中国ではここ数年、ビザ発給の緩和などの追い風を受け、外国人観光客が増え、その訪中目的も多様化している。かつては外国人が中国を訪れる主な目的といえば、故宮や張家界といった名所旧跡を巡り、悠久の歴史と文化を鑑賞し体験することだった。
中国のハイテクを体験するために訪れた外国人は、電気自動車(EV)の製造ラインを見学したり、ドローンによるデリバリー体験をしたりするためなら、多額の費用を惜しまない。各国の旅行サイトでは、これらのツアーが「未来探索の旅」や「中国テクノロジー裏側ツアー」といった名でパッケージ化され、大きな人気を集めている。
深センなどを巡る1日間のテクノロジーツアーでは、自動運転タクシーへの試乗と、ドローンによる食事のデリバリー注文の2つが外せない目玉となっている。自動で動くハンドルや障害物を避ける車体、空から食事が届く光景に外国人は熱狂する。その後は人型ロボットとの交流や拡張現実(AR)体験を経て、最後は巨大電子街である市内の華強北で最新技術が投入された土産を大量に買い込むのが定番だ。1日ツアーの相場はおよそ500~1000元(約1万2000~2万4000円)程度であり、外国語を話せるガイドが言葉の壁を取り払うだけでなく、中国特有のアプリ登録やSMS認証などの面倒な手続きを代行し、旅行者がハードルなく「未来の生活」を体験できるようにしているという。
一方で、こうした表面的な1日体験だけでは満足できない人のために、3日間から1週間におよぶディープなツアーも用意されている。アリババ、シャオミ、DJI、バイドゥなどの有名企業や無人化されたスマート工場を巡り、企業幹部との商談や会議を行うことも可能だ。主な参加者は世界各国の学生や起業家だ。
このブームの火付け役となったのは、5500万人のフォロワーを持つ米国の超人気ユーチューバーのアイショウスピード(「私はスピードを見せる」の意)さんだ。彼が2025年春に2週間をかけて中国各地の8つの主要都市を巡り、テクノロジーを体験する様子をライブ配信したことが転機になった。水上を走る電気自動車、折りたたみスマートフォン、ロボットとのダンスなどに驚愕する彼のリアクションは、文化的背景を知らなくても「未来感」が直感的に伝わるものだった。その後、多くの旅行系インフルエンサーが追随し、「中国はすでに2050年だ」といったタイトルで動画を量産するようになった。そして街角のスマート設備やホテル内の配送ロボットなど、日常に溶け込んだテクノロジーを発信し続けた。
米国のシリコンバレーで行われるツアーは、その企業名が見えるゲートの前で記念写真を撮るだけの「聖地巡礼」だ。しかし中国のテクノロジーツアーの最大の魅力は、「未来のシーン」を直接体験できる点にある。自動運転タクシーに実は安全員が同乗していたり、配達エリアが限定的であったり、アプリ操作が複雑すぎたりと、現実とのギャップに直面して失望する声も一部にはある。しかし、短時間の体験であれディープな視察であれ、テクノロジーツアーを終えた外国人たちが共通して抱く確実な認識が一つあるといい、それは「今日の中国は、かつて自分たちが思い描いていた中国とは完全に異なっている」という事実だという。











