『エール』第21週「夢のつづきに」 102回〈11月3日(火) 放送 作:清水友佳子、演出:橋爪紳一朗、小林直穀〉

『エール』娘の華を悩ませる音 なぜこういうキャラになったのか、最近の音を考察
イラスト/おうか

二階堂ふみが紅白の司会に

裕一(窪田正孝)のベストパートナー・を演じている二階堂ふみが、暮れの紅白歌合戦の紅組司会者に決まった。音楽の祭典に音楽をテーマにしたドラマのヒロインをやった俳優が選ばれることは妥当だろう。ドラマは11月中に終了するが、年末まで『エール』の熱気は続きそう。


【前話レビュー】静かな時代の転調を登場人物の男女の関係性で見せた意欲的な週のはじまり

ちなみに総合司会は内村光良(『なつぞら』でヒロインの父&ナレーション)、白組司会は大泉洋(『まれ』でヒロインの父。『なつぞら』にもゲスト出演)で、朝ドラ俳優大集合である。

タイミングよく音が活躍する週

今週の『エール』はちょうど音が保留にしていた夢に再挑戦しているターン。でも夢をかなえるのは簡単ではなく――。

裕一が風邪を引いて倒れる。まさか看病のために最終オーディションを諦める展開? と思ったら、娘・華(古川琴音)がおかゆなど作ってかいがいしく看病。だがしかし、帰ってきた音は、私が看病するととりあげてしまう。

親が強すぎると子供が抑圧されてしまうことがある。すべてがそうとは限らないが、華はそのパターンにはまってしまっている。
父が有名な音楽家、母もオペラのヒロインを目指している。ほのかに好きな渉くん(伊藤あさひ)までお父さんに夢中。

家庭は裕福で何不自由ないが、幼い頃に、母が自分を生み育てるために夢を諦めたと聞いたことが心にとげのように刺さったまま抜けない。音からは華を選んだと言われたとはいえ、自分に気を使ってのことではないかと思い、自分なりに家事を手伝おうとするも、音がそれをさせてくれないことが悩みのタネ。


「音はカッコいい」と裕一は妻をべた褒め、「やりたいことがあったらどんどんがんばってね」と音は華の気持ちに気づかない。そんな父母はやたらと仲良くて、華は苛立つばかり。

子供ができると夫婦ではなく父母になり、子供のために生きるようになると俗に言う。それもどうかと思うが、裕一と音のようにいつまでも恋人のような感じも見ていてもやもやする。「華の気持ちに気づかないなんて、母親失格ね」と裕一に反省を述べているときも手をつないでラブラブだった。そこを華は目撃してないけれど、もし見たら子供としてはたまらないのではないか。

行き場のない華に味方が――

華が頼るのは叔母の吟(松井玲奈)。吟は、関内家三姉妹、吟、音、梅(森七菜)のなかで、手に職をもって社会に出るのではなく、お嫁さんになろうと考えていた。やがて音楽や文学の道に進んだ妹たちにコンプレックスを感じるようになってしまう。だからこそ吟は華を受け入れることができる。華も吟といると楽そうだ。

最近の吟はおだやかでやさしい。梅が彼女の家は「息が詰まる」と言っていたことが嘘のよう。
いま、女性が社会に出ていく時代になってきたが、「でも…人それぞれだと思うのよね」「普通の日常のなかに転がっていると思うのよね。人の話を聞くのがうまいとか、家事の手際がいいとか」と吟は言う。

ちょうど101回で、男女の関係の変化を画で見せていたので、説得力がある。脚本と演出の良い連携。そして、吟に華が話を聞いてもらっているとき、裕一と音は手を握り合っている皮肉めいた流れもいい。

101回で吟は華を横に並ばせて一緒に鬼まんじゅうを作っていた。これこそが麗しき母娘の姿である。

『エール』娘の華を悩ませる音 なぜこういうキャラになったのか、最近の音を考察
写真提供/NHK

音はなぜ、こういうキャラなのか。最近の音を考察

なぜ音は娘と一緒に家事をやろうと思わないのだろう。そうしないとドラマが盛り上がらないという現実問題はさておき、音はあまりにも視野が狭く感じられる。

戦争がはじまったあたりから、音はすっかり静かになった。昔は声も動作も大きく、よくいえば積極的、悪くいえばうるさい。
だが、戦争になると、すっかり口調が抑制されて丁寧語になった。年をとった表現とはいえ、むしろ、年をとるともっとずけずけとした物言いをするようになる人もいる。いわゆるおばちゃん化である。

音がおばちゃん化しないわけは、自分を律していると考えるとすっきりする。著名な音楽家の妻として、上品であらねばと思っているのではないか。出産、育児のために音楽の夢をあきらめ、長いこと家事に専念してきたのも自分をそう律していた。

こうあらねばと思うとその1点しか見えない人・それが音。家事も夢も両立させると思うあまり、華から家事を奪ってしまうのである。

『エール』で描くのは、仕事と家事の二項対立でも、両立でもない

華も華で、家事をやろうと思うことや、音楽に興味がないことは、自分のせいで母親の人生を変えてしまったという思い込みにとらわれている可能性もある。音が、華に家事をやらせていたら、じつは華は無理して家事をしていた……という可能性もある。

ここで抑えておきたいのは、音も、華も、世間一般の「こうあるべき」という型に自分をはめてしまいそうになっていることである。重要なのは、いかにそこから抜け出して、自分のやりたいことを見つけられるか。

これまでの朝ドラは、女性が、仕事をする or 家事をする or 両立する という選択を描いてきた。
『エール』ではそこから一歩踏み出し、カテゴリーそのものを外し、真の自由に視点が注がれている。戦争に踏み込んだことで話題になったインパール編にしても、朝ドラでは戦場や人が銃で撃たれて死ぬ場面を描かない、とくに最近はエグい描写は自主規制という前提から解き放たれようという意志ではなかったか。

地獄の閻魔さま・橋本じゅんがいた

最終オーディション、審査員には千鶴子さん(小南満祐子)がいる。その並びに、見たことある顔が。12週の特別編「父、帰る。」で光石研を地上に戻した閻魔大王役だった橋本じゅんである。閻魔様も地上にやってきた? ドッペルゲンガー。ちゃんと駒込英治という役名がついている。これもまた、同じドラマで同じ俳優が違う役をやることはないという先入観から解き放たれてかなり自由である。
(木俣冬)

【100話レビュー】未来をつくろう――久志(山崎育三郎)の歌う「栄冠は君に輝く」がすべての人達をひとつに
【99話レビュー】久志を苦しめる「戦犯」と呼ばれたトラウマ 「戦時歌謡」とはなにか
【98話レビュー】終わってもなお人々の人生に暗い影を落とす戦争 裕一の音楽は久志を救うことができるのか

■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松井玲奈(関内吟役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仲里依紗(梶取恵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■野間口徹(梶取保役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川雄大(御手洗清太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■広岡由里子(ベルトーマス羽生役)プロフィール・出演作品・ニュース
■伊藤あさひ(竹中渉役)プロフィール・出演作品・ニュース
■小南満佑子(夏目千鶴子役)プロフィール・出演作品・ニュース

■橋本じゅん(駒込英治役)プロフィール・出演作品・ニュース


※次回103話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。

【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan

『エール』娘の華を悩ませる音 なぜこういうキャラになったのか、最近の音を考察
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
編集部おすすめ