2013年当時の統一球。NPBが前年までの「飛ばないボール」から無断で「飛ぶボール」に仕様変更して大問題に発展
今季のプロ野球に"異変"が起きている。
※成績はすべて4月14日時点。
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【直近2年間は〝加藤球〟時代に匹敵する「投高打低」】プロ野球が開幕して3週間が経過した今、球界全体を揺るがす〝異変〟が議論の的となっている。ホームランの数が明らかに増えているのだ。打球音の軽やかさに違和感を覚えたファンも少なくないだろう。
実際、この変化を最も敏感に察知しているのは現場の人間だ。阪神の藤川球児監督が巨人との開幕3戦目に勝利した直後、「どの球場も打球が少し遠くに飛んでいるような雰囲気もありますので。野球の景色っていうのが今季また少し違うかもしれないですね」と言及し、一気に注目度が高まった。
NPBの中村勝彦事務局長は「(統一試合球の反発係数は)厳格な検査を行ない、定められた基準値の範囲内に収まっている。意図的な仕様変更などは一切ない」と主張しているが、実態はどうなっているのか?
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏が、現場レベルの情報を交えて解説する。
「現役投手たちから『縫い目の高さが低くなり、感覚が以前とまったく違う。
NPB統一試合球を製造・管理するミズノ社は、反発係数を一定に保つことのみに腐心しているように見受けられますが、反発係数が変わらなくとも、縫い目の高さや包み方、保存方法が変われば、空気抵抗も変わり、打球の伸びまで変わるのは明らか。
『プロ野球試合使用球に関する規則』で『ボールの反発係数は、「0.4134」をその目標値とする』と明記されており、NPBもそれを順守していますが、〝反発係数以外〟が微妙に変化している可能性もあるのではないでしょうか」
あまりに得点が入らないNPBの閉塞的な環境に、かねて危機感を抱いてきたお股ニキ氏。だが、昨夏以降、ボールが微調整された様子が見受けられ、今季ようやくその成果が数字に表れ始めた格好だ。
「いきなりものすごく飛ぶようになったわけではもちろんなく、ここ数年の『飛ばなすぎた状態』から、ようやく少しだけ正常化し始めた段階だと思います」
「飛ぶボール」「飛ばないボール」は時代によって変化してきたが、お股ニキ氏は2000年代以降の12球団合計のシーズン本塁打数の推移に着目し、統一試合球の変遷について解説する。
2011年に使用された統一球を持つ加藤良三コミッショナー(当時)。野球ファンの間では「加藤球」とも
「03年の1987本、04年の1994本が最も多い記録ですが、加藤良三コミッショナー(当時)によって導入されたことから『加藤球』ともいわれていた低反発の統一球が使用された11年は939本、12年は881本まで激減しました。
その後、1300~1600本程度で推移していましたが、24年には975本、25年も1096本と、直近2シーズンは『加藤球』時代に匹敵する歴史的な低水準を記録。両年共に投高打低の傾向が高まり、3割打者(規定打席到達者)が12球団で3人のみ、防御率1点台投手(規定投球回到達者)が複数人という異常事態でした。
今のペースから計算すると、今季は1200~1300本程度まで回復するでしょう。18、19年頃の1600本超えの時代と比べるとまだまだ投高打低の範疇ですが、異常に飛ばなかったここ数年からすれば、ようやく『普通の野球』に近づいたと言えます」
ボールの変更が事実だとすれば、その影響は単なるスコアの増減にとどまらない。お股ニキ氏は、直近のWBCなどを通じて、MLBとNPBとの間に再びかつてのような「レベルの乖離」が生じ始めている、と警鐘を鳴らす。
「率直に言って、今のMLBのレベルはすさまじく、NPBとの差は再び広がりつつあります。振り返れば、『加藤球』の影響で極端な投高打低傾向が続いた10年代前半は、MLBで活躍する日本人野手が少なく、WBCでも優勝に手が届かなかった。
結局、ボールが飛ばず、球場が広すぎる環境で『当てにいくバッティング』や『打たせて取るピッチング』が主流になると、選手のスケールが小さくなってしまうのでしょう」
実際、MLBではボールやストライクゾーンをシーズンごとに微調整し、競技環境の連続性を保っているという。一方、NPBは13年の〝サイレント変更〟への批判を引きずり、ボールの仕様を固定する方向に傾きすぎてしまった。
「今のNPBに必要なのは、世界標準に向けた環境の正常化です。ボールがMLB並みに飛ぶようになれば、その差を縮める第一歩になるでしょう。加えて、ピッチコムやピッチクロック、ロボット審判(ABS)といったテクノロジーの導入も好影響をもたらすと思います。
MLBのように環境を人工的に整えていく発想を取り入れない限り、日本野球は今以上にガラパゴス化し、国際舞台での競争力を失いかねません。今季の変化は選手の小粒化を食い止め、再び世界基準の『個』を育むため、避けられない一歩と言えるのではないでしょうか」
【飛び始めたボールの恩恵を受ける日本ハム打線】ボールが飛ぶようになった恩恵を最も受けているのが日本ハムだ。
開幕15試合で27本塁打を記録するなど、年間200本を超える爆発的なハイペースで量産中。昨季はチーム合計129本塁打だったことを思えば、その変貌ぶりは驚異的だ。
開幕9試合で11人が本塁打を記録するプロ野球新記録も打ち立てた日本ハム打線を、お股ニキ氏は〝伝説の巨人打線〟と重ね合わせる。
「今季の日本ハム打線の勢いは、チーム本塁打259本というNPB記録を持つ『2004年の巨人打線』と比較しても遜色ないペースです。何よりも本拠地エスコンフィールドが、今の飛び始めたボールと見事に噛み合っています。
屋外球場よりもドーム球場のほうが打球が失速せず、そのままスタンドインすることが多い印象です。先日もソフトバンクの山川穂高が放ったファウルフライがエスコンフィールドの天井を直撃しましたが、あんなシーンはこれまで見た記憶がありません」
就任5年目の日本ハム・新庄監督。「今年は優勝しないといけない年」と公言している
球場の特性を踏まえた上で、新庄剛志監督の打撃指導が的確に機能している点も見逃せない。特筆すべきは、これまで「フェンス手前での打球の失速」に泣かされてきた打者たちが、軒並み変貌を遂げていることだ。
「各右打者の『右方向への本塁打技術』の向上が際立っています。かつての落合博満氏のようにライト方向へ放り込む吉田賢吾の技術を、野村佑希、郡司裕也らがマスターしつつあり、野村は岡本和真(ブルージェイズ)を思わせる右方向への飛ばし方を見せています。
また、清宮幸太郎は、昨年までなら完璧にとらえてもフェンス手前だった打球が、今季はボールの恩恵もありスタンドまで届くようになった。フルスイングしすぎなくても飛ぶので、打席での余裕が格段に違います」
開幕から38打席で4本塁打を放っている日本ハム・野村。今季はついに覚醒のシーズンとなるか
昨季は打率.297、10本塁打でチームの躍進を支えた日本ハム・郡司。今季から背番号3に変更
開幕から打撃好調で、現在、パ・リーグトップタイの5本塁打を記録する日本ハム・清宮
さらに目を引くのは、フロントと現場が一体となった「目利き」の鋭さだ。
「年俸1億円以上だった松本 剛(巨人)をFA移籍させた一方、わずか2000万円で古巣に復帰させた西川遥輝を『ホームランが出るスイング』へと改造。キャンプでひと目見た瞬間、『これは打つ』と確信しました。本来持っていた長距離砲の素質が、34歳にしてようやく開花したカタチです。
新庄監督は五十幡亮汰にはライナーを狙わせ、田宮裕涼には無駄なポップフライを減らすよう徹底するなど、選手のタイプに応じた指導が実に緻密。今の日本ハム打線はどこからでも一発が飛び出す怖さがあり、正常化しつつあるボールに最も適合したチームと言えます」
一方、打線の活況の陰で、守備への悪影響も見逃せない。清宮は開幕15試合で6失策を喫しているが、お股ニキ氏は「これもボールが飛び始めた余波です」と指摘する。
「今季は鋭い内野ゴロに野手が手を焼く場面が増えています。これまでは打球が遅い分、余裕を持って捕れていましたが、打球速度が上がるとバウンドの感覚なども変わるため、対応が難しくなる。ボールの変化は打線に追い風をもたらしましたが、守備には逆風となっています」
【ソフトバンクに今季5戦全敗。日本ハムの今後は?】打線が噛み合い、12球団トップの本塁打数と得点数を誇る日本ハム。
今季の日本ハムは、ソフトバンクに対して開幕から5戦全敗と大苦戦中。次の直接対決は交流戦直前の5月22日としばらく間が空くが、お股ニキ氏はこの状況を冷静に見つめる。
「さまざまな数字や指標が示すとおり、日本ハムの選手個々の能力は非常に高いですが、それが勝利という結果にそのまま直結していないのが現状です。
また、ソフトバンクは日本ハムを徹底的にマークしており、研究と対策の精度が他球団とは一線を画しています。近藤健介や柳田悠岐ら日本代表クラスがずらりと並ぶ打線は、ホームランを量産する日本ハムと互角の得点力です」
直近2年は小久保監督(右)のソフトバンクに優勝を阻まれてきた新庄監督。今季もここまで5戦全敗と苦戦
打線の好調に沸く一方で、お股ニキ氏は日本ハムの足元に忍び寄る〝ほころび〟にも目を向ける。盤石と思われた先発陣の調子がいまひとつ上がり切っていないのだ。
「昨季まで2年連続で最多勝を分け合った伊藤大海と有原航平は『飛ばないボール』の恩恵も受ける投球スタイルだったので、ボールが変化した今季は厳しさが増すと思います。
さらに、伊藤は中5日での連続登板による勤続疲労が顕著。キャンプの頃から球速が落ちており、タフとはいえ体の調子や疲労も気がかりです」
昨季は自身初の沢村賞を受賞した日本ハム・伊藤。今季はまだ状態が上がり切っていないよう
今季から古巣に復帰した日本ハム・有原。
日本ハムがソフトバンクを崩すためには、戦力値以上に〝大局観〟が求められるとお股ニキ氏は指摘する。
「ソフトバンクの小久保裕紀監督はWBCに出場したリバン・モイネロに十分な調整期間を与え、まさに大局観を持ったマネジメントを行なっています。5月以降にモイネロが戻ってきてフル稼働すれば、相当なブーストがかかるでしょう。
一方、日本ハムは齋藤友貴哉の離脱に動揺し、先発適性のある古林睿煬や山﨑福也を中継ぎに回したものの、ふたりとも結果を出せていない。先発からも外し、中継ぎでも炎上し、それまで使えていた中継ぎの枠まで圧迫する悪循環に陥ってしまっています。
新庄監督は選手の起用と育成において、本当に優れた手腕を発揮しています。そこに投手マネジメントにおける大局観が加われば、確実に勝ちを拾えるチームになるでしょう」
飛び始めたボールの影響で、投手には自力でアウトを取る力が問われているが、日本ハム投手陣はその環境変化に適応できるのか。一方、飛び始めたボールの恩恵を受ける日本ハム打線は、このまま歴史的なペースで打ち続けられるのか。ペナントレースはまだ始まったばかりだ。
写真/時事通信社



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