『コントが始まる』は次なるステージの準備の時間、人生の「客入れ」の時を描いている
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

次回いよいよマクベス解散、そして最終回『コントが始まる』第9話

『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)第9話はラス前。いよいよ来週、最終回。マクベス解散が間近で、里穂子(有村架純)の働くファミレスにマクベス3人として集まるのも最後になった。
夜明けまでだらだらと語り合い、帰り際、里穂子に礼を言う場面はまるで卒業式のようで、染みた。

【前話レビュー】『コントが始まる』第8話 マクベスのマネージャー楠木、つむぎの想いに涙

解散は哀しいけれど、皆は少しずつ新しい世界に向かっている。興味深いのは、解散して空白期間があるのではなくて、ほぼみんな、次のことが先に決まっていくことである。

いつもの冒頭のコントは「結婚の挨拶」。この動画をスマホで観ているのは春斗(菅田将暉)の兄・俊春(毎熊克哉)で、ようやく社会復帰した。潤平(仲野太賀)は家の酒屋を継ぎ、瞬太(神木隆之介)は焼き鳥屋「ボギーパット」で働くかと思いきや、世界を股にかけた冒険王になると言う。里穂子とつむぎ(古川琴音)は就職した。

会社を辞める前に次の就職先を決めるような準備のいい人もいれば、しばらくの空白を経て動きだす人もいる。また、空白になるのか何かはじめるかもわからない人もいる。つまり、『コントが始まる』は次なるステージへの準備の時間を描いているのである。それはコント――ステージが始まる前、客席でわくわくして待つ時間――「客入れ」のような時間。『コントが始まる』は人生の「客入れ」の時間を描いている。


幕が開くのを待つ時間には過去を思い返すことなんかもあって、潤平は高校時代、奈津美(芳根京子)と付き合っていたことで一方的に距離をとっていた小林勇馬(浅香航大)をボギーパットに呼んで飲むことにする。一度、勇馬がマクベスに仕事を依頼した時、見下されているように感じて断った春斗だが、そんなもやもやも晴れて4人は楽しく語らう。高校から今の空白の時間が埋まった。

敗者なんていない

酒屋を継いだ潤平は晴れて、奈津美の父(でんでん)に挨拶に行く。いきなり結婚ではなく、真剣に交際している挨拶で、最初は機嫌が悪かったお父さんも潤平の真面目な挨拶と持ってきた酒を気に入る。お父さんの車のナンバーが「723」であったことで盛り上がる。

その頃、春斗と瞬太は真壁先生(鈴木浩介)にバーベキューに誘われ、肉にありついている。ここでチェックしたいのは、行きつけの中華料理店やボギーパットの焼き鳥や節約自炊・焼き肉味のもやし以外の、鮭とば、美味しい焼肉等、これまで縁のなかった食べ物を3人が食べていること。これもひとつの世界が変わっていく象徴であろう。

さて、まだ行く道の決まらない春斗は、引きこもりから社会復帰した兄が、かつての華やかな勤め先とは違う地道な勤め先でやり直している理由として「まわりの大切な人を満足させてみようと切り替えた」のだと聞く。兄は「人生休むのもあながち悪いことじゃないぞ」とも言う。

真壁の息子は、マクベスを辞めることは「負け」や「失敗」ではないかと問いかけ、春斗は「そうか、俺たちは負けたのか」と思う。「難しいね、負けても失敗じゃないって」と真壁の息子は言う。


瞬太は「俺は勝ってるって思ってるけどね」と強気である。「人間関係をいくつ築けたかっていうのが人生の勝敗を決める」と彼は考えていた。でも「それは別の競技のような気がする」と春斗。ふたりは日が暮れて火を焚きながらまったりと語りあう。

『コントが始まる』は次なるステージの準備の時間、人生の「客入れ」の時を描いている
最終回は6月19日放送。画像は番組サイトより

瞬平は高校の時、屋上で死のうとしたのを助けてくれた春斗に感謝して、春斗と共に笑いをやっていこうと思った。身近の誰かのために生きることは、兄の考えと同じだと感じる春斗。その道のトップに立てずとも大きな仕事ができずとも、身近の誰かと良い関係を築くこと。その尊さもわかりつつ、春斗だけはまだ迷っているように見える。

自分たちは敗者なのか。そんなふうに思いたくない時、真壁の息子が歯医者に行ったら休みだったと帰って来る。敗者と歯医者を賭けて、敗者であると決めるには未だ早いという意味のようにも思えなくない。コント「結婚の挨拶」で「敗者なんていません。
敗者なんていないんです」と春斗は叫ぶ。

失敗した時、敗者と思ってしまうと動けなくなる。自分を敗者だと思わなくなることで次に進めるのではないだろうか。コントの中で「お前も最後までよく頑張ったな」「あんたも立派な勝者だよ」と潤平と瞬太は春斗の腕を掲げる。これまで春斗が主人公のようで主人公に見えなかったけれど(群像劇だから)、ここへ来て、『コントが始まる』は最後までひとり鬱々として先が考えられない春斗の「客入れの時間」であったことがわかってくる。自分のやって来たことの真価を正しく知ることで、人は次に進める。

中華料理店の6人の会話、喫茶店での兄と春斗の会話、ボギーパットでの高校の同級生同士の会話(施し癖とか前世殿様、先祖殿様とか)、火を見ながら語る春斗と瞬太などのただただ自然な会話が良かった。
(木俣冬)

▼第1話〜最新話まで全話&スペシャルコンテンツ「マクベスの23時~皆様の質問に本当に答えます~」配信中
Huluで『コントが始まる』を観る<2週間無料お試し>
【関連レビュー】春斗、瞬太、潤平、里穂子、つむぎ 『コントが始まる』の登場人物たちは人生を軽やかに謳歌しない
【関連レビュー】『コントが始まる』第6話 衝突し崩壊を避けられなくなったマクベスの3人に悲しみが募る
【関連レビュー】『コントが始まる』第5話 衝突し崩壊を避けられなくなったマクベスの3人に悲しみが募る

※最終回のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

日本テレビ系
『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜

出演:菅田将暉 有村架純 仲野太賀 古川琴音 神木隆之介
芳根京子 伊武雅刀 鈴木浩介 松田ゆう姫 明日海りお 小野莉奈 米倉れいあ

脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)

制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ