ベルリン日本人国際学校
海外では外国籍向けの子どもに対して、どのような教育がされているのだろうか。例えばドイツは、日本と比べ移民問題により直面している。
ドイツ外国人中央登録簿のデータによると、2016年にドイツに住む外国人はおよそ1千万人に到達した。ドイツの全人口のほぼ8%が、外国籍を持っていることになる。
日本の場合、在留外国人数は約238万人(2016年法務省統計)なので、ドイツの人口当たりの外国人の比率ははるかに高いことがわかる。ベルリンに限ればその割合はさらに大きくなり、市民の18%が外国籍を所有するという統計が発表されている。ドイツ国籍保持者だが、移民家庭に出自を持つ者も合わせると、実におよそ3分の1の市民が非ドイツ系だ。
このような人口構成の変化ゆえに、外国人のドイツ社会への統合は先延ばしにできない課題だ。しかし同時に、外国人の側から見ると、統合を果たしつつ自分たちの文化や言葉を、どのようにして維持するのかという問題も浮かび上がってくる。
日本への帰国を前提に教育する日本人学校
まずは、日本人を取り巻く状況を見てみよう。ベルリンには、日本語で日本のカリキュラムに沿った教育を行う全日制の小中学校が1校存在する。全日制の日本人学校としては、ドイツで4番目に設立された学校であり、今年で創立25周年を迎えた。
同校は、ベルリン市からの認可を受けた学校であると同時に、日本の文部科学省からの認可も受けている。したがって、ここで受ける教育は、基本的に日本において受ける教育と同等だ。日本の学習要領に沿った内容に加えて、英語やドイツ語の時間が設けられている。
当然ながら、この中等課程を卒業すれば日本の高校に進学できる。
事実、学校のウェブサイトには「卒業生の半数以上は有名国私立高校に進学する」と書かれており、少なくない割合の児童・生徒が日本に帰国することがうかがえる。つまり、ここでの教育はドイツ社会への積極的な統合というよりも、子どもたちが卒業後に日本で進学する際に、ズレが生じないようにということに重きが置かれている。彼らが日本に帰国するということが念頭にあるのだ。
ドイツで暮らすことを前提とするトルコ人学校
対して、トルコ人学校はどのような制度だろうか。在独外国人の中でもっとも大きなグループがトルコ人だ。そのトルコ人学校は日本人学校と目的が変わる。
ベルリン・トルコ人学校
彼らがドイツに移住するようになったきっかけは、1961年に、労働力の不足に悩む西ドイツ政府と高い失業率にあえぐトルコ政府が、労働力の輸出入に関する協定を結んだことにさかのぼる。1973年にその協定が失効してからは、家族を呼び寄せる制度で、労働者の妻や子どもたちのドイツへの移住が増え、現在のトルコ人コミュニティーの基礎が築かれた。
しかし意外なことに、トルコ人学校は長らく存在しなかったのだ。トルコ人学校の設立は2002年以降に急速に進められるのだが、その要因は2000年に実施された学習到達度調査(PISA)の結果にあった。
他の先進国では、移住先の国にいる時間が長ければ長いほど、移民家庭出身の子どもの成績は良くなる傾向にあったのだが、ドイツではその逆の結果が見られた。また、ドイツ人家庭出身の子どもと移民家庭出身の子どもの進学率の比較を見ると、ドイツ人家庭出身者の方が、移民家庭出身者よりもギムナジウム(進学を目指す高等教育機関)に進学する割合が圧倒的に高かった。
これに危機感を抱いた保護者が立ち上がり、トルコ人学校の設立が始まったのだ。
今ではドイツに5校ほどトルコ人学校があり、いずれも国から私立校として認可されて助成金が給付されている。トルコ人学校の成績・卒業資格もドイツの学校のそれと同等に扱われる。
将来どこの国で暮らすのかで変わる教育内容
ここで注目すべきは、トルコ人学校は決してトルコ人の子女にだけ門戸が開かれているわけではないということだ。トルコ人学校にはドイツ人も通うことができる。実際にベルリンのトルコ人学校にはドイツ人の生徒も通学しており、子どもをトルコ人学校に預けるドイツ人家庭の親は「クラスの規模が小規模であること」「優秀な教師がそろっていること」などを理由に挙げる。
さらにトルコ人学校では、トルコ語の授業はあるものの、その他の授業はドイツ語で行われる。この点もドイツ語ではなく、日本語を主として進められる日本人学校との大きな違いであろう。トルコ人学校の生徒の大多数は、今後もドイツで生きていく。そのために必要なものは、何と言ってもドイツ語なのだ。上述の学習到達度調査でも、現地語がどれだけできるかということが、学習能力を高めるための大きな鍵だと証明されている。トルコ人学校が見据えているのは、子どもたちにトルコ本国と同じ教育をほどこすことではなく、子どもたちがトルコという自分の出自を学びながら、ドイツで生きていく力を養うことだ。
外国で言葉や文化を維持することは容易ではない。そのやり方も幾通りもあるだろう。しかし、それぞれのグループが、子どもたちの将来を考えて奮闘する姿勢は共通しているのだ。
(田中史一)
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