中谷との攻防の中で想像を絶するタイミングと角度から強打を見舞った井上(C)Lemino/SECOND CAREER/NAOKI FUKUDA

 熱狂の東京ドームで繰り広げられた至高の攻防。その結末を決定的にしたのは、井上尚弥(大橋)が繰り出した、異次元のアッパーだった。

 5月2日に東京ドームで開催されたボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチで、王者に君臨する井上は、元世界3階級制覇王者の中谷潤人(M.T)に3-0の判定勝ちを収めた。他でもない勝者が「脳が疲れた」と漏らすほどの智略戦となった12ラウンドだった。

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 ただ、試合の趨勢を大きく傾けさせたのは、11ラウンドの攻防だった。左右のワンツーを打ち終わった刹那、井上は中谷のガード体勢が瞬間的に崩れたのを見るや、スッと前進して左のアッパーを炸裂。これが中谷の左目を破壊。挑戦者は大事には至らなかったが、左目をあけていられなくなり、そこから最後のゴングが鳴るまで守勢に回された。

 やや距離はあった。それでも軸足一本で全身を支えながらピョンと飛び込み、中谷の顔面に打ち込んだ。そのロングアッパーの強烈さは、井上のパンチ力はもちろんのこと、強靭な下半身を物語っていた。まさに異次元の領域だった。

 神業的な一撃には、現地時間の早朝に試合の行く末を見守った“ボクシングの本場”であるアメリカでも小さくない反響を生んだ。米老舗誌『The Ring Magazine』のパウンド・フォー・パウンドランキング評価委員などを務めるアダム・アブラモビッツ氏は「最後のアッパーカットは、ちょっともう狂ってるよ」と絶賛。

読めない角度からパンチを繰り出せる井上の異能ぶりに舌を巻いた。

 また、米スポーツ専門局『ESPN』で記者を務めていたスティーブ・キム氏は、米ボクシング専門ポッドキャスト番組「3Knockdown Rule」において「イノウエはまさに殺人的だ」と指摘。衝撃的なアッパーすらも可能にする井上のスピードに目を見張った。

「真っ直ぐ踏み込んでから、即座に相手から離れるという速さにおいては、イノウエは誰にも負けないと思う。ナカタニはアウトボクシングでロープ際に追い込んで、あの長い右ジャブでうまく封じ込められないなら、イノウエの動きに合わせるしかないんだ」

 細かな動きだし、パンチの質、そして局面を読む力。すべてにおいて“過去イチ”だった井上に対する称賛は、しばらく続きそうだ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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