2020年度からセンター試験に代わる「大学入学共通テスト」がスタートするが、英語の民間試験活用が延期され、さらに国語と数学に導入される記述式問題についても延期されようとしている。

 一方で、少子化や景気低迷の影響を受けて大学教育も揺れている。

苦境にあえぐ地方の私立大学が増える一方で、国公立大学の人気が高まる動きもある。特に地方の国立大学の躍進を予見するのが、『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中央公論新社)の著者で教育ジャーナリストの木村誠氏だ。大学教育の現状と今後の見通しについて、木村氏に聞いた。

平成の30年間で様変わりした大学のあり方

――平成時代の大学を振り返って、いかがですか。

木村誠氏(以下、木村) 平成の30年間、文部科学省は大学の新設を次々と認可してきました。国立、公立、私立をあわせて、1986年(昭和61年)には465大学でしたが、2018年には782大学に増えています。

この間、18歳人口は微減でしたが、その一方で大学進学率は年々上がってきました。18年度の大学・短大進学率は過去最高の57.9%を記録しています。

 ただし、大学が増える一方で平成が終わり、18歳人口の大幅減少時期に突入し、大学進学率が上昇しても大学進学者数は減少していくという局面に入っています。日本私学事業団の調査によると、私大の約4割が定員割れになっており、大学経営も赤字が増え、まさに岐路に立たされています。

――地方の大学の状況は、どのように変わったのでしょうか。

木村 昭和後期から、地方自治体が既存の学校法人と協力し財政支援をする「公私協力方式」が、地方の私大を中心に広がっていきました。

具体例としては、苫小牧駒澤大学、石巻専修大学、いわき明星大学などです。しかし、苫小牧駒澤大は学校法人駒澤大学が経営から手を引き、中国と関係が深い学校法人京都育英館に18年に無償譲渡され、21年には校名が変更される予定です。有名私大の系列でも思ったように志願者が増加せず、平成に入ると、地方自治体の求めに応じて地方に系列大学を新設するケースが減少しました。

 それに代わって、実質的に公設でありながら法的には民営(私立学校法人)という「公設民営方式」の私大が台頭します。しかし、これも結局は失敗に終わります。地方の進学校は地元の国公立大への合格を重視する傾向があります。

また、公設民営方式の大学は学費が東京の私大並みに高く、私学で歴史も浅い点が嫌われたのです。

 そこで、非進学校からの推薦枠を拡大しましたが、この動きも逆に進学校生徒から嫌われ、さらに地元の受験生から支持されなくなるという悪循環が生まれ、結果的に定員割れするケースが増えました。実質的には公設民営である萩国際大学のように民事再生法適用を申請したり、公私協力方式の愛知新城大谷大学、三重中京大学のように閉学を余儀なくされたりする例も出始めています。

 また、公立化で起死回生を図った私大もあります。代表例が、福知山公立大学(旧成美大学)や実質的に公設民営である山口東京理科大学などです。

――地方私大は全般的に厳しい環境に置かれていますね。

木村 平成の後半に入ると、少子高齢化を反映して医療系大学が増えました。たとえばこの17年に開学した私大は、すべて医療看護系です。

 また、平成の時代に個性派大学の評価が高まりました。秋田県国際教養大学(公立)は授業がすべて英語であることで知られていますが、難易度は旧帝国大学並みです。福島県の会津大学(公立)は情報科学で存在感を示し、学内に復興支援センターを設けるなど、地域貢献の面でも注目を集めています。また、大分県の立命館アジア太平洋大学(私立)は海外留学生が多く、キャンパスで国際交流ができると評判です。

 一方、開学したものの志願者が集まらず、経営に行き詰まっている大学も少なくありません。定員割れになった大学は淘汰されるべきとの意見もあります。確かに、特に短大や女子大から四年制に昇格したものの特徴のない大学は、思い切った改革を断行する必要があるでしょう。そうしなければ、今後は廃学が続出する可能性があります。

大学をめぐる文科省と財務省の思惑

――国立大については、いかがでしょうか。

木村 高知県島根県のように、地方には国公立大のみで私大がない県があります。

そこで、地方創生・地域振興のプラットフォームのひとつとして、地方の国立大への期待が高まっています。しかし、実際には地方の国立大は国の運営費交付金の査定が厳しく、経営的には苦しい立場に立たされています。

 特に厳しいのが教育系の単科大学です。愛知教育大学、宮城教育大学、京都教育大学、奈良教育大学などがあり、小学校教員養成課程に強みがあります。ところが、これらの教育系大学の運営交付金の配分が厳しい状況です。一方で、小学教員課程はこれまで国立大がメインだったのですが、関西大学、関西学院大学、立命館大学早稲田大学などの私大が参入してきました。附属小学校の教員を自前で養成できるメリットがあり、経営基盤の安定にもつながります。また、中堅私大でも小学校教員養成課程新設が増えています。

 教員養成課程は設備的なコストはあまりかかりませんが、国語、社会(地理歴史・公民)、数学、理科、英語、音楽、美術など学ぶ専門分野が多く、教育心理などの専門分野もバラエティに富んでいます。そのため、有名私大でも総合的なコストがかかるのです。これを私立大にシフトさせるという狙いも文部科学省にあるのでしょう。

――国立大は経営統合の動きも活発化していますね。

木村 19年5月に、1法人が複数の大学を運営する「アンブレラ方式」を可能とする改正国立大学法人法が施行されました。すでに、名古屋大学岐阜大学は東海国立大学機構を設立して法人統合することで基本合意しています。奈良女子大学と奈良教育大学も法人統合で21年10月を目標に、新たに国立大学法人奈良カレッジを設立することで合意しました。さらに、帯広畜産大学と小樽商科大学と北見工業大学が統合、静岡大学と浜松医科大学が統合と、国立大学の再編が続いています。複数の大学がそれぞれの伝統と個性を生かして存立するには、アンブレラ方式が有利と判断したのでしょう。

 アンブレラ方式による統合は文科省の意向もあるのでしょうが、一方で財務省は評価の高い大学に経営資源を集中させたいと考えていると思います。財務省は「日本はヨーロッパと比較して国立大の予算や教員が多い」などと、地方の国立大を批判する内容の論文を発表しているほどです。おそらく、財務省は各都道府県すべてに国立大法人は不要だと考えているのでしょう。

 しかし、地方は国立大がなければ確実に衰退してしまいます。地方創生を真剣に考えるならば、大学経営資源は全国に分配すべきです。東京大学京都大学などは企業からの寄付金も多く財務的に豊かですが、地方の国立大ではそうはいきません。地方の国立大は、「競争と集中」の美名のもとに権限と予算が削られているのが実情です。むしろ、地方国立大学からノーベル賞級の研究を生むような政策が必要でしょう。

千葉大、15年ぶりに授業料値上げ

――国立大の改革例としては、どんなケースがありますか。

木村 九州大学は18年3月に、50年ぶりの新学部「共創学部」を創設しました。課題発見から解決に導くために必要な態度・能力を分類し、「共創的課題解決力」の獲得を目指すとのことです。島根大学は19年度から、夏休みの間に「フレックスターム」という4週間の集中期間を設けています。あくまで強制ではなく学生の自主性に任せるかたちですが、長期のインターンシップ、海外留学、ボランティアなどにじっくり取り組むための制度です。

 16年4月に国立大初の「国際教養学部」を創設した千葉大学は、20年4月から15年ぶりに授業料を値上げします。これは、全学生に留学体験を提供する制度の導入に伴うものです。

 地方の国立大は東大のような“総合百貨店”ではなく、高度な“専門店”となることで生き残りを図っているように思います。今後は、大学の経営改革と地域活性化の活動がリンクすることで、大学と地方がともに飛躍することを期待しています。

(構成=長井雄一朗/ライター)