プロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(33)=大橋=が2日、東京ドームで挑戦者の前WBC&IBF世界バンタム級統一王者・中谷潤人(28)=M・T=を3―0の判定で下し、自身の持つ歴代最多記録を更新する7度目の4団体統一王座防衛に成功した。5万5000人の観客の前で繰り広げられた日本ボクシング史上最大の一戦の実相を、ボクシング担当の勝田成紀記者が「見た」。

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 世紀の一戦は、派手なダウンシーンこそなかったものの、両者の駆け引きと高度な技術が交錯した濃密な12ラウンドだった。

 序盤は、チェスのような頭脳戦が展開された。注目していたのは、両者の前の足(尚弥の左足、中谷の右足)のポジションの駆け引きだ。尚弥は過去のほとんどの対戦相手に対し、出入りのステップのスピードで距離をコントロールできていた。だが、身長で8センチ上回る中谷に対しては、左足の位置取りで機先を制し、空間を支配。尚弥は「1~4回はある程度、あの距離で戦ってポイントをピックアップできた」と振り返った。近距離ではノーモーションのパンチを意識させたことも、中谷の手数を封じる要因になったと感じた。

 中盤以降、試合は大きく動き出した。8回、中谷が尚弥の右をかわし、尚弥が中谷の打ち下ろしの左をミリ単位のスウェーで外すと、2人は同時に笑顔を見せた。「お互いが打っても当たらない空間っていうものを、楽しんでいた。あれはたぶん、本当にそこから自然と出た笑顔だったかなと思います」と尚弥。これまで相手を圧倒して勝利を重ねてきた両雄は、互いの実力を認め合った究極の技術戦を楽しんでいた。

 11回、尚弥のワンツーからの右アッパーが中谷の左目を打ち抜いた。中谷は急失速。左目を守るようにガードを高く掲げた。ダメージは明らかだったが尚弥は「このまま叩きのめそうっていう気持ちが100%ではなかった。ちょっと複雑な感情。初めてでしたね」とトドメを刺すことに躊躇(ちゅうちょ)があったことを認めた。ただ「甘さではないです」とも語った。

 ペイパービュー販売数は、22年6月に那須川天心と武尊が対戦した格闘技興行「THE MATCH」の約53万件を超えて日本格闘技史上最多となった。「THE DAY やがて伝説と呼ばれる日」のメーンイベントにふさわしい、至高の36分間だった。

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