熊本にある日本一ちいさな航空会社


熊本県天草市を本拠地とする日本一ちいさな航空会社「天草エアライン」。親子イルカの塗装が施されたかわいらしい機体は、もしかしたらどこかの空港で見たことがある人もいるかもしれない。
「日本一ちいさな航空会社」は社員全員で機体を洗う
親子イルカの描かれた天草エアライン「みぞか号」。みぞかは天草弁で「かわいい」という意味


しかし、そんな機体のデザイン以上にインパクトがあるのが、天草エアラインの会社としてのストーリー。
約16年の社歴の中には、まさに奇跡ともいえる物語が秘められていたのだ。

倒産寸前から奇跡の復活!


日本で初めての第三セクター式航空会社として2000年に生まれた天草エアラインは、飛行機を一機しか保有していない。文字どおり、日本最小の航空会社である。

就航当初はもの珍しさもあって、「乗りたいのに予約がとれない」というほど好調だったが、3年目からは搭乗率が大幅に減少。ついに「債務超過寸前で、倒産は時間の問題……」というところまで追い込まれた。ところが、そこから奇跡の逆転劇がおこり、なんと5年連続黒字経営を果たす。

そんな奇跡までの道のりを書いた一冊が、『天草エアラインの奇跡。
』である。

「日本一ちいさな航空会社」は社員全員で機体を洗う
『天草エアラインの奇跡』(鳥海高太朗著/1400円税別)


大きな転機は、2009年に元JALの整備部門出身で成田の整備工場のトップも務めた奥島透氏を社長に迎えたこと。奥島氏は社長室の壁を社員の手で壊させるなど斬新な手法で改革を進め、全社員が新しいアイデアを出し合う社風を作り出していった。それが、奇跡ともいうべき復活につながったのだ。

本の著者は、年間100回以上飛行機に乗るという航空アナリストで帝京大学理工学部非常勤講師の鳥海高太朗さん。約1年半にわたる丁寧な取材により、まるで“中の人”かと思うほど描写が詳細。
同時にアナリストとしての冷静な視点もあり、当時の社内の雰囲気や状況が手にとるようによくわかる。

大手航空会社ではありえない光景


本を読んで一番驚いたのが、天草エアラインには大手航空会社ではありえないような光景があふれていること。たとえば、社員全員での機体洗浄もそのひとつ。

「月に一回、最初の便が飛ぶ前に、社員全員で機体を洗っているんですよ。整備の人はもちろん、客室乗務員、さらには社長や専務も。私も一度見学しましたが、とても和気あいあいとした雰囲気でした」(鳥海さん)

社員が57名(2016年3月時点)しかいないから、業務はマルチタスクが当たり前。社長みずから空港での荷物検査や機内への荷物運搬をすることもある。


1機しかない飛行機は現地で天候不良等による欠航などが起きないかぎり、毎晩天草空港に戻ってくる。オフィスには社長からパイロット、整備の人までみんなそろい、いつも顔を合わせているから、自然と一体感も強くなるようだ。

天草エアラインの魅力は機体と人


「私は福岡から乗ることが多いのですが、あのかわいらしいイルカの機体を見ると癒されるというか、これから天草にでかけるんだなという気分になれます」(鳥海さん)

今年2月には新機体「ATR 42-600」が導入された。親子イルカのデザインは変わらないが、機体の下には、くまモンがサンタになった「モンタクロース」が新たに描かれた。

「日本一ちいさな航空会社」は社員全員で機体を洗う
モンタクロース。天草は各国の公認サンタクロースが集まる「世界サンタクロース会議」開催地


「48人乗りなので、客室乗務員は1人だけ。フライト時間は福岡線でも35分と短いですが、そのあいだでできることを精いっぱいやろうという姿勢を感じます。機内誌は、客室乗務員の手作りで、天草の観光名所の紹介などに加え、客室乗務員の自己紹介文もあり、より身近に感じられますよ」(鳥海さん)

「日本一ちいさな航空会社」は社員全員で機体を洗う
客室乗務員は全員で5人。みなさん気さくで親しみやすい


熊本地震によって観光客が減少


そんな天草エアラインだが、いまは少し厳しい状況だ。
熊本地震以降、天草の観光客も大幅に減っているからだ。
「天草も大きく揺れましたが、建物の被害はまったくありませんでした。それでも熊本県ということで観光客はかなり減っているんです。いまは天草エアライン自身が、天草の観光を盛り上げていかないといけないときでもありますね」(鳥海さん)

1日に10フライト(天草―福岡間を3往復、天草―熊本間を1往復、熊本―大阪を1往復)飛んでいるから、時間がない人には福岡からの日帰りもおすすめ。往路は9:05福岡発・9:40天草着、復路は18:05天草発・18:40福岡着の便を使えば、一日たっぷり天草で遊べる。いまなら往復航空券とランチがセットになって8,500円(平日限定)という格安パックもある。


「魚はもちろん、肉もおいしい。教会めぐりもできるし、イルカウォッチングも気軽に楽しめます」(鳥海さん)

「日本一ちいさな航空会社」は社員全員で機体を洗う
かなりの高確率でイルカに出会える


日本の宝島といわれ、奇跡のように美しい天草を飛ぶ、天草エアラインの奇跡のストーリー。熊本を応援する意味でもぜひいま読みたい一冊だ。
(古屋江美子)