街のイメージと現実には、どのような差があるか。『なぜ日本人は、それを選ぶのか? データで読み解く時間とお金の使い方』(朝日新書)を出したマーケティングリサーチ会社のインテージによると「例えば、モバイル空間統計で首都圏主要7路線の沿線滞在者を分析すると、それぞれ路線エリアの実際の“顔”が浮かんでくる」という――。

■住みたい街“常連”3強の共通点
首都圏での各社調査において、住みたい街として毎年上位にランクインする“常連”は、吉祥寺、みなとみらい、大宮などとなっています(図表1)。
図表2は、この3つのエリアに休日の日中・14時台に集まっている人の詳細属性を整理したものですが、思っていたより多くの共通点があることがわかります。
まず性年代やライフステージとしては、若年層の割合が高く、単身者や子どものいない世帯が主流で、子どものいる夫婦世帯は25%前後に留まります。
職業は会社員(一般職)が半数弱で役員・管理職はやや少なく、派遣・契約社員やパート・アルバイトがやや多いようです。
趣味の傾向も、上位20項目での支持率や順位は、ほぼ同じ水準になっています。
住みたい街ランキングで上位にあがっている街は、少なくとも来街者のプロファイルを見る限り、かなり“同質性”の高いエリアとなっているようです。
■住みたい街は「住みごこちのいい街」か
みなとみらいや馬車道など横浜駅周辺の新興市街地は、住みたい街と住みごこちのいい街の両方のランキングで上位にあがっていて、人気度と生活利便性のバランスがとれている街、という印象です。
一方で、住みたい街と住みごこちのいい街とで評価が逆転するようなケースもあるようです。
例えば、浦和と大宮の例です。
住みたい街で4位の大宮は、住みごこちでは433位に留まるのに対して、浦和は住みたい街で8位と大宮よりも下位ながら、住みごこちで44位に入っています。
両エリアはもともと埼玉の中心部にあって、大宮は商業・交通の中心地、浦和は行政機関や学校が集中する文教都市として発展してきた歴史があるので、街のなりたちや性格が異なっていることは想像できますが、住みごこちランキングでここまでのギャップが生じるのは少し意外な感じがします。
■浦和と大宮の居住者“徹底”比較
住みごこちの評価の差異、ということなので、ここでは日中の来街者ではなく、深夜2時台の滞在者をそのエリアの“居住者”とみなして、浦和と大宮のプロファイル特性を比較してみることにしましょう(図表3)。

まず性年代別に見ると、浦和の方が中高年層、大宮の方は若年層が主体で、男性は60代以降・女性は30代以降で浦和の方が大宮を上回ります。
■定住化の違いで生まれる街の経済格差
ライフステージとしては、学生を含む単身者はいずれも20%強と同じ水準ですが、子どものいる夫婦世帯は浦和が大宮の2倍近い構成比となっています。
職業を見ると、会社員(一般職、役員・管理職とも)や専業主婦(夫)で浦和が大宮より高く、パート・アルバイト、自営業等で大宮が浦和より高い、という結果になっています。
世帯年収では、400万~800万円未満のいわゆる中所得者層が浦和よりも大宮の方が10%以上高く、年収800万円以上の高所得層では浦和が大宮を上回る、という構図が見えます。
趣味の領域では、浦和での上位20項目について見るとテレビ、読書・雑誌、温泉、スポーツ観戦のほか株・マネーや海外旅行、観劇などで大宮よりも支持率が高くなっており、全体的に浦和の方が経済的に余裕のあるファミリー世帯、という印象です。
同じさいたま市内で距離的にも近い2つの街ですが、住環境や家賃相場から子育て世代以降のミドル層を中心に定住化が進んだ浦和と、若年層を中心にショッピングなど繁華街として発展してきた大宮の差異が、わかりやすく読み取れるケースだと思います。
■都会的な東急電鉄、庶民的な京王電鉄
街のレベルと同じように、私鉄沿線エリアにもそれぞれの“個性”が醸成されていきます。
今度はもう少しスコープを広げて、首都圏の私鉄沿線のイメージ、エリア特性を見ていきたいと思います。
はじめに、各社沿線地域のイメージについて、ざっくり整理しておきましょう。
普段使っている生成AIに「首都圏の主要私鉄のイメージ」を尋ねてみたところ、図表4のような回答が返ってきました。
沿線のイメージや特徴について、世間一般の評価としては「なるほど」と思うところもありますが、実際のところはどうなのか、どこまでデータで裏付けできるのか、が気になるところです。
■エリア滞在者数で見えてくる沿線格差
モバイル空間統計データは全国を経緯度により等分した約500m四方のメッシュ区画を基本集計単位としており、この区画に滞在した人数を1時間ごとに推計したものとなっていますので、同時間帯であれば複数メッシュ区画の合算が可能です。

“沿線データ”の集計方法としては、各路線の沿線にかかるメッシュ区画をすべて洗い出してその滞在者数を合計する方法もありますが、今回は沿線の各駅についてその駅を含む約1㎞四方を「駅勢圏」とみなし、各時間帯でのエリア滞在者数を路線ごとに合算するかたちをとりました。
図表5は、
・東急電鉄 東急東横線、東急田園都市線

・小田急電鉄 小田急小田原線

・京王電鉄 京王線、京王井の頭線

・西武鉄道 西武新宿線、西武池袋線
について、沿線エリア滞在者の平休日別の時間推移を図示したものです。
7路線いずれにおいても、平日は通勤時間帯である8時台から滞在者数が大きく増加し、夕方18時台をピークに減少に転じる傾向は同じですが、日中14~16時台には平日よりも休日に滞在者数が大きくなる路線が幾つか見受けられるのと、平日と休日のギャップの大きさには路線によってかなり幅があることもわかります。
■京王沿線エリアの街づくりキャッチ
私鉄各社は、鉄道利用者つまり沿線地域の居住者(定住人口)および来訪者(関係人口)を維持・拡大するために、系列会社として住宅・不動産ディベロッパーやバスなどの2次交通運営会社、スポーツ・レジャー施設などを保有していることが多いのは周知の通りです。
今回は、2年ほど前に自社企画として制作した首都圏主要私鉄の沿線・駅周辺エリアのサマリーレポートの中から、京王電鉄の沿線開発におけるゾーニングと鉄道利用者のプロファイル特性について、ご紹介していきます。
京王電鉄のホームぺージに掲載されている、沿線エリアのゾーニングがこちらです(図表6)。
では、この中から新宿、井の頭沿線、調布・府中、聖蹟桜ヶ丘・高幡不動の4つのエリアについて、各駅周辺滞在者の詳細属性プロファイルを覗いてみましょう。
■芸術派から自然派まで多様な街の顔
エリア特性は、平日または休日のピーク人口が5000人以上の主要駅の合算により算出しました。
・新宿……新宿、笹塚、代田橋

・井の頭沿線……神泉、駒場東大前、下北沢、明大前、永福町、吉祥寺

・調布・府中……芦花公園、千歳烏山、布田、調布、府中

・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動……聖蹟桜ヶ丘、京王八王子
各エリアについて、休日・14時台の滞在者の性年代、職業、年収、趣味等を、京王線沿線全体の平均値と比較したものを図表7に整理してみました。
先に見たとおり、沿線全体としては「堅実で庶民的」なイメージのある京王線ですが、日本最大のターミナルである新宿副都心や渋谷と吉祥寺を約20分で結ぶ井の頭線沿いには若年層中心に文化・芸術志向の人々が集い、多摩動物園・神代植物公園やテーマパーク・アウトレットモールのある衛星都市、高尾山など自然を身近に感じられるエリアには、子育て世代やシニア層を主体とする個性豊かな街がつくられている様子が想像できると思います。

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株式会社インテージ(かぶしきがいしゃ・いんてーじ)

マーケティングリサーチ会社

1960年に創業。インテージグループは、日本のみならずアジアNo.1(*)のマーケティングリサーチ会社であり、生活者の意識・行動データを長年にわたり蓄積・分析している。
全国規模の消費者パネルデータや各種調査を通じて、消費・メディア・社会意識の変化を定点観測し、企業・行政・研究機関にも知見を提供。事業ビジョンとして「Create Consumer-centric Values」を掲げ、生活者中心マーケティングの実現・支援に力を尽くしている。本書では、同社が長年培ってきたデータと分析知をもとに、現代社会の実像を読み解く。 

*「ESOMAR’s Global Top-50 Insights Companies 2025」に基づく(グループ連結売上高ベース)

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(マーケティングリサーチ会社 株式会社インテージ 文=セールスエンジニア 小泉喜義)
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