ボートレースの楽しみのひとつに、「名物実況」があることをご存じだろうか。なかでも、「ダントツの面白実況」と呼び声高いのが、「蒲郡の名物実況アナウンサー」こと、高橋貴隆さんだ。
「チュイィィィィィン」「キュイィィィィンンン」「ぐうぃぃぃぃんと」などの豊富な擬態語に加え、「し~ぼ~るしぼ~るしぼ~る」「ま~たま~たまたまた握り込んだ~~~」などのこぶしや巻き舌、メリハリある独特なリズム、さらには選手のプライベート情報なども歌うように盛り込んでくる様は、さながら演歌の前口上のようでもある。

この高橋さん、実は以前、ボートレース選手を目指していたそうだが、なぜボートレース実況アナウンサーになられたのだろうか。ご本人を直撃した。

――ボートレース選手を目指していたそうですが、なぜボートレース実況アナウンサーになられたのでしょう?
「21歳未満までしか選手になれなかった時代、選手のかっこよさに憧れ、選手試験を受けながら、レースの研究も兼ねて舟券も買っていました。でも、選手にはなれず年齢だけが過ぎていき、ボートレースもキッパリやめようと思っていたとき、ふと目に留まったのが『実況アナウンサー募集』の新聞記事だったんです」
競走会の前会長が、愛知県競走会にいたとき、「もっと迫力あるサービス実況を取り入れたい」と、当時ボートレース実況のパイオニア内田和男氏に依頼。そこで試験、面接を受け、「大好きなボートレースに携る仕事に就けた」と話す。

――巻き舌&こぶしをきかせた現在の実況スタイルとなったのはいつからですか? きっかけはなんだったのでしょう?
「今の実況スタイルは、いろんな研究の結果です。場外発売で流れる他の場の実況なども、蒲郡の館内で本当にいっぱい聞きました。屋外や室内、様々な空間で聞きました。その結果、家のテレビで耳にする実況がいくら良くても、場内実況としては映えないものも存在することに気づきました。ファンの声援や雑踏の中では、綺麗で芯のない実況はかき消されてしまうのです。要するに独特の癖やリズムが必要だったのです」
レースの迫力を出すには、ただ叫べばいいわけではなく、スピードの変化やボリュームの強弱、そのギャップを利用することが大事だと高橋さんは言う。
加えてそこに、「聞く『間』」を作ってあげることも考えて喋っているそうだ。
「しかし、最もこだわっているところは、コーナー戦での描写のタイムリー性なんですけどね……。あとは、場内の空気を和ませる意味でも、ちょっとしたギャグ(笑)も盛り込んだりします。レースをより盛り上げられる最高のスパイスには、まだまだ研究が足りないなということも多々あります。いつまで経っても勉強です」

――ところで、高橋さんにとって「良い実況」とは、どんなものなのでしょうか?
「自分でも良い実況ができたというのはほとんどないですし、より良いものを求めて実況を聞き返しても、欠点を探し出すようにしています。自分が失敗した実況でも、どこかにインパクトがあればファンの心に残る。これはファンとの会話で気づかされました。『近頃、実況大人しくなりましたね』とファンに言われますが、なんら自分で変えているつもりはありません。見たままを喋っているつもりです。レースがクリーンでスマートになっただけなのではないかと自分では分析しています」

ボートレース業界の仕事に人生を掛けてきたと言う、ボートレースを誰よりも愛する高橋さん。その魅力を聞いてみました。
――ボートレースのいちばんの魅力を教えてください
「たとえば競馬は、馬のローテーションが4年くらいでガラッと変わってしまうために、常に追い続けなくてはいけません。
それに比べて選手生命が長いボートレースは、一度覚えてしまえばずっと楽しめます。知れば知るほど奥が深いのがボートレースです。まずは本場に来て、五感でレースを味わってもらいたいです」

ちなみに、ボートレース蒲郡は全国ナンバーワンともいえる逆転劇が楽しめる水面だそう。
「4月に新スタンドもオープンして、とても綺麗です。その綺麗になる前から家族やカップルも多く、ファンもどこか温かいのです。そんな環境だからこそ、私も伸び伸び思いきった実況ができたところもあります。本当にファンの皆様には感謝の気持ちでいっぱいです」
ボートレースが全くわからない人も、耳で、空気で楽しめるボートレース場へ出かけてみませんか。
(田幸和歌子)
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