メディアが「家族に財産管理の自由がない」「専門家に依頼すると報酬を支払わなければならない」などと問題ばかり伝えてきたことも影響して、世間では成年後見といえば「専門職後見人(弁護士・司法書士など)の不正・横領」などのネガティブな事態にばかり注目が集まっているのが現状だ。
だが、現場で実際に後見業務を担う弁護士の目には、その報道はまるで別世界の話のように映っている。批判の応酬が続く中、この制度がそもそも「誰のために」設計されたのかを、後見業務が多い弁護士への取材とともに整理する。(ライター・岩田いく実)
運用開始から25年超:制度が迎えた転換の背景
成年後見制度は2000年(平成12年)にスタートした制度だ。認知症や知的障害、精神障害などによって、物事を判断する力が十分でなくなった方を法律的に守るための仕組みである。家庭裁判所によって選ばれた「成年後見人」と呼ばれるサポート役が、本人(被後見人)に代わって財産の管理や契約手続きを行う。成年後見人には弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職のほか、親族や市民後見人が選ばれることもある。
なお、成年後見制度には、「成年後見」の他に、本人の判断能力の状態に応じて「保佐」「補助」の制度がある。
成年後見制度は運用開始から25年を超えた今、新たな転換期を迎えている。4月3日、政府は成年後見制度の抜本的な見直しを内容とする民法改正案を閣議決定した。
現在の「成年後見」「保佐」「補助」」という3本の柱を抜本的に見直し、「補助」に一本化するというものである。
特に、後見は一度始めれば本人が死亡するまでやめられない事実上の「終身制」として機能してきたが、この改正により廃止されることになる。
転換を迎えた背景には、制度の利用率が伸び悩んできた現実がある。2022年度の認知症高齢者は全国で443万人を超えると推計されているが、実際に成年後見制度(成年後見、保佐、補助)を利用しているのは2022年度では約24万人(うち成年後見は約18万人)、2025年度でも約26万人(うち成年後見は約18万人)に留まる。
「使いにくい」「(成年後見について)一度始めたら終われない」という声が当事者や家族から上がり続け、制度そのものの見直しを求める機運が高まっている。加えて、運用上の深刻な問題も表面化した。
制度が開始した当初は成年後見人の約9割を親族が占めていたが、家庭裁判所は徐々に専門職後見人を優先するようになった。
その理由としては、第一に、親族後見人による不正が相次いだことが挙げられる。本人の財産を使い込む事案が増えた2012年以降、家庭裁判所は親族後見人の選任に慎重になり、後見制度支援信託・預金制度(一定額以上の財産を信託銀行等に預け、裁判所の許可なく引き出せない仕組み)を原則化した。
第二に、実務の専門家ではない親族にとって、家庭裁判所への定期的な報告は重い負担となり、家庭裁判所自体が運用を滞らせないために選任を避けるようになったと考えられる。
その結果、2024年には専門職が成年後見人全体の7割超を占めるまでになったが、今度は弁護士や司法書士など専門職による横領・着服事案も発生。メディアが専門職の不祥事を繰り返し取り上げることもあり、「誰が後見人になっても不正が起きる」という印象が広がり、制度全体への信頼が揺らいでいる。
しかし、統計を見ると、不正件数の大半は今もなお専門職以外(親族)による事案が圧倒的に多い。
市民後見人はなぜ増えないのか
「地域で顔の見える支援を」という理念のもと、研修を受けた一般市民が後見人を担う「市民後見人」制度も設けられている。しかし直近の統計では、全体4万2732件のうち市民後見人の選任はわずか390件——全体の1%にも満たない。市民後見人が活躍できる案件は本人(被後見人)の財産が比較的少なく、福祉サービスとの連携が整っており、法的な紛争性がない場合に限られる。しかし、実際に後見が必要になる状況の多くは遺産分割協議を急ぐケースや虐待事案の対処など、福祉につなぐ手続きが必要になるなど、即時の専門的判断が求められる局面だ。
なお、直近の統計によれば、成年後見の申立件数4万2732件のうち、申立人の第1位は「本人」(24.8%)で、第2位は「市区町村長」(23.7%)となっている。「子どもや親族が仕方なく申し立てる」というイメージとはかけ離れた現実がある。
つまり、身寄りのない高齢者が増え、福祉の現場や本人自身が必要に迫られて申し立てるケースが急増しているのだ。
「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」から(最高裁判所事務総局家庭局が作成)
「終わらない制度」の本当の意味
成年後見制度への批判の中でも、「一度始めたら死ぬまで続く」という点は特に強調される。まるで取り返しのつかない選択をしてしまったかのように語られることも多い。そこで、成年後見人業務に携わってきた京都府の荻原卓司弁護士(オギ法律事務所)に、なぜ成年後見制度は「終身制度」とされてきたのか、批判の的となっている報酬の問題や今後の法改正について聞いた。
成年後見制度が終身とされているのはなぜでしょうか。
荻原弁護士:成年後見制度が「終わらない」という点は、厳密には正確ではありません。現行の制度でも、保佐の代理権付与、補助については本人の同意が開始要件であり、本人が終了を望めば、手続きを通じて終えることができます。「一度始めたら絶対に終わらない」という理解は法的にはミスリードです。ただし、事実上、終身にわたるケースが多数にならざるを得ないのも事実です。
後見人が必要となった場合、仮に被後見人が認知症の方だとすると、認知症はある日突然に治るわけではありません。
財産を外部からも親族からも、本人の利益のために守るためですから、結果として終身にならざるを得ません。
専門職後見人への報酬が、親族の重い負担となっている点についてはどのようにお考えでしょうか。
荻原弁護士:「専門職への報酬が高い」と批判していただいて構わないと思っています。ただ、後見人をつけなかった場合に何が起きるかも、広く知られてほしいです。判断能力が低下しているご本人は、原則として財産を自由に使うことができません。例えば、年金収入があっても、口座から引き出すことすらできない状態になる。そうした生活を強いることは本人のためになるのでしょうか。身近に頼れるご親族がいるケースばかりではない、ということも注目されるべきです。独居の方もいれば、夫婦ともに成年後見制度が必要なケースもある。
さらに、多くの自治体では成年後見の費用助成制度が整備されつつあることも知られていません。
改革は必要であり、現に進んでいます。しかし、「弁護士や司法書士が報酬を取るのはおかしい」「家族に任せるべきだ」という批判が正確な制度理解に基づいていないとき、本当に必要としている人を制度から遠ざける結果を招くおそれがあります。意思を表明できない人の財産を守るためには、何らかの法的仕組みが不可欠です。
荻原卓司弁護士(撮影・岩田いく実)
埋もれたままの「成年後見人が本当に必要な人たち」
今後成年後見制度は法改正が予定されています。実務に携わる弁護士として、今後整備がさらに必要な部分があれば教えてください。
荻原弁護士:現在の成年後見制度の改革議論の中で検討が不十分なのは、申立権者の問題です。現行制度では、本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市区町村長などが申立権者とされている。しかし実態を見ると、身寄りのない方が多数いる中で、すでに本人が申し立てているケースが統計上トップになるという逆説的な状況が生まれています。今すぐ支援が欲しいと、本人が声を上げている現状がある。
成年後見制度は本人の利益のための制度だと言いながら、なぜ申立権者をこれほど絞るのか。
しかし、現状では申立権がないため、福祉の現場スタッフが「この方には後見が必要だ」と判断しても、直接の申し立てはできません。潜在的な需要は多いのに対し、制度が届いていない実態があります。
成年後見制度の終身制度や専門家への報酬は積極的に報道されていますが、必要な方に必要な制度とするための議論につながってほしい。申立権者の拡大も議論すべきです。
成年後見人制度の議論はどう行われるべきか
「成年後見制度には批判されるべき点が多いのは、事実です。しかし、判断能力を恒常的に欠く高齢者が急増する日本で、本人の資産と権利を守る仕組みは絶対に不可欠です。現状でも、成年後見制度を利用しない場合の親族による財産搾取・経済的虐待の危険性がある。ましてや、独居高齢者が急増し、家族の支援が受けられない人すらいるのですから。批判を批判で終わらせず、具体的な『次の仕組み』や代替案につなげる議論であってほしい」
親族からの虐待や身寄りのない方の孤独に向き合ってきた荻原弁護士は、そう静かに強調する。
人生100年時代を迎え、誰もが認知症等により判断能力が衰えたまま生き延びるリスクを負っている。
したがって、成年後見制度の議論は、現状の制度の欠点を指摘するだけではなく、どうすればうまく機能するかということに重点を置いて丁寧に行われるべきだろう。
■岩田いく実
損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。

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