俳優の中井貴一(64)が、20年ほど前から誕生日会などで食事をする間柄だった長嶋茂雄さん(享年89)との思い出を語った。ある時、憧れの野球選手を尋ね、長嶋さんが「イチロー」と即答したエピソードなどを披露。
(取材・構成=有野 博幸)
東京・田園調布出身の中井にとって、長嶋さんは憧れの存在であり、地元の誇りだ。「僕が通っていた幼稚園が長嶋さんのご自宅の並び。散歩する姿を拝見することがありましたし、多摩川の巨人軍グラウンドもすぐ近く。練習する姿は光り輝いて見えました」と思い出を明かした。
長嶋さんの存在を強く意識したのは、2003年のこと。「長嶋さんが、ヤンキースに移籍した松井秀喜さんを訪ねてニューヨークに行ったんです。その飛行機で僕が出演した映画の『壬生義士伝』をご覧になって、着いた直後にニューヨークから東京の松竹本社に国際電話をかけたんです」
映画を見て感動した長嶋さんは「長嶋です。『壬生義士伝』がすごく良くて、泣きましたよ!」と興奮気味に報告。電話を受けた松竹の社員は困惑しながら「どちらの長嶋さんですか?」と尋ねると、「巨人の長嶋です」と答えたという。
「松竹社内は騒然となったそうです。
少年時代が巨人のV9と重なり、全盛期だったONに夢中になった。ある時、食事の席で「僕らは長嶋さん、王さんに憧れて野球好きになりました。長嶋さんは誰に憧れたんですか?」と質問した。すると長嶋さんは間髪入れずに「イチロー」と答えた。イチローがシアトル・マリナーズで活躍している頃だ。予想外の返答に驚き、「いやいや、長嶋さんが子供だった頃も含めて、人生で一番、憧れた選手ですよ」と改めて尋ねても「イチロー」と即答だった。
中井が驚いていると、長嶋さんは「走・攻・守に加えて、スター性と努力。その全てを見て、僕は彼を目指したいと思う」と語った。「恥ずかしげもなく、後輩の名前を出せる度量の大きさを持った長嶋さんは、何て素敵なんだろうと思いました。
2年前には、長嶋さんの87歳の誕生日を祝福した。「来年は88歳の米寿ですね。また、お祝いしましょうね」と声をかけると、長嶋さんは「盛大にやりたい」と答えたという。「正直、『もういいよ』とおっしゃるのかと思いましたが、『盛大にやりたい』って、長嶋さんらしい。誕生日会でも参加者それぞれと握手して『ありがとう』と感謝する。ものすごく気を使う方なんですよね。もっともっと話したかった」。ミスターの面影を振り返り、惜別の思いを込めた。
◆映画「壬生義士伝」 浅田次郎氏の同名小説を「おくりびと」の滝田洋二郎監督が映画化。幕末の京都を舞台に新撰組の吉村貫一郎(中井)と斉藤一(佐藤浩市)の確執、友情を軸に描いた人情時代劇。
◆中井 貴一(なかい・きいち)1961年9月18日、東京都生まれ。64歳。81年、映画「連合艦隊」で俳優デビュー。83年、TBS系ドラマ「ふぞろいの林檎たち」で注目され、85年の映画「ビルマの竪琴」、88年のNHK大河ドラマ「武田信玄」に主演。他にフジテレビ系「最後から二番目の恋」シリーズ(2012年~)、映画「記憶にございません!」(19年)など。父は俳優の佐田啓二さん。181センチ。血液型A。