと自信なさげな歌唱力に萌えを感じました。歌唱力が微妙だと素朴で一生懸命ないい人に見える、という効果があり、政財界人にとってはプラスの効果かもしれません。
このチャリティ歌謡祭のよさは、都会のおしゃれな制作会社や広告代理店が間に入っていなさそうな、手作り感覚とあたたかみでした。
洗練されすぎないのが埼玉の魅力。埼玉のダサいイメージも、貫くことで強さや個性になります。都会の人には真似しようとしてもできない表現力。ダサさも一周回ってかっこいい、そう評価される日も近い、のかもしれません。かっこつけないで生活できる、そんな魅力に世の人々が気づいたら、魅力度ランクも上昇するに違いありません。

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)

漫画家/コラムニスト

武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)
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