『おちょやん』第5週「女優になります」

第23回〈1月6日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』朝ドラヒロインなのに昼過ぎまで寝てるって! だがそんな日もある、悪くないだろう
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

高瀬アナの衝撃の過去

『おはよう日本関東版』の高瀬アナが『おちょやん』の千代(杉咲花)22話で詐欺にあったことを受けて語った、時代劇に誘われたけど「目と眉毛だけ見て言ってるんだろうなと思って真剣には受け止めませんでした」という思い出話が衝撃的だった。時代劇に誘われたことがあるとは……。高瀬アナは林遣都に似てる説もあるくらいだし、二枚目であることは確か。


【前話レビュー】千代のモデル・浪花千栄子をいま一度復習

昼過ぎまで寝ている朝ドラヒロイン、画期的

女優詐欺にあって以来、一週間、千代は朝、起きられず、昼まで寝る毎日を送っていた。

18年生きてきて、朝、こんなにのんびりしたことは初めて。「なんや、うち、いま、楽ちんいうことやな」と起き抜けのぼさぼさの髪とすっぴんでのんきにコーヒーを飲む千代。

昼まで寝ている朝ドラヒロインは珍しい。朝ドラヒロインは働き者で、朝早く起きて笑顔で働くというのがデフォルトだ。千代のこの、することがなくて、無気力な描写は画期的である。でも人生にはこういうこともあるものだ。

コーヒーを飲むことも初めてなのでは。大阪道頓堀の芝居茶屋「岡安」時代、コーヒーを飲んだことはあったのだろうか。この堂に入った感じを見ているとコーヒーは飲み慣れているようでもある。ただし、コーヒータイムは決して優雅なものでなく、監督こと店長(西村和彦)はコーヒー代もチップから徴収すると容赦ない。

監督は、起きる理由のない状態の千代に「人生は思うよりあっちゅう間やで」とさらりと重要なことを言う。命短し、なんとやら、である。


『おちょやん』朝ドラヒロインなのに昼過ぎまで寝てるって! だがそんな日もある、悪くないだろう
写真提供/NHK

千代、悔しがる

カフェー・キネマは、女優と飲む店がコンセプト。自称女優だが売れてはいない洋子(阿部純子)や、女優志望の真理(吉川愛)など、女優予備軍のような女性が働いている。

ふたりは仕事の合間に、撮影所の試験を受けていて、このたび、合格。それを聞いた千代は、なんだか塞いでしまい、接客が手につかない。22話で、千代がみごとにあしらった原という客が今度こそ千代の手か太ももに触れようとするプレイを仕掛けても心ここにあらず。「握られるんのもええなあ」がおかしかった。

お客さんを見送った千代は、ふいに「このあかんたれ」と柄の悪い調子で自分をどやしつけ、驚いたカフェーの人たちの前で「女優になります」宣言をする。ずっともやもやしていたのは、洋子や真理が羨ましかったのだと、素直に明かすのだった。


監督や、ボーイの平田六郎(満腹満)をはじめ、純子(浅見心)京子(めがね)や洋子は呆れるばかり。ただひとり真理は同じ志を持つ者として千代を歓迎する。

『おちょやん』朝ドラヒロインなのに昼過ぎまで寝てるって! だがそんな日もある、悪くないだろう
写真提供/NHK

唐突にやる気になる千代

これまで自分でもはっきりしなかった演劇への思いが、洋子や真理に刺激を受けてむくむくもたげてきたのだろう。思いの丈を長台詞で語ったのち、「女優になりたい。いや、なります」と宣言。

「こっからがうちのほんまの船出や」

そこで監督がカメラ目線で「本番!」と言う。
さあ、ここからが『おちょやん』本番である。ここで「つづく」になりそうで――ならなかった。ここまで10分ほど。まだ3分の2である。

さっそく千代は、撮影所のえらい人に会いに行くが、入れてもらえない。何度も何度も挑むが、浅はかに、がむしゃらに、守衛(渋谷天外)の目をくぐり抜けようとするだけなので、毎回、阻止されてしまう。監督たちも笑うばかりで教えてくれない。知らないわけもないだろう、教えてあげてよ〜と思うが、そこはドラマ。

ハゲヅラで変装までして体当たりしていく千代。ほげたが得意な千代なら、ここは口で丸め込んでほしかった。でもうまくいかないのは、ほかに道があるということ。うまくいかないで悩んでいるところ、真理が、山村千鳥一座の劇団員募集のチラシを持ってきた。
京都は新京極へ試験を受けに行くと、そこの座長・山村千鳥(若村麻由美)はなんか怖そうで……。

女優・高城百合子役の井川遥に、若村麻由美って『半分、青い。』ですネ。井川遥は舞台出演経験がさほどないが、若村麻由美は仲代達矢主宰の無名塾出身で、バリバリの舞台俳優。菊田一夫演劇賞(菊田は『エール』の池田のモデルだった人)も獲っている。千代を俳優として鍛える役にふさわしい存在だ。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■阿部純子(若崎洋子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ヨシダ朝(黒木社長役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井川遥(高城百合子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ)プロフィール・出演作品・ニュース
■杉森大祐プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天外(守衛・守屋役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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