
宮沢(役所広司)の思いつきでランニングシューズ「陸王」を開発したこはぜ屋だったが、シューズづくりに欠かせないソール「シルクレイ」の製造装置が壊れてしまった。復旧にかかる費用は1億円。製品が作れないから利益は出ず、チーム「陸王」として契約した飯山(寺尾聰)や村野(市川右團次)らの人件費がかさむばかり。銀行からも見放され、老舗の零細企業であるこはぜ屋の命運は尽きかけていた。何より宮沢の心が折れかけていた。
「チーム『陸王』は解散だ……!」
1億円、会社売却……課題山積み!
「俺に雇われ社長になれっていうのか? 親父や爺さんが必死で守り抜いたこのこはぜ屋を他人に売り渡して、俺はどんな顔して墓に手合わせりゃいいんだよ?」
「このこはぜ屋を、他人に渡すくらいなら、元の足袋屋に戻ったほうがマシだ!」
いつも親身な坂本ちゃん(風間俊介)の提案は、こはぜ屋の売却だった。世界的アウトドア企業のFelixが「シルクレイ」に興味を持っているという。このFelixの社長が松岡修造演じる御園丈治というわけだ。しかし、宮沢は坂本ちゃんを矢継ぎ早に罵倒する。
宮沢の頭には会社を売るなんて考えは一ミリもない。「親父」も「爺さん」も「墓」も経営にはまったく関係ないのだが、宮沢の中では大きな存在を占めているようだ。家でも宮沢は会社の売却について大地(山崎賢人)と言い争うが、2人の背後には亡くなった先代夫婦(宮沢の両親)の顔写真が掲げてあった。
そんな折、椋鳩通運の江幡(天野義久)がやってきて、行田市民駅伝大会へ「チーム陸王」で出場することを提案する。
一方、茂木(竹内涼真)は、豊橋国際マラソンへの出場を監督の城戸(音尾琢真)に直訴する。茂木にとって豊橋は怪我をした因縁のレース。ライバルの毛塚(佐野岳)も出場する。茂木にとってはリベンジだ。「リベンジ」という言葉をやすやすと使わない脚本が上品だと思う。
こうして課題が出揃った。1億円の調達、会社の買収、豊橋国際マラソンだ。だけど、その前にチーム「陸王」の解散問題をなんとかしなきゃいけない。そのために必要なのは行田市民駅伝だ!
坂本ちゃん、酸欠のアヒルのように激走!
茂木のもとを訪れた宮沢は涙を流して頭を下げる。もう「陸王」は作れない。
「あいつらは今でも、走ることが生きることなんだよ! そんな選手たちの気持ちを、あんた本当にわかってたのか?」
宮沢はこれまで、自分の会社の事情を選手たちに押し付けてきた。「陸王」を履いてほしいから履いてもらい、「陸王」が作れなくなったから諦めてもらう。はたして自分は「選手たちの気持ち」を考えたことがあったのか……? そこで宮沢は、こはぜ屋の面々に行田市民駅伝への出場を提案する。「選手たちの気持ち」を知るためでもあるし、現実逃避でもあるだろう。
「みんな苦しい中、ここまでどうにかやってきたんだ。一つぐらい前向きなことがあったっていいじゃないか」
練習を始めるチーム「陸王」。メンバーは宮沢、大地、江幡、安田(内村遙)、あけみさん(阿川泰子)、美咲(吉谷彩子)だ。ところがレース直前に安田が怪我! 「バカだねぇ、お前は。こんなになるまで我慢して……」と怪我したことを責めない宮沢がさりげなく優しい。しかし、このままでは棄権するしかない。
「当たり前ですよ。だって、みんな、チーム『陸王』じゃないですか……」
駅伝のくだりは全部、原作小説にはないオリジナルのエピソードだ。ランニングシューズの話で、チームの結束を高めるために駅伝とは理にかなっている。一見、課題の解決には役に立っていなさそうなのだが、『陸王』は経営者の斬新なアイデアによる企業再生ストーリーではなく、社員一人一人の物語であることを強調しているのだ。ちなみに行田市では「“浮き城のまち行田”駅伝競争大会」が実際に行われている。先日行われた61回大会には「団本部 指揮班 こはぜ組」というチームが出場した(結果は11位)。
「酸欠のアヒル」(by 飯山)のようなすさまじい走り方の坂本ちゃんの頑張りもあって、10位をキープするチーム「陸王」。宮沢も力走を見せるが、怪我をした他のチームのランナーを助けて大幅にタイムを落す。泣けるエピソード、盛ってくるなぁ……。そしてタスキが父・宮沢から子・大地へと受け渡される。
代々受け継いできた会社を息子に継がせないことを決めたのは宮沢だ。しかし、「陸王」に賭ける父親の姿を見て、息子はいつの間にかチームの一員として懸命に働くようになっていた。タスキはこうやって自然に、全力で、受け継がれるものなのだろう。
まったく表情が変わらないサイボーグ修造
第7話で溜めに溜めてラストで登場した御園丈治だが、第8話でもなかなか登場しなかった。これはドラマでの本格的な演技初挑戦の松岡修造を慮ってのことか? と思ったが、終盤に登場した松岡の芝居はなかなかのもの。長ゼリフはさすがにたどたどしい部分もあったけどね……。まっすぐな目線とソフトな口調で次々と好条件を繰り出す御園。出資額は3億!
一方、アトランティスの小原(ピエール瀧)は復調した茂木にあらためて手厚いサポートを持ちかける。さらに、規模を縮小しようとしているダイワ食品陸上部への出資をしてもいいと話す小原。
Felixとアトランティスがやっていることは同じだ。自らのビジネスに利用するため、困っている相手に好条件を出して釣り上げようとする。規模の大きなビジネスは、人間性や好意だけではできない。
(大山くまお)