井上と中谷の激闘は日本のファンを熱狂させ、世界を魅了した(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 日本ボクシング史、いや近年の国内スポーツで見ても稀有なイベントになった。

 5月2日、世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(大橋)が世界3階級制覇王者の中谷潤人(M.T)を破った激闘がメインカードに据えられたボクシング興行は5万5000人の生観戦チケットが即完。

会場となった東京ドームはアンダーカードから超満員となり、全7カードの行方に観客が一喜一憂する熱狂が生まれた。

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 異様な熱気がドーム内を渦巻いた。全カードが判定決着とド派手な展開が目白押しというわけではなかったが、ファイターたちの放つ一打、一打に観客は熱視線を向け、時に「うおぉーー」と地鳴りのような声援がこだました。

 全試合がアジア圏の選手たちで構成され、メインカードは日本人同士の対戦だ。ボクシングの本場であるアメリカの大物がいるわけではない。にもかかわらず、ここまでの興奮や感動を引き出した“価値”は計り知れない。

 実際、米識者たちも東京で起きた“熱狂”に目を見張る。米老舗誌『The Ring Magazine』のパウンド・フォー・パウンドの選考人であり、著名なボクシングライターでもあるマイケル・モンテーロ氏は自身のXで「間違いなく日本には、活気に満ち、成長を続けているボクシングシーンがある」と断言。さらに「日本のスター選手たちが『成功するためにアメリカに行く必要がある』なんてことは絶対にない。そんなのはまったくのナンセンスだ」と論じた。

 以前からボクシング界には「アメリカ中心主義」のような風潮がある。歴史的に最大級の市場を誇ってきたアメリカに来てこそ、“本物”とされる。

そうした空気は、他でもない井上にも向けられ、元世界ウェルター級王者2団体王者のショーン・ポーター(米国)氏が「(井上が)世界最高のスターになりたいならこっち(米国)での試合が必要だ」と発し、波紋を広げることもあった。

 しかし、今回の東京ドームで実現した一大興行によって、そうした見方も覆った感もある。PPVによる独占配信など今後に向けた課題は確かにある。だが、世界がドラマに魅了された今、「アメリカに来なければ成功とは言えない」という意見は、もはや説得力を失っているのではないだろうか。

[取材・文/構成:ココカラネクスト編集部]

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