4月15日、第一三共株式会社は、市販薬事業をサントリーホールディングスに売却すると発表した。同社の代表的な商品は、消毒薬の「マキロン」や解熱鎮痛薬の「ロキソニン」など、私たちに馴染みのあるものが多い。
今回の第一三共の資産売却は、国内の大衆薬メーカーから、世界トップのがん治療薬企業へと変身を目指す意図があるのだろう。同社の戦略変更は、かなり大胆な試みといえる。
今後の注目点は、第一三共が、本当に、世界トップのがん治療薬企業に変身できるか否かだ。専門家の間でも、今回の戦略変更について賛否両論があるようだ。ただ、同社の試みが成功すると、そのインパクトは小さくはないだろう。これまであまりリスクを取りたがらなかった日本企業の経営者には、重要なヒントになることも考えられる。
■日本企業の「成功例」となるか
現在、同社と世界大手メーカーとの収益力の差は大きい。その差を埋めるためにも、経営陣が研究開発体制拡充などの意思決定を下し、リスク管理体制を拡充することが必要不可欠だ。
同社の戦略変更が成功例になった場合、日本企業全体に与えるインパクトは計り知れない。今後、世界市場を目指してリスクを取る企業が増えるかもしれない。
■市販薬で成長してきた第一三共
現在、第一三共は、市販の大衆薬事業など非中核資産を売却し、世界トップのがん治療薬企業になることに取り組んでいる。
同社のそうした戦略の源は、19世紀後半にさかのぼる。当時、高峰譲吉博士が、麹菌から消化酵素のタカヂアスターゼを発見した。その後、同社は研究開発を重ね、風邪薬の「ルル」、胃腸薬、育毛剤などを開発・発売した。同社は、研究開発によって市販薬を創出して成長した。
1970年代後半以降、同社は、医療用医薬品分野で本格的に新薬を投入し始めた。抗悪性腫瘍剤、抗生物質、高血圧治療薬など、広範囲に医療用の治療薬開発、供給体制を拡充した。1980年代、同社は米国などへの海外進出も本格化した。2024年度時点で、海外売上比率は69%だった。
■世界的製薬メーカーに後れを取った
2000年代、世界の製薬業界では、合併や買収が急増した。その狙いは、治療の高度化、特許の期限切れリスクの分散、バイオ医薬品など研究開発費の急増に対応するためだった。
第一三共は、血圧降下剤の「オルメテック」が成功したが、成長力は海外勢に見劣りするとの見方が多かった。その打開策として、2008年6月、同社は5000億円で印製薬会社ランバクシー・ラボラトリーズ社を買収した。
国内の市販薬メーカーから、後発医薬品(ジェネリック)の世界大手へ、事業戦略を転換しようとした。ただ、その目論見は、結果として思った成果を挙げることはできなかった。
買収後3カ月で、ランバクシーは米国向けの輸出停止を命じられた。衛生管理基準の統一など、組織の統合も難航した。リーマンショック後の株価急落で、2009年3月期は巨額の減損を計上した。2014年、第一三共はランバクシーを売却した。
2016年ごろから、第一三共は再度、グローバル企業を目指す成長戦略を始動した。成長領域として狙いを付けたのが、がん治療薬だった。同社の研究開発の成果として、有効な治療薬を創出できたことが背景にあった。
■あえて「がん治療薬」を選んだ理由
今回、がん分野への選択と集中のため、市販薬事業をサントリーに売却する。サントリー自身も過去、医薬品開発に参入したものの、思うように成果が出なかった経緯がある。サントリーとしては、健康意識の高まりに対応するため医薬品分野に再参入することになる。
第一三共が、がんの治療薬分野に集中する要因の一つは、成長期待の高さだ。同社によると、2029年まで、世界のがん治療薬市場は11~14%の成長率が予想されている。免疫疾患、糖尿病、心疾患、中枢神経疾患の領域に比べ、成長期待は高い。日米欧に加え、中国など新興国でもがん治療薬の需要は伸びている。
また、近年、第一三共は、がん治療薬分野で高い実績を上げた。主力商品は、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる、がん治療薬の「エンハーツ」や「ダトロウェイ」だ。2019年12月、米食品医薬品局(FDA)は、想定よりも早い速度でエンハーツを承認した。その後、エンハーツの需要は急速に拡大した。
■有力企業も評価する第一三共の創薬技術
エンハーツ成功の裏にあったのは、第一三共の創薬技術だ。
第一三共は、抗体・抗がん剤の治療とセットで、リンカーや結合物質(合わせてプラットフォームという)の研究開発体制を拡充した。研究を重ねた結果、同社のADC治療薬は、競合製品の2倍近い抗体・抗がん剤を結合物に搭載できるといわれている。その分、治療効果は上がると考えられる。
また、第一三共は、世界の大手製薬企業よりも先に、薬剤とプラットフォームを特許で囲った。こうした点を評価し、英アストラゼネカは第一三共と提携した。ADCがん治療薬分野での新薬開発、競争力向上をめざし、同社は、ジェネリック医薬品事業、不動産、政策保有株式の売却に加え、市販薬事業も手放した。
■「第二のエンハーツ」を生み出せるか
今後の注目は、がん治療薬分野で世界トップを目指す戦略が、期待通りに成功するか否かだ。2024年度、第一三共の売上高は約1.9兆円、がん治療薬世界トップのメルクは9兆円台だった。
エンハーツの競争力の高さは、重要な要件である。現時点で2033年に米国、2033年から2035年に欧州で、エンハーツは特許期限を迎えるようだ。エンハーツの臨床成績は予想を上回ったとの報告も多い。ADC創薬技術を応用したイフィナタマブ デルクステカンなどのパイプライン(新薬候補)の開発も進んでいる。
エンハーツで獲得した収益を、研究開発の加速、内外での買収に配分する。非中核資産の売却も加速する。それにより、エンハーツに続くがん治療薬を実用化できれば、第一三共のシェアは高まると考えられる。現状、第一三共の収益はエンハーツ頼みとの見方もある。収益源の多角化は急務だ。
■中国も参入し、業界競争はますます熾烈
一方、見逃せないリスク要因もある。一つは、がん治療薬分野の競争が熾烈なことだ。
中国は国家総力を挙げ、バイオ医薬品の創薬体制を引き上げた。2024年まで2年連続で、中国のがん治療薬の臨床試験(治験)数は、世界トップだった。エンハーツの有効性は高いといわれているが、こうした点を確認すると、今後、第一三共にとって、後続治療薬の開発の重要性は極めて高い。
第一三共が、がん治療薬分野で有力メーカーと伍して戦うためには、経営陣は常に、高い成果を求められることになる。そのために欠かせないのは、買収や財務管理の専門家を増やし、意思決定と事業運営のスピード引き上げることだ。
企業が長期的な成長を目指すためには、成長可能性の高い分野に出ていくことは必須の条件だ。ただ、それを実行することは、口で言うほど簡単ではない。第一三共の経営陣が、機を逃さずに買収や提携戦略を実行し、リスク管理の体制を拡充することができれば、同社が世界の有力メーカーの仲間入りすることは夢ではないはずだ。それが実現すると、わが国の経済にとって大きな一歩になるはずだ。ぜひ、期待したい。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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