『おかえりモネ』第4週「みーちゃんとカキ」

第17回〈6月8日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』新次(浅野忠信)・亮(永瀬廉)の歌舞伎町みたいな父子が嵐を起こしそうな第17回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

「(亮の)顔……前と全然違うんだもん」
進路に迷う百音(清原果耶)三生(前田航基)は、進路を見極めたようにしっかりして見える未知(蒔田彩珠)亮(永瀬廉)と比べて途方に暮れる。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第17回掲載中)

だが、百音は、父・耕治(内野聖陽)が言う「風」や、祖父・龍己(藤竜也)の語る「木」に敏感になっていた。今まで、何気なく過ごしていたものが百音の心に引っかかる。
何かが見えそうな気配が漂っている。

三生、居候する

『おかえりモネ』の登場人物は皆、堅実である。歴史ある寺を継いで坊主になりたくないと反抗して金髪にしている三生も、グレてだらしない生活をしているわけではなく、親に高い学費を出してもらいながら坊主の道を選びきれない自分を責めている。彼は迷いなく漁師をやっている亮や、高校生にもかかわらず本格的なカキの自由研究を粛々と行っている未知を尊敬のまなざしで見ている。

そんな真面目な話を語るのは、海の前。百音の家の裏はもう海、そして向こうは山。空と海と山を見ながら、若者たちは何をしたいのか、するべきなのか迷う。

百音と三生のまったりした時間を壊すのは耕治。「おまえら! 何しっぽりやってんだ」と百音と三生の仲を裂き、バーベキューの準備をはじめる。

「日が暮れたら、風は全部町の方向から吹くだろ」と当たり前のように言う耕治の話を聞いて「風」に思いを致す百音。薪を取りに行くと、木の種類が百音にはわかるようになっていた。

そこへ龍己がやって来て、彼もまた木の種類に詳しい。漁師と木の関係、ひいては山の関係を聞いた百音は実感する。
子供のときに祖父から何気なく聞いた「山は海とつながってるんだ」とか「な〜んも関係もないように見えるもんが何かの役に立つことは世の中にいっぺえあるんだよ」という言葉がようやくお腹に落ちてきた。そのとき、百音は木の香りを嗅いでいる。海の香りや波や風の音、木の香りが百音の感性を刺激している。

それぞれの言葉の重み

藤竜也のイメージは昭和時代、任侠ものやバイオレンスもので活躍していたカッコいい俳優。高級老人ホームのドラマ『やすらぎの郷』で、年をとってもダンディで美学があって、他者にはカッコ悪いところを絶対に見せない役を演じていたが、その役のようなイメージがある。

だからこの、一時はマグロ漁船に乗り、その後はカキ養殖一筋、海に生きる人物の男気みたいなものが溢れている。見た目のカッコよさ渋さのみならず、木の話、山と海の話をするときの説得力。カラダに染み付いているように言葉を話す。目の前の自然の一部のようで素敵だった。

龍己やサヤカ(夏木マリ)はちょっとカッコいいセリフを言う。耕治や亜哉子(鈴木京香)はまだそこに到達していなくて素朴。とりわけ亜哉子は、「このお弁当箱、ホントめんこいねえ」とか、「(耕治は)もう、音の出るものが好きねえ」とか素朴。

『おかえりモネ』新次(浅野忠信)・亮(永瀬廉)の歌舞伎町みたいな父子が嵐を起こしそうな第17回
写真提供/NHK


『おかえりモネ』新次(浅野忠信)・亮(永瀬廉)の歌舞伎町みたいな父子が嵐を起こしそうな第17回
写真提供/NHK

こういうのを見ていると本来、家族の会話ってドラマみたいに気の利いたことを矢継ぎ早に言わないものだなあと思う。
百音に至っては言葉数が少ない。まだ語る言葉すら持っていないのである。三生の「俺の中の後藤三生が今全力で叫んでるわけよ」なんて借りてきたような言葉でしかない。彼らはこれから言葉を持っていくのであろう。

作家の冴えたボキャブラリーを全キャラにまんべんなく投入することなく、ひとりひとりの属性に合ったセリフを書いているような気配りが『おかえりモネ』にはある。

「朝早いのに」と百音、「昼寝もできねえ」と龍己。いったい、何時なのか。「日が暮れたら」と耕治が言って、バーベキュー自体は夜、やっていた。朝から張り切ってバーベキューの準備をして、その後、午後は何をしていたんだろう……。勉強? 手伝い? 運動? それはともかく、カキが美味しそうだった。時間があり余る夏休みの時間は、悠久の地球の歴史に比べたら短い。

歌舞伎町みたいな父子

迷いないように見える亮だったが、実はそうでもないようで……。のんだくれた父・新次(浅野忠信)を介抱している様子を耕治が目撃してしまう。
『あさイチ』では大吉が「舞台が一気に新宿歌舞伎町に」と言ってSNSを賑わした。いいドラマなのだが、ちょっとまったりしているので、及川父子に嵐を起こしていただきたい。
(木俣冬)



※『おかえりモネ』第18回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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