【連続企画】岡田惠和×堤幸彦「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」とは何か?
2015年1月、新春早々、幕を明ける「スタンド・バイ・ユー」は、「最後から二番目の恋」などで人気の脚本家・岡田惠和と「SPEC」「トリック」などで人気の演出家・堤幸彦の豪華な組み合わせの演劇。
「家庭内再婚」という結婚生活への新しい提言をする意欲作の全貌に、岡田のインタビューについで、出演者のひとり・戸次重幸の稽古の実感から迫ります!

2組の夫婦に迫る離婚の危機と再生を描く「スタンド・バイ・ユー」で、戸次重幸が演じるのは、見栄っ張りの夫・藤沢英明。
ちょっと変わり者の妻・ハルカ(ミムラ)に不満を抱えていたところ、元カノ・愛子(真飛聖)と再会して、焼け木杭に火がついてしまう。
脚本の岡田惠和いわく「4人中もっとも好感度が低いかもしれないんだけど(笑)」という役割を担う戸次。楽しく、新鮮で、変化に富んだ稽古場の様子を話してくれた。
未婚の身として結婚の教訓を得ました「スタンド・バイ・ユー」戸次重幸に聞く1
元カレ、元カノを演じる戸次重幸と真飛聖。ふたりは堤幸彦演出のコミカルな動きを絶妙に体現。

──稽古の様子はいかがですか?
戸次「まだ稽古がはじまってから1週間くらいですが(取材は12月の下旬に行われた)、既にみんな台本を手にとっていないんです。すごいんですよ、みなさんの台詞の入りの早さが。とくに女優陣が優秀なものですから、男優陣が、早く台詞を入れなければ、やばいという気持ちになっています」
──戸次さんは台詞の入りが早いほうではなかったですか?
戸次「早いほうだったので、稽古が始まってすぐ、真飛聖さんにそう言ったら、ぼく以上に台詞を早く入れてきてしまってですね。
僕がまだ全然覚えてない時に、真飛さんは台本を離していたという。僕は、言ってる事とやってる事が全然違う状態になってしまいました(苦笑)」
──台詞覚えるのが早いという情報を、最初に伝えたわけは?
戸次「これまで、僕が台詞を覚えるのが早くて、まわりがちょっと焦ってしまうようなシチュエーションが、ドラマの現場などであったので、最初に言っておいたほうが楽かなと思ったんですね。ところが、真飛さんだけでなく、ミムラさんも、初舞台だから気合いが入っていたのか、稽古初日に全部入っているような状態で、逆に僕が焦ることになりました(笑)」
──会話劇ですから、台詞を覚えないと稽古が進まなそうですものね。
戸次「役者が台詞を早く入れていれば、その分、演出家はみっちり演出をつけることができて、本番で練りに練ったものができあがるといういい効果がありますよね」
──台詞を覚えるために台本を読み込まれて、この作品をいかが思われましたか?
戸次「すごくリアルに夫婦生活を切り取っていると思いました。お客様の中で未婚の方には今後、結婚生活をする上で教訓になることの連続だし、既婚の方には、うちはそこまでひどくないとか、うちはもっとひどいとか、いずれにしても共感を得られる作品になっています」
──戸次さんも教訓になりました?
「非常に教訓になりましたね。知らないことを教えていただいた気持ちでいっぱいです(笑)」
──稽古を拝見して、台詞を皆さんがほぼ完璧に入れているからか、動きや、ちょっとした小ネタなどを堤幸彦監督が合間合間に加えていて、それを皆さんが鮮やかに自分のものにしていますね。

戸次「毎日毎日、小ネタが増えていきます。これが堤さんの演出スタイルなんでしょうね。1日に平均5カ所は増えていますが、堤さんが俳優たちのことを信用してくれているからこそだと思います。あと、堤さんのすごいところは、登場人物全員に平等に見せ場を作ること。ほんと見事な演出ですね。メインの役が厚く描かれているのは当然として、メインの役以外も、出演時間の差こそあれ、誰もが、一度出て来たら、お客さんにみんな平等の印象をもって見てもらえるような作品になっています。
うちの劇団も見習っていきたいですね(笑)」
──TEAM NACSの舞台も全員、見せ場あるじゃないですか。
戸次「いやいやまあ(笑)」
──戸次さんは、ご自身のひとり芝居で脚本を書いていらっしゃいますが、演出にもご興味がありますか?
戸次「基本的にはやらないようにしているんです。札幌時代にはやっていたのですが、性に合わないなと思って」
──どこが性に合わないんですか?
戸次「うーん・・・・・・これちょっと分かり辛いかもしれないですけど、書いた人間が演出すると、書いたときに自分が思い描いた完成度以上に面白くはならないんですよ。なぜかっていうと、書きながら演出をしていて、そのレベルを100とするじゃないですか。実際に役者さんにやってもらったとき、減点法しかないんです、自分が思い描くことの。役者が1行読んだだけでもう違うわけですよ、書いた人のイメージと。
ところがこれが、書いた人以外の人が演出すると、書いたときの面白さが100としたら、書いた人が思い描かないようなプラスアルファをしてくれるんですね。もちろんマイナスの面もあるけど、それが累計するとプラスになっているんです。だから僕は、自分の書いた100のものを100以上にしたいので、自分はなるべく演出しないようにしています」
──もの作りに対して真摯というかどん欲というか。
戸次「いえいえいえ、単純に経験からくる考え方ですね」
──そういう体験があるからこそ、演出家が何を求めているかがすぐわかるんでしょうね。
「いや、なかなか苦労してやっていますけどね。そんなすぐさまには・・・。
これでいいのかなと半信半疑でいつもやっています」
──今回の稽古で難易度が高かったものありますか?
戸次「今のところとりあえずないですね。とはいえ、実際に自分ができているかできていないかって言ったら、それは全く別問題で、実は全然できてないのかもしれないけど、ぼくがそう思っていないだけかもしれないし」
──できないと思わない。できませんとは言わない。そういう考え方?
戸次「もちろんです」
──なにごとも難しいと思ったらダメなんですかね。
戸次「難しいと思ってもいいんですけど、ちゃんとやればいいんです。役者って、『できますか?』と訊かれたら、『もちろんできます』と答える生き物ですから」
──役者はみんな、そうですか?
戸次「もちろんです。
自分に自信があってもなくてもそうなんです。だからそれが実際にできてないとしても、自分は認めないっていうか、常に『できますよ』というスタンスをとっている。聞いたことないでしょう、『それできません』っていう役者。ドラマの現場でも舞台の現場でも」
──確かに会ったことはありませんね。作品を振り返って『難しかったです』とおっしゃる方もいますが、基本的には、できなかった話を語る方は少ないです。
戸次「嘘でも言います、『できます』って。ほんとはできないなと思ったらできるように努力します」
──こっそりと。
戸次「こっそりと(笑)」
──今回の舞台の趣向は、出ていない場面でも、ステージの端に座ってずっと見ているそうですね。
戸次「ずっと見ているところをお客さんに見られているんです。そして、舞台上で、見ている側の出てくる回想シーンが出てくると、実際に、僕らが台詞を言うようになっています。台本上では出演していない場面にも、出演している気分で、本当に気が抜けません」
──そういう時、どうやってその場にいるんですか。役でいるんですか? それとも戸次さんでいるんですか?
戸次「戸次でいいと堤さんは言っていました。楽屋にいるところを見られていると思っていてほしいと」
──舞台袖が楽屋のようなものに。
戸次「袖で待機しているところがお客さんに見えちゃっているみたいな感じですね。結局、芝居がはじまってから終わるまで、1回もハケないようなものです。あ、1回ハケます。衣裳替えで1回だけ。でも、基本全部見られていて、ずっと舞台の上にいるような緊張感のあるお芝居になっています」
──そういうお芝居の体験はございますか?
戸次「はじめてで、面白いです」
──稽古でも緊張します?
戸次「今日、通し稽古で、実際に、ずっと見られているっていう体でやってみようとしたら、例えば、手の置き場や姿勢まで、気になっちゃって。なかなか緊張感のある舞台になると思います、役者にとって」
──素の自分でいいと言われても、見られていると思うとーー。
戸次「だからと言って、例えば35分くらい、ずっと背筋を伸ばして座っていたらキツいですよね」
──見てるほうも、あの人ずっと背筋伸ばしてる・・・ってへんな緊張を覚えるかもしれないです。
戸次「はたして水を飲んでいいのかとか(笑)、いろんなことを考えて、どんなになるんだろうと不安になってる最中です。ほんとだったら、こうやって(背中を少し緩めて)、楽屋でモニターを見ているような感じでみていたいんですよ。もしくは、背もたれにがっつり寄りかかって見ていたいんですけど、お客さんに見られると思ったら、必然こう(背筋を伸ばす)なりますよね」
──自意識が出てしまいますよね。
戸次「すごく疲れると思います、今回の芝居(笑)」
──2時間くらいあるんですか。
戸次「そうですね」
──演じている時は、見られていることを意識するんですか?
戸次「しないですね」
──客としては、ずっと出演者の方が見られる楽しみがあるんでしょうね。
戸次「斬新な演出だと思いますね。堤さんが、ふたりの回想の台詞を袖の役者が言ってるところを見た時、すごい手応えを感じているみたいでした。立体的になったって。ふたりの会話が続くところに、いきなり横から、役者が台詞を言うことで、視点が移って、お客さんに与える印象が変わってきますよね」
未婚の身として結婚の教訓を得ました「スタンド・バイ・ユー」戸次重幸に聞く1
後ろのほうで椅子に座って見ている馬場良馬。稽古場だから、こういう位置にいるわけではなく、本番もこんなふうに出番以外でも見ている姿を観客に晒すのだ。

なんだか面白い趣向になっているらしい「スタンド・バイ・ユー」。ほかにもまだまだ堤演出はあるそうで。その話は、後編に続きます。
(木俣冬)

未婚の身として結婚の教訓を得ました「スタンド・バイ・ユー」戸次重幸に聞く1
「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」
脚本 岡田惠和
演出 堤幸彦
出演 ミムラ 戸次重幸 真飛聖 モト冬樹 広岡由里子 馬場良馬 勝村政信
日比谷シアタークリエ 2015年1月12日~27日

貸別荘にやってきた2組の夫婦。藤沢ハルカ(ミムラ)と榊誠治(勝村政信)が買い出しに出かけたところ、大雪で帰れなくなってしまう。仕方なくホテルに泊まったふたりは、次第に意気投合していく。その頃、貸別荘に残された榊愛子(真飛聖)と藤沢英明(戸次重幸)は、元恋人同士で、焼け木杭に火がついてしまい……。はたして2組のカップルはどうなる???
http://www.toho.co.jp/stage/theatre_crea/


未婚の身として結婚の教訓を得ました「スタンド・バイ・ユー」戸次重幸に聞く1
とつぎ・しげゆき
1973年11月7日北海道生まれ。大学在学中に、大泉洋、安田顕たちとTEAM NACSを結成し、俳優活動をはじめる。舞台のみならずドラマや映画にもフィールドを広げ、劇団公演のほか客演も多数。近年の主な出演舞台作品に「こどもの一生」「モンティ・パイソンのスパマロット」「趣味の部屋」「WARRIOR~唄い続ける侍ロマン~」、一人芝居「ONE」など。自身で脚本を手がけることもある。2015年は「趣味の部屋」再演と劇団公演が控えている。