2018事業年度締め年間販売台数で、軽自動車と登録車を合わせた、つまり日本で一番売れたクルマはホンダ「N-BOX」(23万9706台)となった。一方で、登録車のみでの18事業年度締め年間販売台数第1位は、日産自動車「ノート」(13万1760台)となった。

さらに、日産は「セレナ」がミニバンカテゴリーで販売ナンバー1(10万17台)となっている。

 日産は軽自動車の「デイズ」シリーズも販売好調で、18事業年度締め軽自動車年間販売台数では第4位となっている。ここまで見れば、日産車の国内販売は好調にも見えるのだが、18事業年度締めでの軽自動車も含めた日産全体の販売台数は58万4536台なのに対し、ノート、セレナ、デイズシリーズを合わせた18事業年度締め年間販売台数は37万1830台となり、ノート、セレナ、デイズシリーズの販売台数が占める割合は約63%となっている。

 日産のウェブページにある車両ラインナップを基に車名ベースで数えると22車ほどが日本国内でラインナップされているのに、ノート、セレナ、デイズシリーズだけで日産全体の販売台数の6割強を占めるというのは、誰が見てもアンバランスといえるだろう。

 日本自動車販売協会連合会(自販連)統計による登録車のみの18事業年度締め通称・名別(車名別)販売ランキングでは、上位20車中ランクインしている日産車はノートとセレナのみとなっている。日産の国内販売は販売車種の偏りだけでなく、「キューブ」や「フーガ」といった“ご長寿モデル”(モデルチェンジが長いこと行われないモデル)も目立っており、「日産は日本市場を軽視している」という声も少なくない。


 19年4月に開催された上海モーターショーにおいて、日産は次期型「シルフィ」のワールドプレミアを行った。Cセグメントセダンとなるシルフィは世界一の自動車市場の中国だけでなく、第2位の北米市場でも「セントラ」の車名でラインナップされ、中国・北米ともに売れ筋モデルとなっている。

 もちろん日本国内でも現行モデルはラインナップされているが、中国や北米など海外マーケットではモデル途中で“Vモーショングリル”を採用するなど規模の大きい改良を行った一方で、日本国内のシルフィはいまだに大きな変更が行われていない。

「ティアナ」も同様で、北米や中国市場では兄弟車関係となる次期「アルティマ」がデビューしている(中国市場ではティアナからアルティマになっている)のにもかかわらず、日本国内ではいまだに先代ティアナのままであるだけでなく、中国や北米市場で行った大規模な改良(Vモーショングリルの採用など)すら行われていないのである。

 筆者は年間を通じて中国やASEAN諸国、北米などへ出かけているのだが、世界市場での日産車のラインナップはバラエティに富んでいてバランスよく販売されており、明らかに販売が偏っている日本市場の様子は、単に日本市場自体が“ガラパゴス化”しているからだけではないように感じている。

 このような状況を見て、業界関係者のなかには「日産は日本市場ではミニバンや軽自動車など、売りやすいモデルさえ売れていればいいという認識なのではないか」といった見方をする人も多いし、筆者が以前に日産に近い関係者に直接聞いたところ、「日産社内でもそのような認識になっているようだ」という答えが返ってきた。


 それでも、ノートやセレナ、デイズシリーズが純粋にエンドユーザーの支持を得て、登録車で強敵・トヨタ自動車のライバル車を抑えてトップとなっていればいいのだが、どうも“純粋”にトップとなっているわけではないようなのである。

●“自社登録”が目立つノート

 軽自動車同士の販売台数競争では、ディーラー名義などでの自社届け出による販売台数の“水増し”はもはや常態化しており、自社届け出された軽自動車はそのまま未使用中古車として中古車市場に流通している。

 18年度末決算セール(19年2月および3月)も軽自動車の自社届け出(軽自動車は登録ではなく届け出となる)は派手に行われたようで、筆者が定点観測している、未使用中古車を扱う中古車展示場では、軽自動車の未使用中古車の在庫があふれすぎ、自社の敷地内だけでは管理しきれずに近所のパチンコ店の駐車場にまで置かれていた。

 登録車の自社登録は軽自動車ほど目立っていないのだが、そのなかで目立っているのが、登録車販売トップのノートとなっている。自社登録車両だけでなく、レンタカーやカーシェアリングなどで短期間使用した車両の中古車も並んでいる。もちろん、登録車ではノートだけというわけではないのだが、とにかくノートが目立っているのだ。


 ちなみに、登録車の18事業年度締め年間販売台数第2位はトヨタ「アクア」で、トップのノートとの差は3861台(月平均約321台)となっており、自社登録によるノートのダメ押しがアクアとの差につながったと見ることもできる。

 セレナも、このクラスでは異例ともいえるほど登録済み未使用中古車やレンタカーとしての短期使用車などが中古車展示場で目立っている。ミニバン販売第2位のトヨタ「ヴォクシー」との差は1万73台(月平均約839台)となっているので、ノートとアクアと同様の状況ではないかとも考えられる。

 ミニバンでいえば、セレナとヴォクシーではセレナが勝っているが、ヴォクシーには「ノア」と「エスクァイア」という兄弟車がいるので、3車合計では18万7369台となり、実質的にはトヨタの圧勝となっている。

 なぜそれでも、自社登録を積極化してまでも販売ランキングトップになりたいのかといえば、それが販売現場において効果的なセールスツールとなり、ノートであれば「登録車で一番売れているクルマですよ」とお客に説明することができるからである。日本の消費者のクルマへの興味が薄れているなかでは、難しいメカニズムの話での優位性などより、わかりやすいセールストークとして、販売促進にはもっとも効果的なのである。


 今のところ、登録車では日産並みに自社登録を積極的に行うメーカーがいないので、軽自動車ほど自社登録(軽自動車は届け出)がメーカー間で恒常的に行われてはいない。自社登録で問題なのは、無駄にともいえるほど中古車市場に流通することで、そのクルマのリセールバリューを下げることにつながることだ。そのため、個人所有している顧客の所有車の価値すら下げてしまうことにもなりかねないのである。

 今年は秋に東京モーターショーが開催されるが、モーターショー開催年であるにもかかわらず、日産は3月末に軽自動車デイズの新型をリリースして以降は、国内市場では新型車のリリース予定はないようである。トヨタ、ホンダと並び“日系ビッグ3”とも呼ばれているのだから、もう少しバランスの良い販売体制に努めてもらわなければ、日本市場のガラパゴス化を加速させてしまう。

●日本はもはや“エコカー先進国”を名乗れない?

 今回、上海ショーの会場を見て歩くと、日本車の世界市場でのトレンドへの乗り遅れ状態がますます顕在化してきており、中国の消費者のなかからは「日本車はトレンドに乗り遅れている」とか「古臭い」といった見方をする人が増えているとも聞く。


 かつて日本は“エコカー先進国”とも呼ばれていたが、路線バスはディーゼル、タクシーはLPガス車ばかり。BEV(バッテリーエレクトリックビークル)の普及では完全に出遅れ、HEV(ハイブリッド車)は多いが、そのHEVも欧州や中国では48ボルト対応のMHEV(マイルドハイブリッド)がトレンドとなっており、PHEVも数えるほどしかラインナップされていない。この状況では、もはやエコカー先進国なんて恥ずかしくて言えない状況になっているといえよう。

 日本車全体の世界市場での地盤沈下傾向の一因として、母国市場である日本市場がガラパゴス化してしまい、そのせいもあり、日本にある各メーカーのヘッドクォーターの判断力が鈍っているのではないか、という指摘も聞いたことがある。

 やはり、日系ビッグ3の一翼を担う日産には、売れるモデルだけ必死に売るのではなく、もう少し腰を据えて日本市場を見つめ直してほしいと筆者は考えている。
(文=小林敦志/フリー編集記者)