などなど、いろいろ書きました。今年5月に開催された「HEAT渋谷〜ゲーム会社合同セミナー〜」(主催:HEAT実行委員会)のレポです。
企業と学校と学生の新しい関係性を模索する本イベントで、7月の大阪開催を経て、12月19日に第3回目が渋谷に返ってきました。




会場のDeNA本社に集まったのは企業31社、学校11校、学生408人。企業ブース、学校ブースはポートレートや自分たちで作ったゲームをアピールする学生や、会社概要を説明する人事担当者、先輩社員などで終日にぎわっていました。
このHEAT、第1回目から数えると、のべ1000人の学生が参加したことになります。しかも、これがきっかけで約30名の内定者を輩出したとのこと。学生と企業の出会いの場所として、まずまずの成果が出たと言えるでしょう。
食品会社勤務を経てゲーム業界に再挑戦
家庭用・業務用・モバイルと幅広くゲーム開発を手がける、株式会社リズ(東京都中野区)。同社の新人ゲームデザイナーとして来年4月からの採用が決まり、現在は有給インターン(=入社前提のアルバイト)として働いている川西雄紀君もその一人です。

名古屋出身の26歳で、中部大学環境生物科学科を卒業後、食品関係の企業に就職。その後、改めてヒューマンアカデミー名古屋校ゲームカレッジに入学し、ゲームデザインについて学んだ「第二新卒」です。過去2回のHEATに参加した縁で採用に至りました。
第1回目のHEAT渋谷では学校ブースで出展した川西君。リズの磯野貴志社長も登壇したパネルディスカッション「社長トーク」を聞き、同社に関心をもったものの、名刺交換などには至らず、悔しい思いをしたと言います。
その後、学校で開催された作品講評会にリズ社員が訪問したことで、実際に話をする機会が得られました。さらに第2回目のHEAT関西に一般参加し、リズの企業ブースに足を運んだところ、その時の社員に再会できました。質疑応答を続けているうちに、気がついたら終了時刻に。帰宅後、すぐに同社に履歴書を送付し、社長面接を受けることになりました。

もっとも磯野氏いわく「線が細そうに見えたので、どうかなと思った」といいます。
磯野氏はゲームデザイナーに必用なのは「メンタルの強さ」だと語りました。新しいゲームの企画を考える、いわば「無から有を作り出す」仕事だけに、失敗やダメ出しは当たり前。ボコボコにされてもめげない、そんなタフさが必用だといいますが、今ひとつ面接で実感できなかったというんですね。
しかし、川西君を救ったのはHEATで話した先輩ゲームデザイナーでした。下記のような理由で磯野氏を説得。「そこまで推すなら・・・」ということで、内定となったのです。
・面接時に過去の就労体験談から仕事に対する誠実さを感じられた
・一定期間以上の就労経験があったため、一般的な社会常識があると感じた
・提出物からゲームに対する考え方に対して、ある程度の共感が得られた
・企画書の書き方や発想などから、一緒に仕事がやりやすいだろうと感じられた
企業が採用に慎重になる理由とは
いざ内定となると、腰が軽いのが中小企業の特徴。すぐに「いつから出社できる?」と連絡がありました。年齢的にも、一日でも早く就労したかった川西君は、すぐに上京を決意。今は会社から徒歩15分のマンションに住み、先輩社員のもとで大作ゲームの開発ラインについています。仕事が楽しくて仕方がないそうです。

ちなみに川西君はリズ以外にも、学校のデータベースを使って100社以上をリストアップし、30社近くに履歴書と企画書を送っていました。その中で、一番早くご縁があったのが同社だったというわけです。
もっとも、新卒で入った食品会社は、さほど苦労することなく内定が取れたとのこと。しかし、ゲーム業界への就職は、より明確な自己アピールが必用だったと語りました。
背景にあるのが、正社員に対する解雇リスクが極めて高い日本型雇用システムと、ゲーム業界の変化の早さ、そして会社自体が求める人材像を明確にできていないこと。特にゲームデザイナー職にはその傾向があります。だからこそ、企業も採用に対して慎重にならざるを得ないんですね。
実際、同社ではこのように新卒を通年採用しつつも、有給インターンと契約社員で合計1年間働いた後に、正社員に昇格させる仕組みをとっています。
もっともこれは一度正社員になったら、長く会社に勤めてもらいたいという、経営者の心情のあらわれでもあります。磯野氏も「中小企業にとって会社と正社員は一蓮托生。一緒に成長していきたいですね」と語りました。
就活用のメアドを作って欲しい
このように今回のポイントは、HEATを活用して先輩ゲームデザイナーとじっくり話をし、人となりをわかってもらったうえで、社長面接にのぞめたこと。これは企業にとっても、相応の採用コストがかかるということです。新卒に対して「可能性」という曖昧な指標を掲げざるを得ない以上、当然かもしれません。
そのためには通年にわたって、いろんなマッチングの機会があった方が良い。磯野氏もHEATに対して「おもしろい実験場になっているし、もっとこうした機会が増えて欲しい」と語ります。

なお、余談になりますが磯野氏から就活中の学生に対してアドバイスがありました。「就活専用のメールアドレスをPCのフリーメール(Gmailなど)で作ること。その際に自分の名字+任意の番号+ドメイン名(ono1234@gmail.comなど)にすること」がそれです。
磯野氏は「就職活動専用のメールアドレスを作ることで、学生にとっても企業にとっても管理コストが下がるのでは」と提案します。逆に携帯のキャリアメールはPCメールからのフィルタリングがかかっている場合があるので、できれば避けて欲しいとのこと。実際、学生に対するメール連絡が滞ることが少なくないそうです。
強引にまとめてしまいますが、未来のヒット作を作るのは学生の皆さんです。そのための方策や業界の入り方は一つじゃない。自分の頭で考えて、HEATをはじめとした、さまざまな機会を、うまく活用してもらいたいと思います。
(小野憲史)





