台湾有事で日本が戦争に巻き込まれた場合、米軍は本当に日本を助けてくれるのか。防衛大学校共同研究員の伊藤隆太さんは「日米同盟があるから日本は安心と安易に考えてはいけない。
トランプ政権の戦略文書や軍高官の証言を読み解けば、日本は“守られる国”のままでいられる時代は終わった」という――。
■同盟国でも米国が守る保証はない
もし台湾有事が起きて日本が戦争に巻き込まれた場合、米国は本当に日本のために動くのか。答えは「絶対に動かない」ではない。だが、「条約があるから必ず、すぐ、全面的に米軍が動いてくれる」とも、もはや言い切れない。
こうした構図を、高市早苗首相も以前から認識している。2026年1月26日に配信された日本経済新聞の記事では、高市首相が同日のテレビ朝日の番組で台湾有事の邦人退避作戦に触れ、米軍が攻撃を受けたときに日本が何もせずに逃げ帰る形では日米同盟がつぶれるという趣旨を述べたと報じた。
もはや、日本は戦争が起きたとしても、一方的に米軍に守ってもらえる安全保障環境にはない。
実際に、トランプ政権下の米国は、同盟国を無条件に守る「世界の警察官」から、防衛費を増やし、弾薬を備蓄し、基地を使える状態にし、自国で戦う意思を示す国を優先する覇権国へ変わりつつある。
まず確認すべきなのは、米国のメッセージはシビアだということだ。2026年4月21日に配信されたロイター記事によれば、米インド太平洋軍(INDOPACOM)のパパロ司令官は、米国は台湾に対して、台湾自身以上に台湾防衛を望むことはできないという趣旨で警告している。
この論理は日本にも通じる。台湾に対する警告は、島を守る側が自らの政治、予算、備蓄を先送りすれば、米国の支援も細るという意味を持つ。
日本が外国から攻撃を受けた際に日本に求められるのは「助けてください」と訴えることではなく、米国が期待するような軍事的行動が取れるか、である。
■「世界の警察官」ではなくなった
だが、それよりも重要な論点がある。それは、日本の周辺で米国や日本が攻撃を受けてからの対応ではなく、戦争が始まる前の対応だ。米国が見定めているのは、有事が発生してからの対応だけでなく、有事以前の安全保障体制の構築なのだ。
まず、米国の安全保障における方針転換について詳しく確認したい。米国が同盟国を無条件に守る「世界の警察官」をやめたのは、トランプ氏の気分ではなく、戦略文書に書き込まれている。
2026年1月23日に米国防総省が公表した国家防衛戦略(NDS)は、本土防衛とインド太平洋を最重視し、第一列島線に強い拒否的防衛を築くとする。そのうえで、同盟国・パートナーに、より大きな負担と自国防衛の役割を求めた。
同戦略は、北大西洋条約機構(NATO)の新基準である国内総生産(GDP)比3.5%の中核的軍事支出と1.5%の安全保障関連支出、計5%を、世界の同盟国にも求める姿勢を示した。2026年3月26日にNATOが発表した資料も、欧州・カナダの防衛投資増を強調した。
米国は同盟国の平和を守る「世界の警察官」ではなく、同盟国を採点する国になったのである。
背景にあるのは、米国の兵力、弾薬、輸送能力が有限だという現実だ。
中東、欧州、インド太平洋で同時に危機が起きれば、米国はどこに出すかを選ばざるを得ない。その選別基準が、文書上も政治上も前面に出始めた。
米国の選別圧力を、日本側も意識している。2026年2月20日に首相官邸が公表した高市首相の通常国会冒頭の演説は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、日本が自ら考えてハンドルを握り、外交と防衛を車の両輪として独立と平和を守り抜くと表明した。
米国が同盟国に求める「自助努力する国」の像を意識した自立論であり、規模ありきの防衛費議論との距離を置く言葉でもある。
■トランプ氏の同盟観は「支払い」と「見返り」である
トランプ氏自身も、同盟を費用対効果で語る。
2025年3月7日に配信されたロイター記事は、同氏がNATO加盟国について、防衛費を十分に払わなければ守らないという趣旨を述べたと報じた。同じ記事で同氏は日米同盟についても、米国は日本を守るが日本は米国を守らないという不満を示した。
この理解は厳密に言えば事実とは異なる。日本は2015年の平和安全法制以降、一定の条件つきではあるが集団的自衛権を行使しうる。だが、大統領が同盟を「不公平な取引」と見ている事実は消えない。2025年4月17日に配信されたロイター記事は、トランプ氏が在韓米軍経費を関税交渉に絡め、日本とのやり取りでも防衛負担に言及したと報じた。
基地、駐留経費、通商は、別々の箱ではなくなっている。
在日米軍は米国の中国抑止に不可欠な前方拠点であり、日本防衛の柱でもある。価値があるからこそ、米国は維持費、受け入れ体制、作戦支援を日本に求めやすい。日本側が「米軍は米国にも必要だ」と言うだけでは、交渉上の答えにならない。
■「お金を払えば守ってもらえる時代」は終わった
冷酷さが最もはっきり表れるのは、武器供給である。2026年2月6日に米ホワイトハウスが発表した大統領令「America First Arms Transfer Strategy」は、米国製兵器の移転を米国内生産力の強化と外交の手段にし、自国防衛に投資し、米国の作戦計画上重要な役割や地理を持つ相手を優先すると定めた。
同日に配信されたロイター記事も、防衛支出の高い国や地域戦略上重要な国を、米国製兵器の顧客として優先する方針だと報じた。これは「高価な装備を買えば安心」ではない。受け取った装備をすぐ使う部隊、弾薬庫、整備員、部品、訓練、サイバー防衛、滑走路復旧まで整えられる国が前に出る。
対外有償軍事援助(FMS)は、注文しても納入に時間がかかる。日本が支払い済みであっても、戦力化が遅ければ優先順位は下がりうる。逆に、共同生産、国内整備、弾薬備蓄、部品供給、秘密保全を整えた国は、米国にとって「今すぐ役に立つ同盟国」になる。

日本が問われているのは、兵器を買う財布の大きさだけではない。受け取った兵器を、実際の戦場で何日、何週間、使い続けられるかである。
■すでに欧州での米軍撤退が進んでいる
こうしたトランプ氏の取引的な同盟観は、すでに欧州でも展開されている。
2026年4月9日に配信されたロイター記事は、トランプ氏が欧州の一部米軍撤収を側近と協議したと報じた。
さらに2026年5月1日に配信されたロイター記事は、米国がドイツから5000人を撤収すると国防総省が発表したと伝えた。日本に同じことが起きると断定はできない。だが、部隊配置が同盟政治のカードになりうることは明らかである。
武器も同じである。2026年4月16日に配信されたロイター記事は、イラン戦争で米軍の兵器・弾薬在庫が圧迫され、欧州向けFMSの納入が遅れる見通しを米側が伝えたと報じた。
では、米国は日本に何を求めているのか。第一は防衛費である。ただし数字は慎重に扱う必要がある。

2025年6月21日に配信されたロイター記事は、米側が日本にGDP比3.5%を求めたとの英フィナンシャル・タイムズ報道を伝えた一方で、日本側関係者が3.5%や5%目標の協議を否定したことも報じた。2025年10月29日に配信されたロイター記事でも、ヘグセス国防長官は日本の防衛費増額の早期実施を求めたが、具体的数値要求はしていないと述べた。
■防衛費の増額は“要求の入り口”にすぎない
数字以上に重要なのは能力である。2026年4月22日に米下院軍事委員会に提出されたジョン・ノウ米インド太平洋安全保障担当次官補の証言は、在日米軍司令部を統合部隊司令部へ強化し、日本の統合作戦司令部と連携させること、南西諸島などで現実的な訓練を広げること、火力を重点分野にすることを挙げた。
2026年3月19日に米ホワイトハウスが発表した日米協力ファクトシートも、タイフォン・ミサイルシステム、先進中距離空対空ミサイル(AMRAAM)の生産能力、スタンダード・ミサイル3ブロックIIA(SM-3ブロックIIA)の日本生産拡大、政府データ用クラウドによる情報共有を挙げている。
つまり、防衛費は米軍の要求の入り口にすぎない。彼らの要求の本質は、米国製装備、弾薬備蓄、ミサイル防衛、反撃能力、サイバー・宇宙、情報・監視・偵察、南西諸島防衛、在日米軍と自衛隊の指揮統制、そして港湾・空港・道路を含む兵站といった包括的な軍事協力なのだ。
■「徴兵制の復活」は求められていないが…
ただ、米軍が日本に対して包括的な軍事協力を求めているからといって、徴兵制の復活まで望んでいるわけではないことは確認しておきたい。米国が日本に徴兵制復活を明確に要求した一次資料や主要報道は確認できない。
対照的に、2026年4月22日に配信されたロイター記事は、ドイツが現役26万人、予備役20万人という兵力目標を掲げたと報じた。日本に同じ数字が求められているわけではないが、欧州では、防衛負担増の議論が人員基盤にまで及んでいることを示す先例である。
現実の要求は、より地味で重い。
人を集め、訓練し、残すことである。2026年1月15日に日本の防衛省が公表した日米防衛相会談概要は、南西地域での共同プレゼンス、高度で現実的な訓練、AMRAAMやパトリオット迎撃ミサイル(PAC-3MSE)の共同生産、艦艇・航空機の共同維持整備、統合防空ミサイル防衛(IAMD)と宇宙領域の協力を確認している。
台湾海峡や尖閣周辺の危機で必要になるのは、情報・監視・偵察(ISR)、反撃能力、サイバー防衛、燃料、弾薬、港湾、滑走路、医療、整備員である。南西諸島を支えるには沖縄だけでなく、九州の港湾・空港・補給拠点も不可欠になる。
継戦能力とは、華々しい新兵器の数ではない。交代要員、予備自衛官、民間輸送、医療、自治体の避難計画、修理に戻れる工場を含む社会全体の持久力である。
■防衛費は増税、家計、地域負担に変わる
最後に、この問題は家計に直結する。防衛省の防衛力整備計画は、2023年度から2027年度までの5年間に必要な防衛力整備水準を43兆円程度としている。2025年12月26日に配信されたロイター日本語版記事は、2026年度防衛予算案が初の9兆円台となり、無人機や防衛産業基盤に大きな予算を投じると報じた。
財務省の2026年度税制改正大綱概要は、防衛特別所得税(仮称)の創設を示す。同時に、足元の家計負担増を避けるため復興特別所得税を1%下げ、課税期間を10年延ばす設計も示した。
この設計について、2025年12月17日に首相官邸が公表した高市内閣総理大臣記者会見で、高市首相は防衛財源確保のための所得税見直しに関し、新たな家計の負担にならないよう配慮する旨を述べた。だが復興特別所得税の課税期間が10年延長される以上、家計負担は形を変えて長く続く。「足元はゼロ」とは、請求書の発行を先送りしたにすぎない。
2025年度税制改正大綱は、防衛特別法人税(仮称)とたばこ税の見直しを示した。法人負担は賃金や物価に、所得課税は将来の負担配分に、基地強化は騒音、事故リスク、土地利用、避難計画に跳ね返る。
■「米国が来るまで耐える力」が必要
防衛費は抽象的な安全保障論ではなく、教育、医療、介護、子育て、防災との予算配分の問題でもある。国民の暮らしに置き換えれば、請求書は三つある。
第一は税で、恒久財源を誰が負担するか。第二は予算の取り合いで、社会保障や教育をどう守るか。第三は地域負担で、弾薬庫、燃料施設、訓練、港湾利用をどの自治体が受け入れるかである。安全保障を「遠い外交問題」として扱う余地は、急速に小さくなっている。
結論は厳しい。米国は日本を捨てたわけではない。だが、守る相手を以前より厳しく見ている。防衛費を増やし、弾薬を備蓄し、南西諸島を守り、基地を使える状態にし、米軍と指揮統制をつなぎ、国民負担をどう配分するかを決める。そこまでして初めて、日本は米国にとって「守る価値がある同盟国」であり続ける。
台湾有事の本当の危機は、日本が戦争に巻き込まれ、中国から攻撃を受けるかどうかだけではない。日本が、米国が来るまで耐える準備を済ませていないことなのである。

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伊藤 隆太(いとう・りゅうた)

防衛大学校 共同研究員/戦略コンサルタント

防衛大学校共同研究員、NovaPillar Advisory LLC戦略コンサルタント、博士(法学)。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科後期博士課程修了。慶應義塾大学・広島大学助教、日本国際問題研究所研究員等を経て今に至る。Co-Chairs of the IPSA Research Committees (RC12)、APSA Committee of Best International Security Article等を歴任。単著論文はInternational Affairs誌に‘Hybrid Balancing as Classical Realist Statecraft’ (2022)、‘Hubris Balancing’ (2023)、International Relations誌に‘A Neoclassical Realist Model of Overconfidence and the Japan–Soviet Neutrality Pact in 1941’ (2023)、‘Outrage Balancing’ (2026)、単著研究書は『進化政治学と国際政治理論』(芙蓉書房出版、2020)、『進化政治学と戦争』(芙蓉書房出版、2021)、『進化政治学と平和』(芙蓉書房出版、2022)、編著研究書に『インド太平洋をめぐる国際関係』(芙蓉書房出版、2024)等がある。

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(防衛大学校 共同研究員/戦略コンサルタント 伊藤 隆太)
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