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死んでも彼女を絶対離さない。特濃90分「サカサマのパテマ」

映画『サカサマのパテマ』のイメージビジュアル見て、最初に思ったのは「女の子をぎゅってできるっていいなー」でした。
いやだってそうでしょう。このもこもこの防護服のかわいい女の子、ぎゅってしたいわー。

しかし、映画を見終わって、思いました。
絶対、離さない。
死んでも、彼女のことを離したくない。
この感覚、あれだ。ゲームの『ICO』だ。

『ICO』は、女の子と手をつないだまま脱出するゲーム。女の子が怖がってドキドキする度にアナログパットが心臓の鼓動のように振動します。
不安さがダイレクトに伝わるので「ぼくは君の手を、絶対離さない」と、少年心に火がつくゲームでした。
ほんと似てるなーと思ったら、音楽をやっているのがまさに『ICO』の大島ミチル。わー! やっぱり。
『ICO』や『MYST』や『Portal』などのような、移動することへの不安感と冒険心をくすぐる映画、それが『サカサマのパテマ』です。

●「サカサマ」という発想
この映画、作りは出落ちなんです。
主人公の女の子、パテマの重力が逆だったらどうなるんだろうね、というところから作られた映画。
天井を見る。重力が逆になってそこに自分が張り付いたら、と考えるとちょっと面白い。
ドラえもんの道具でそういうの、ありそうでしょう。

地底に住んでいる人々は、パテマも含めて全員重力が逆です。穴の中だから、まあ「落ちる」ことはほぼないです。
ところが、パテマは好奇心旺盛でわりと元気いっぱいの子なので、地底の外の世界に興味津々。外界に開いている縦穴に落下してしまいます。

で、地上(外界)に出たらどうなるか。
地上は足場がない、空しか無い。ってことは捕まってない限り、どこまでも空に落ちていってしまう。
断崖絶壁なんてもんじゃないです。『ラピュタ』だって下は海なのに、それすらない。
この状況で、地上に住んでいる少年エイジに出会い、落下しないよう彼にしがみついて小さな小屋まで移動し、天井に張り付いて過ごすことになるのです。

最序盤はパテマ視点なので、重力はパテマ側。つまり地上のものは上にあがっていく。
その後出会ってからは、エイジ視点。重力はエイジ側。パテマはサカサマになって天井に張り付きます。

この作品はダブル主人公という扱い。なので、視点がころころ変わります。
よく出来ているのは、持ち物に働く重力もサカサマだということ。
パテマたち地底人が持っているものは、パテマ側の重力に従っています。一見普通のカバンだけど、パテマの持ち物なら、上にすっ飛んでいく。
天井のないところは基本、エイジがパテマを抱きかかえて飛ばないように(落っこちないように)しているんですが、カバンやら重たいものを持っているとその分重力が上に向くので、持ち上げられてしまう。
常に「この時重力はどちら側に向いているんだろう?」を、常に計算して描いている。

後半になると二人の視点が変わりまくり、上下反転しまくります。
もう途中から、わけわかんなくなります。あれっ、これはどっちだ、どっちに向いてるんだ?
入れ替わる重力の浮遊感は、今まで体験したことが無いものでした。
これゲームにしたら面白いんじゃないかな。

●シンプルだから熱くなれる
とてもパズル要素の強い映像です。
それを通じて、少年と少女が、夢を見ながら一歩飛び出す感覚がきちんと描かれている。
ただの重力パズルでなく、二人の冒険をワクワクさせるギミックとして、サカサマの重力が機能している。

二人共、というか両方の世界が非常に抑圧されているんです。
パテマ達地底人は、地底から外に出ないように、と言われ続けている。危ないから。
一方エイジ達地上人は、外の世界に目を向けてはならない、規律正しく生きろと言われている。
エイジの父親は冒険家の科学者で、空を飛ぼうとしました。
しかし、謎の事故で死んでしまいます。エイジはずっとそれを不満に思っていた。
空はこんなに綺麗じゃないか。なぜ大人は空を見るなと言うんだろう。

そこに現れたパテマ。彼女を抱きしめながらジャンプすれば、重量差で飛ぶことができる。
パテマの「外の世界を知りたい」という思いと、エイジの「空を飛びたい」という思いが重なり、二人は外に向かって飛び出していきます。

二人のところにやってくるのは、地上での秩序を守れ、と狂った支配を続けるイザムラ。
気持ちいいくらい、悪役らしい悪役です。変態チックなまでに秩序に執着している。こいつ何言ってんだよとつっこみたくなる。顔芸キャラです。
憎めない部分もあるんですが、映画的には「こいつわるいやつ!」。わかりやすい。

そうそうそれだよ、このシンプルさを求めていたんだよ。
悪いやつがいる。真実を見るための冒険にでる。エイジとパテマは、しっかり抱き合っていないとどちらも落下してしまう。
お互いが、絶対離さない。何が何でも離さない。
映画がこれで一貫している。前半は二人が付かず離れずの距離感。後半は、どっちが気を抜いても、相手が落下死(?)するのがダイレクトに描かれます。
何が何でも掴めよ、絶対離すなよ。
高所恐怖症じゃないのに高所恐怖症になれる映画です。
「不安で落ち着かない」と「ワクワクする」って紙一重なんだなー。

●細かく凝った設定世界
映画自体は至ってストレートなエンターテイメント。
SF的に色々な考証もできます。でもそれは見終わってからでいいよ! 
まずは重力映像と二人の冒険を楽しんでください。

ただ、見ていると、細かい部分にどうしても目が留まる作りにもなっています。
例えば、パテマが幼いころに憧れていた、地上に向かう冒険家の青年ラゴスがくれた、液体時計。
よく売ってる、砂時計の液体版のアレです。パテマ世界のものなので、重力はパテマ側です。
ところが、中に入っている液体が、常にパテマ世界の重力に反している。
これだけでものすごいドラマがあるわけですよ。中に入っている液体はなんなのか。
正確には描かれていないんですが、映画見たらこの一つにドラマがあるのが、なんとなくわかります。

このラゴスがまたいい立ち位置なんだ。
パテマとエイジが出会ったら、恋仲になるよねーというのはやっぱ想像してしまうじゃないですか。
でもラゴスに対して、パテマが恋愛感情に近いものを幼いころからずっと抱き続けているわけですよ。
わーっもやもやする!

主人公のパテマが「ヒロイン」しすぎていないのもいい。
あくまでもエイジとパテマのダブル主人公。一方の視点に偏りません。
だから、活発な序盤のパテマの、ごっつい探査服が実に似合う。
ところが探査服脱ぐと、着てる服がヒラヒラガーリーなノースリーブ。
それずるい。男の子ならそれは「守ってやる!」ってなっちゃうよ、スイッチ入る。
でもパテマも強いので、逆に「エイジを守る」という思いがある。
視点が変わる度に、パテマが「守られるお姫様」にもなるし、「エイジを助けるヒーロー」にもなる。

あんまりにもエイジとパテマの視点が入れ替わり、重力がひっくり返りまくるので、作画が大変だったようです。

又賀大介「普通に立っている人とサカサマの人が一緒にいるカットは、ひっくり返します(笑)何度もひっくり返しながら描くのは、面倒といえば面倒でした。下タップ(※作画の際に紙を束ねるタップの位置が下に来る。通常は上で押さえることが多い)は、普段あまり使わないので」
(「サカサマのパテマ 公式設定資料集」より)

何度もひっくり返しながらの作画。どっちがどっちの腕やパーツなのかわからなくなりながらの彩色。
わかる。これはホント大変。見ていてもどっちがどっちか、混乱します。
その他にも、えらい凝っている「サカサマ」演出があるのですが、それは見ての、聴いてのお楽しみ。
パンフレットの作りもサカサマ演出されているので、オススメです。致命的なネタバレがあるので読むのは映画を見てからで。

映画は90分ですが、世界観的には1クールアニメできるくらいの濃度があります。
でも90分だからこそ、スカッと終わっているし、色々妄想もできるよなーとも思います。
見終わった後、天井見ると変な気分になるアニメ。公開劇場が今少ないのだけが難点。
映画館から出る時、空を見るのが一瞬不安になるくらい感覚が狂うのは、是非体験してほしいのです。

もしぼくの前にパテマが現れて抱きしめていても、最近体重増えてきたから、浮かないんだろうなあ……。

『サカサマのパテマ 公式設定資料集』
toi8 『サカサマのパテマ another side』
涌井学 『サカサマのパテマ』

予告動画



(たまごまご)

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