元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。
今回のお題は「テレビで政治リーダーと討論する意義」です――。
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2026年5月15日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
テレビで首相や大臣と討論する意義は何ですか?
硬派の政治討論番組として知られた『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系)が放送を終了しました。最新のテーマ設定と橋下さんによる鋭い突っ込みで、独自の存在感を発揮してきた番組です。終了を惜しむ声も多いのですが、こうした番組の意義を橋下さんはどう位置付けていますか。
■Answer
現実を踏まえ「どうすればいいか」を有権者に提示する
あの番組は、僕にとっても大きな学びの場でした。政治家時代の8年間に加え、この番組での6年間がなければ、僕のコメンテーターとしての立ち位置は、だいぶ甘々なものになっていたんじゃないかな(笑)。
世の中にはたくさんの報道番組やワイドショーがあるけれど、『日曜報道THE PRIME』が一味違っていたのは、いま一番ホットなテーマを扱い、かつ現職の大臣や野党幹部、時には首相など「政治を動かしている当事者」をスタジオに呼んだこと。そして丁々発止の白熱討論をしたこと。
細かい台本がないので、予定調和では終わらない。しかも相手は優秀な官僚軍団に支えられた政治家たちで、入念な準備をしてきます。こちらも付け焼き刃の知識では太刀打ちできないから、結果的にあらゆる方面の勉強をし続けました。
そのうえで、「なぜあの決断をしたのか」「あそこはこうすべきではなかったのか」と厳しい質問を投げかけたのです。
ただしその分、僕なりのルールも決めていました。それは「批判のための批判はしない」ということ。
世の中には「権力に文句を言うこと」自体が、アイデンティティ化しているコメンテーターもいます。「反権力」こそが、メディアの役割だと勘違いしている作り手もいる。
そりゃ僕だって、政権に対して異論があるときは、厳しく批判することもありますよ。でも、それはよりよい政治を行ってほしいための「提案」であり、「文句のための文句」ではない。
大学卒業後に法律家になった僕は、30代の頃からメディアにも関わってきました。その後、政治家を経て、再び民間人としてメディアに戻る中で、ずっと考えてきたんです。「メディアの役割とは何か」と。
昨今は新聞やテレビがオールドメディアと揶揄され、若者離れも進んでいます。では、従来型のメディアはもはや不要なのかというと、僕はそうは思いません。
むしろ世界がより混沌としていく時代に、メディアは民主主義の質を支えるための大切な「秤」であり続けると考えている。
言うまでもなく日本は民主主義国ですが、民主主義は放っておけば健全に機能する、というものではありません。政治を動かすのは政治家ですが、その政治家を選んでいるのは有権者。なんだかんだ言って政治家は有権者のほうを向いています。つまり民主主義の質は、有権者の質で決まると言ってもいいんです。
では有権者は何を頼りに政治の是非を判断するのでしょう。答えはシンプルで、信頼できる情報です。メディアはその「情報」を提供する。だとすれば、メデイアの質こそが、民主主義の質を左右することになります。
いまの情報化社会では、何が本当で何が嘘か、何がデマで何が信頼に足る情報なのかも、氾濫するSNS情報の中で埋没しがちです。責任ある立場の人間が精査した「情報」を提示することは、既存メディアに残された大切な役割なのではないでしょうか。
テレビをつければ、コメンテーターや学者たちが、好き勝手に政治を叩いています。
でも机上の空論と実際の政治はまったくの別物です。僕自身、コメンテーターから政治家に転身して、一番痛感したのがその点でした。
政治の現場にいない人間は、外から「ああでもない、こうでもない」と言いますが、そこで指摘されることのほとんどすべては、すでに官僚や役所の人間がとっくに検討済みなんです。
大阪府庁や大阪市役所には優秀な職員がわんさかいます。政治家である知事や市長は、彼ら彼女らの助けを借りて膨大な課題に優先順位をつけ、複雑極まりない法制度とにらみ合いながら、現実の政策に落とし込んでいく。
そうした政治行政の決定の中には、民間人の一般常識や感覚に照らせば「おかしい!」と感じるものもあるでしょう。でも理想だけでは政治は動かないのも、これまた事実。
だからといって、すべて「現実はこうだから仕方ない」で済ませることもダメ。そこで、単純な理想論を叫ぶだけでなく、現実をきちんと踏まえたうえで「じゃあ、どうすればいいのか」を提示することこそ、メディアの大切な使命だと思っています。
そしてその意味で、政治行政を経験してきた僕が、当事者である政治家に直接問いをぶつけることには、一定の意義があったのではないかとも自負しています。
■「提案型の文句」を言い続けますよ(笑)
ただ、言い訳をするつもりはないですが、正直、小難しい番組ではありました(笑)。政策について正面から議論していけば、どうしても細かい法律や制度の話に入り込まなくてはならない。
番組をご覧になった方の中には、終わったあとに「あれ、どういう意味だったんだろう?」と思われた方も少なくなかったかもしれません。
テレビ番組は時間も限られています。よく制作者からも言われたものです。「橋下さん、深掘りしすぎ!」「1分でまとめてください!」と……。
新聞や書籍、雑誌は「読むメディア」であり、自分のペースで咀嚼し、考えることができる。一方のテレビは、一瞬で理解してもらうことを目的とした「観るメディア」です。そもそもわかりやすさと、感情に訴えることに長けているメディアです。
その中で『日曜報道 THE PRIME』は、わかりやすさが重視されるテレビメディアでありながら、あえて視聴者に対し深く考えてもらうことを求めた。テレビの報道番組としては、かなり異質な番組だったと思います。
余談ですが、最近YouTubeでの政治解説動画が流行っているのは、「読むメディア」と「観るメディア」の両者の長所を併せ持つ発信が可能だからでしょう。映像のわかりやすさと、思考を深める長時間を両立できる。テレビと紙媒体の中間のような存在です。

僕は『日曜報道 THE PRIME』という一つの番組を卒業しましたが、これからも「提案型の文句」を言い続けますよ(笑)。健全な民主主義は、健全な有権者から生まれると信じているからです。権力に文句を言うだけでも、有権者に迎合するだけでもない。「これもあれもダメ」ではなく「じゃあ、どうするの?」という問いに「こんな見方や方法もあるのでは」と、政治家と有権者の双方に考えてもらうために。
政治とメディアは車の両輪です。そして、その両輪を動かすのは、一人一人の「考える力」なんです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)

元大阪市長・元大阪府知事

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。
実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 写真=時事通信フォト)
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