■また10代の尊い命が失われた
新潟県の北越高校における部活動遠征中、交通事故によって未来ある高校生の尊い命が失われました。この悲報に接し、強い憤りを感じずにはいられません。それは、この事故が単なる「不慮の不幸」ではなく、防ぐことができたはずの背景をはらんでいるからです。
今年3月、沖縄・辺野古での修学旅行中に起きたボート転覆事故という重大インシデントから、わずか2カ月。教訓を活かす間もなく繰り返された今回の死亡事故は、日本の学校教育における危機管理体制の甘さや、組織の深部に潜む「ガバナンスの機能不全」という深刻な病理を浮き彫りにしました。
現在、事故の直接的な経緯については警察による捜査が進められています、本稿は5月11日時点の報道をベースに、私たちが直視すべき、学校教育における「危機管理の機能不全」という深刻な事態について述べたいと思います。
報道によれば、今回手配された車両がいわゆる「白バス行為(運転手付きレンタカー)」であった疑いが持たれています。仮に学校側がこれを認識していた場合、これは単なる運転手の過失では済まされない、極めて重大な責任問題と言わざるを得ません。
■運転手のミスだけで済まされない重大責任
事故の直接的な原因は運転手の操作ミスである可能性が高いとされていますが、危機管理における鉄則は、「事故は必ず起こる」という前提に立つことです。科学的に不可能な「ゼロリスク」を盲信するのではなく、事故の発生確率を下げる対策と、万が一発生した際の被害を最小化する備えの両輪を整えること。これこそが管理者の責務です。
したがって、事故原因そのものについては警察の捜査を待つ他はなく、運転手個人の病歴などを探るのは危機対応において本質的ではありません。今最も問われるべきは「手配のプロセス」です。
報道によれば、学校側は「バス会社に移送を依頼した」と主張する一方、バス会社側は「レンタカーを紹介したに過ぎない」と回答しており、主張は真っ向から対立しています。
しかし、5月9日付の朝日新聞は「バス運行会社の担当者を通じた高校名義のレンタカー契約が、過去1年間で複数の部活で少なくとも9件あった」と報じています(営業担当者以外の名前を運転者としてバスやワゴンなどを借りていたケースでは18件)。さらにテレビ朝日の報道では、学校側が「バスの手配にあたって見積もりや契約書を交わしてこなかったこと」を認めたとされています。
ソフトテニス部顧問は会見において、「レンタカーを頼んだ覚えはない」と語っていますが、“言った言わない”の議論ほど不毛なものはありません。もし適切な「貸切バス事業」としての正式な依頼であれば、そこには運行指示書や契約書が存在するはずなので、それを提示すれば済む話だからです。
■なぜ「辺野古の悲劇」を繰り返すのか
正式依頼なのに、書面が存在しないのであれば、学校側の正当な手続きと安全対策を判断する上で、きわめて重大な手落ちと言わざるを得ません。内々でレンタカーと運転手を手配するような「裏技」でコストセーブをしようとしていたと言われても反証ができないでしょう。
発注書や契約書などの文面がなければ、どれだけ会見で説明しようと、学校側が適切にバス会社という専門家に委託をしていなかった可能性が残ってしまいます。
この不透明な構造は、記憶に新しい今年3月の「辺野古ボート死亡事件」と似ています。あの事件では、学校側が海上運送法に基づく事業登録を持たない個人に対し、修学旅行のボート運航を直接依頼していた事実が明るみに出ました。
<参照記事>女子高生を「沖縄の抗議船」に乗せて「平和学習」…同志社ブランドを揺るがす"丸投げ体質"の大きな代償
同じ教育機関として、これだけの大事件に無頓着ではいなかったはずです。似たような環境において同様の業務を行う立場の人間は、他人事ではなく自分事として顧みるのが当然ですが、そんな中で北越高校の事故は起こってしまったのです。自校の遠征計画や外注先の適格性を即座に総点検すべきでした。
辺野古の事故では、学校側はプロの旅行会社を間に挟まず、亡くなった船長個人に直接依頼をしていました。
■生徒の安全よりコストカット?
なぜ、学校側はプロの旅行会社や正規のバス会社を介さず、このような不透明なルートを選択するのでしょうか。その動機が「コスト削減」にあることは明白です。しかし、事業運営において「プロ」を介在させる最大の意義は、単なる効率化ではなく「安全の複線化」にあります。
外部の専門家を間に挟むことで、そこには第三者のチェック機能が働きます。車両の整備状況、運転手の労務管理、保険の加入状況。これらをプロの目で確認し、書面で担保することこそが、危機管理の骨格となります。正式な契約を交わすことは、単なる事務手続きではありません。
部活動の遠征予算が限られているという事情は、現場にとって切実な問題でしょう。しかし、移動手段の選択は、決して金額の安さだけで決めて良いものではありません。正規の貸切バス運賃には、安全を維持するためのメンテナンス費用、保険料、そして熟練した管理者の人件費が含まれています。
それを「高い」と切り捨て、格安のレンタカーや個人手配に頼ることは、安全という「聖域」を切り売りする行為に他なりません。プロによる適正な安全管理こそが、真の意味でのコストパフォーマンスであり、ここを削ることは教育機関としての自殺行為です。
■中止する勇気が命を救う最大の「危機管理」
辺野古事故の際の波浪注意報や、荒天時の登山など、事が起こった後で問われるのが「中止する勇気」です。「事故は必ず起こる」という危機管理の大前提に立てば、安全管理のために予算がオーバーするのであれば、その活動そのものを諦めるというのは、現実的選択です。
安全管理は付加コストではなく、必須原価です。安全対策までを含んでこその「正式行事」と言えます。ユニフォームが買えなければ試合に出られないのと同じように、安全対策を果たせないなら「その行事は実行できない」と判断すべきなのです。
プロへの依頼は当然有料であり、相応のコスト負担が不可欠ですから、予算が足りない以上はそもそもの事業予算が足りなかったということです。
昨今の燃料費の高騰や超円安といった厳しい社会情勢から、従前の予算感では運営できなくなるのは当然のことです。生徒の熱意に応えたいという現場教員の方々には厳しい言葉かもしれませんが、それを「子供のため」と称して無理やり低予算で実現しようとするのは、安全という最大の責任を放棄した大人たちの自己満足に過ぎません。
■時代遅れの危機管理をアップデートすべき
何より課外活動は「教育」の一環です。予算不足で実施できないのであれば、世界的な物価高や円安といった社会情勢を隠さず伝え、「なぜ活動を諦めなければならないのか」を論理的に説明し、共に考えることこそが、子供たちにとって生きた「学び」になるはずです。
北越高校の事故が突きつけた深刻な問いは、大きな社会問題となった辺野古ボート事件を教訓として全く受け止められなかったこと、そして安全や予算に対する考え方が現状に合わせて全くアップデートされていなかったことにあります。
今や学校に求められる責任の次元は、昭和や平成の時代とは異なります。立て続けに高校生の死亡事故が発生したという事実は、日本の教育現場における危機管理が機能しておらず、ガバナンスが崩壊していると言わざるを得ません。
厳しい予算下での業務遂行は困難を極めるでしょう。しかし、無い袖は振れません。製造業などあらゆる産業において「安全第一」のプリンシプルは共通であり、安全への投資は決して省くことが許されないのです。予算を厳しく制限されたからといって、「子供のためにコンプライアンスを無視して実行する」ような思考停止の判断から、教育現場は直ちに脱却する必要があります。
これ以上の犠牲を出さないために、今、抜本的な意識改革が求められています。
----------
増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」としてNHK・ドキュメント20min.他、数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。
----------
(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
