少子高齢化、人口減が進むなか、将来的な医師不足が大きな問題になっている。厚生労働省がこのほど、将来の地域の医師数を新たに試算した結果をまとめて公表した。

医師の偏在を解消する目標年である2036年で見た場合、全国で約2万4000人の医師の不足が見込まれる。

 厚労省の試算データには、先進的な技術を必要とする特殊な医療に対応する三次医療圏(ほぼ都道府県単位)と、一般的な保健医療を提供する二次医療圏(県内をブロック分け)ごとの不足医師数が表記されている。それによると、36年に医師不足となっていないのは奈良県のみだった。

 二次医療圏の合計でみた都道府県別の医師不足上位10都道県は次の通り。

 愛知県2250人、埼玉県1563人、新潟県1540人、北海道1406人、茨城県1402人、千葉県1112人、群馬県1110人、静岡県995人、栃木県959人、東京都929人。

 厚労省は、現時点での都道府県や各地域の医師数の偏りの度合いを示す「医師偏在指標」(推計)も明らかにした。医師数や医師の労働時間、人口などを基に算出した「医師偏在指標」の全国平均は238.3。この指標の下位33.3%未満の三次医療圏(都道府県)を「医師少数三次医療圏」(医師少数県)とした。

 医師少数県は全部で16県ある。下位から順番に並べると以下のようになる。

 岩手県、新潟県、青森県福島県、埼玉県、茨城県、秋田県山形県、静岡県、長野県、千葉県、岐阜県、群馬県、三重県山口県、宮崎県。

 2つの指標を比較すると、現時点でも医師少数で、将来的にも医師不足が解消されない県は新潟県、埼玉県、茨城県、静岡県、千葉県、群馬県となる。
一方、東京都は医師偏在指標が329.1で全国トップだが、36年には929人の医師不足となってしまう。

●10万人当たりの医師数、看護師数、一般病院数の上位は西日本

 さまざまなデータを加味した医師偏在指標とは別の、都道府県別の単純な医療実態をみてみよう。

 まずは「人口10万人当たりの医療施設に従事する医師数」(厚労省の医師・歯科医師・薬剤師調査=2016年)。

 全国平均は240.1人。多い順に、徳島県315.9人、京都府314.9人、高知県306.0人、東京都304.2人、岡山県300.4人となっている。近畿以西で全国平均を下回っているのは宮崎県のみ。西日本各県は270人を超える県が多い。

 一方、少ないのは、埼玉県160.1人、茨城県180.4人、千葉県189.9人、新潟県191.9人、岩手県193.8人の順。下位5県はすべて「医師少数県」に入っている。東北、関東圏に200人を切る県が目立つ。

 看護師数はどうか。

「人口10万人当たりの医療施設に従事する看護師・准看護師数」(厚労省の衛生行政報告例=2016年)によると、全国平均は953.3人。
上位は高知県1574.8人、鹿児島県1535.4人、佐賀県1506.0人、長崎県1480.8人、熊本県1457.9人。九州と四国で上位を独占している。四国、九州は、沖縄県を除くすべての県が1100人を上回っている。

 下位は埼玉県665.4人、神奈川県666.8人、千葉県701.6人、茨城県740.9人、東京都748.0人となっている。

 もうひとつ、一般病院数をみてみよう。

「人口10万人当たり一般病院数」(厚労省の医療施設調査=2016年)によると、全国平均は5.8。多い順に、高知県16.5、鹿児島県13.1、徳島県12.9、大分県11.4、佐賀県・宮崎県11.2。病院数も四国、九州が上位を独占だ。

 病院数が少ないのは、神奈川県3.2、滋賀県3.5、愛知県3.8、埼玉県・千葉県4.0と続く。東京都も4.4で平均以下だ。人口の多い大都市圏や周辺部は、10万人当たりの病院数は少なくなる。

 10万人あたりの数値となると、どうしても高知県のように人口の少ない県が優位になりがちである。
そこで、より実態に即すために医師の労働時間などを加味した「医師偏在指標」をつくったのだろう。

●5年後の医師不足、診療科別では内科が1万4468人でトップ

 厚労省は医師不足の推計値について、診療科別のデータも公表した。24年、30年、36年の3段階の数値があるが、ここではもっとも近い5年後、24年の不足数をみてみよう。主な診療科別の数値は次の通り。

診療科、24年の必要医師数(A)、(A)と16年の医師数との差
内科、12万7446人、1万4468人
小児科、1万7813人、1227人
皮膚科、7999人、-686人
精神科、1万4919人、-772人
外科、3万4916人、5831人
整形外科、2万4374人、2345人
産婦人科、1万3624人、992人
眼科、1万2336人、-388人
耳鼻咽喉科、8621人、-554人
泌尿器科、8599人、1173人
脳神経外科、9789人、2077人

 もっとも医師不足となるのが内科で、次いで外科、整形外科の順となっている。逆に、精神科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科の4科は現時点で5年後の必要医師数を超えている。なお、このデータに歯科医は入っていない。

 都道府県別、診療科別の医師不足の実態をみてきたが、目標年度の36年においても医師不足解消のめどは立っていないのが現状だ。不足の解消に何が必要なのだろうか。

 地方における医師不足、医師偏在の原因として、「研修医の都市部への集中」「都市部での開業医の増加」「診療科別の偏在」などが指摘されている。私立医大を中心とした入試不正問題で、入試が医局就職のステップになっているといった指摘もあった。大学病院による青田買いのようなことを放置していたら、問題解決にはほど遠い。
過疎地域勤務医へのインセンティブ、医師が充足している地域から医師不足地域への派遣制度などの対策を早急に打ち立てていくべきだろう。

 一方で、患者側にも問題はないのか。不要な診療、救急要請などで医療現場の負担を重くしている面も見受けられる。医師の過重労働につながる問題だ。

 今回の「医師偏在指標」で、状況の可視化はできた。必要なのは、医師不足や偏在を解消するための効果的な具体策である。国は一日も早く、国民にわかりやすいかたちで提示すべきだ。
(文=山田 稔/ジャーナリスト)

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